南野拓実を卓越させる、「目」。なぜ、彼は得点を量産できるのか
日本代表プレーヤーフォーカス#2
森保一監督の下、3連勝を飾った日本代表。チームとしては順調なスタートを切った中、選手たちは新体制での居場所をつかむべく必死に戦っている。ロシアでの経験を糧にさらなる飛躍を期す者から、新たに代表に名を連ねチャンスをうかがう者まで。プレーヤーたちのストーリーやパフォーマンスにスポットライトを当てる。
「こんなものじゃ満足できない」
目が、いい。
2018年10月16日、ウルグアイ戦後のミックスゾーンで南野拓実のコメントをとった。たまたま最前列にいたので1mほどの距離で南野の表情を見ていたのだが、言葉よりも目が印象に残った。
この日の南野は、南米の強豪を撃破する立役者となった。
10分、中島翔哉からのパスを受けると、百戦錬磨のDFゴディンを鮮やかなターンでかわし、ゴールにねじ込んだ。66分には、堂安律が放ったシュートのこぼれ球を詰めて2点目を決めている。
森保ジャパンでは3戦連発4ゴール。大きなアピールになったのは間違いないだろう。しかし、南野に浮かれた様子はまったく感じられなかった。ミックスゾーンでは新エースの言葉を引き出そうとする質問が矢継ぎ早に飛んだ。
――「まだ何も成し遂げていない」という話をしていたけど、今日の2ゴールで多少は成し遂げた感はある?
南野「いや、ないですね。公式の大会で何かしないと何も意味がないと思いますし、だから僕としてはW杯を戦ったメンバーにはすごいリスペクトがある。とはいえ、W杯で戦った選手たちをおびやかす、そういう存在になっていかないといけないとは思います」
――これだけの結果を残せた要因は?
南野「代表に選ばれていない時でも、自分を信じて、しっかり向こうで、自分は成長できているという手ごたえはあったので。変に焦ることなく、しっかり、積み重ねて来れたのがよかったかなと思います。でも、まだまだアジアカップもどうなるかわからないですし、そこに行けるように、満足せず、次に選ばれるようにチームに帰ってイチからアピールしたいと思います」
――この先、代表でどういった存在になっていきたい?
「それはまだ早いですね。まずは次に選ばれることに集中したいし、その先のことをあんまり考えたくないというか。まだチームに帰ってレギュラー争いも待っているし、そこでまた結果を残さないと代表はないと思うんで、また地に足をつけて頑張りたいと思います」
――俺がエースだという手ごたえは?
「まったく、まだまだ、そんなことは思ってないです。まだ全然、まだまだこれからですね」
どんな質問をされても、南野は「まだまだ」と繰り返した。それが心の底から出ているものだというのは、目を見ればわかった。こんなものじゃ満足できないというギラギラ感があった。
欧州移籍後、ゴールに対して貪欲に
「目で決めた」
かつて、フィリップ・トルシエ監督は、日本代表歴がなかった鈴木隆行をコンフェデレーションズカップで先発に抜擢した理由をこう語ったことがある。もちろん、それだけではないのだが、決め手は「目」だと。
もちろん、どんなに良い目をしていても、技術が伴っていなければこれほどの活躍はできない。もともと、日本代表のアンダー世代でエースだった南野には、ドリブルで運んでいく推進力や、1発のターンで相手をかわすテクニックがあった。
ただ、セレッソ時代の南野はサイドで起用されるなど、ドリブルもパスもできる万能型アタッカーのイメージが強かった。ゴールを決めることに貪欲になったのは欧州移籍後だという。
2015年、南野は19歳でオーストリアのレッドブル・ザルツブルクに移籍している。すでに4年半。欧州では、ゴールやアシストといった結果が何よりも求められることを痛いほど感じてきた。たとえ、1試合良かったとしても、次の試合で結果を出せなければ評価されない――。
ゴール数を見れば、それは明らかだ。Jリーグでは62試合に出場して7ゴール。およそ9試合で1点ペースだったのに対して、オーストリアリーグでは94試合に出場して31ゴール。およそ3試合に1点はゴールを決めている。
11月8日に行われたELのローゼンボリ戦では、ハットトリックを達成した。日本人がUEFA主催大会でハットトリックをするのは初めてのこと。日本代表でも欧州の市場でも、南野の株はうなぎ上りだ。
ウルグアイ戦1点目に凝縮される、南野の特徴
南野のプレーはすべてが「ゴール」に向かっている。がむしゃらに仕掛けるという意味ではなく、どこにポジショニングをとるのか、どんな体の向きをするのか、今は動くのか止まるのか、あらゆるプレーが「ゴール」から逆算されているという意味だ。
ウルグアイ戦の1点目もそうだ。中島からパスを引き出した時、南野はゴールと自分のマークを視野に入れやすい、半身の姿勢を作っていた。ただ、これは南野によるフェイントだった。半身になることで、背後にマークについていたDFにゴールに向かってコントロールするプレーを読ませておいて、ファーストタッチで軸足の後ろを通して切り返す。
南野はこのシーンについて、「ボールをもらう前にバックステップを踏んだのがポイントだ」とも語っている。パスを受けるスペースに移動する前に、後ろに下がる動きをして、自分をマークしているDFの足を止める。ちょっとでも、ボールをもらった時に優位に立つために。
自分がどうやったらゴールを決めるのか。それを実現させるための駆け引き、技術のバリエーション、シュートに持ち込むまでの強引さ。わずか数秒のシーンには南野がゴールをとれる理由が詰まっていた。
心技体。すべてを兼ね備えたストライカーは、地に足をつけながら、大きく羽ばたこうとしている。
Photos: Ryo Kubota, Getty Images
Edition: Daisuke Sawayam
Profile
北 健一郎
1982年7月6日生まれ。北海道旭川市出身。『ストライカーDX』編集部を経て2009年からフリーランスに。サッカー・フットサルを中心としてマルチに活動する。主な著書に『なぜボランチはムダなパスを出すのか』『サッカーはミスが9割』。これまでに執筆・構成を担当した本は40冊以上、累計部数は70万部を超える。サッカーW杯は2010年の南アフリカ大会から3大会連続取材中。2020年に新たなスポーツメディア『WHITE BOARD』を立ち上げる。