2016年に引退したレジェンドが、解説業を離れ、指導者として第一歩を踏み出した。しかしダービー、実は5年で10監督を任命している高難度なクラブだそう。昨季6位、07-08以来のプレミアに迫ったチームを高みに導けるか?
Frank LAMPARD
フランク・ランパード
ダービー監督
1978.6.20(40歳) ENGLAND
監督初挑戦の舞台はイングランド2部リーグ。というと無難な選択に思えるかもしれないが、3年契約でダービーの監督に就任したフランク・ランパードは、いきなり困難な環境に身を投じたと言わざるを得ない。選手として克服した、ウェストハムでのユースから1軍への生存競争や、チェルシーでの定位置争いに勝るとも劣らない難易度の高さだ。
世界最強の2部リーグとも言われるチャンピオンシップでは、監督交代のサイクルが平均で1年にも満たない。その短命傾向に拍車をかけているクラブの1つがダービーであり、ランパードは暫定監督も含めれば過去5年間で10人目の指揮官に当たる。11年ぶりのプレミアリーグ復帰を望むファンとて、いつまでも元「ワールドクラスのプレミア・レジェンド」への憧れの視線で、優しく見守ってくれるわけではない。
もっとも、当のランパードは過去の名声にあぐらをかくようなタイプではない。だからこそ評判は良く、スタジオの居心地も悪くなかったはずの解説業に別れを告げた。開幕戦前の会見で「眠れない夜が増えた」と軽く冗談を飛ばした表情からは、望むところだという気概と精神の充実がうかがえた。
4勝1敗で終えたプレシーズンの手ごたえもあったのだろう。自身のチームに求める特徴を「攻守のハードワークとアグレッシブさ」とする発言からは、同じ[4-3-3]を基本に速攻と堅守が共存した、ジョゼ・モウリーニョ体制初期のチェルシーも見え隠れする。
そのチェルシーからは、ユース出身の逸材メイソン・マウントをレンタルで獲得。ファイナンシャル・フェアプレー規則違反を避けるべく、選手を買うにはまず売る必要がある状態だったダービーにとって、指揮官が持つモウリーニョのマンチェスター・ユナイテッドも含め、プレミア強豪との個人的なパイプはチーム作りのうえで強みとなった。
8月3日の開幕節レディング戦(○1-2)、後半に同点のミドルを決めて逆転劇の口火を切ったマウントは、中盤の得点源だったランパードに憧れた19歳。お手本から直接指導を受ける環境を喜んでいることは言うまでもない。そしてチームメイトたちも、持てる能力を最大限に伸ばす努力を怠らず、ピッチ上でも最後まで足を止めない姿勢の重要性を直に学べれば、新体制下で30歳近い平均年齢の引き下げと、昨季までとは異質のスタイルに取り組みながらプレーオフ圏内(トップ6)を目指すチームにも期待が持てる。「可能な限り最高レベルの監督を目指す」と精進を誓う、ランパードのダービーにも。
Photo: Getty Images
Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。