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モデナ女子からテリア女子へ転身? なぜ、弱小クラブを愛するのか

2018.08.27

モデナFCは消滅しました。とあるモデナ女子の独白』という記事で、弱小クラブを愛する特異な生き様に共感が集まった、通称「モデナ女子」。果たして、“マイクラブ”が消滅してしまった彼女は今何をしているのかと思ったら、なんとプレミアリーグの弱小ハダースフィールドを応援していた。一体なんで?

 セリエDで復活の灯をともし始めたモデナF.C.2018を見守ると同時に、プレミアリーグ所属のハダースフィールド・タウンA.F.C.を応援する私に、「なぜ弱小クラブばかり応援するのかについて書いてもらえませんか?」などという大変失礼な依頼がきた。

 欧州3大リーグの1つであるプレミアリーグで、昨シーズンはリーグ(の残留争い)を大いに盛り上げ、今シーズンもあのチェルシーとプレミア開幕を彩り(0-3 ●)、第2節ではあのマンチェスター・シティと堂々ぶつかり合い(6-1 ●)、W杯に国の代表選手として選出されるレベルの選手を4人擁し(アーロン・ムーイ/オーストラリア、マティアス・ヨルゲンセン、ヨナス・レスル/デンマーク、ラマダン・ソブヒ/エジプト)、公式サイトには1シーズン45ポンドで全試合およびインタビューなどの充実コンテンツを楽しむことができる動画配信サービスを備え、名将ユルゲン・クロップの親友を監督に配し、なによりあの、サー・パトリック・スチュワートをサポーターに持つ、ハダースフィールド・タウンA.F.C.に向かって「弱小」とは失礼極まりない。その曇ったメガネを拭くハンカチをお貸ししましょうか? といった具合である。

オーストラリア代表MFムーイ(左)とデンマーク代表DFマティアス・ヨルゲンセン(右)


「パブでフィッシュアンドチップス」への憧れ

 まずはじめに、ハダースフィールド・タウンA.F.C.(愛称テリアーズ)について少しだけ紹介したいと思う。

 テリアーズは、1920年代には1部リーグ優勝やFAカップといったタイトルを獲った古豪である(古豪――単語の定義が曖昧なものに関しては積極的に拡大解釈して使っていきたい)。ウェスト・ヨークシャーにある小さな町、ハダースフィールドで1908年に生まれた。モデナより古いが、破産歴はない。4年目を迎えるデイビッド・ワーグナー監督は昇格の立役者、と言いたいところだが、実際はチャンピオンシップ(イングランド2部)の5位からのプレーオフ昇格なので少し語弊がある気もする。しかし1シーズンでの即時降格が予想される中でなんとか残留できたのは、監督の手腕と言ってもいいであろう。

 私がテリアーズに注目し始めたのは13-14シーズンのプレシーズンからなので、実際のところはモデナ女子からテリア女子に転身したというわけではない。当時の私は、テリアーズを応援することで芋づる式にプレミアリーグに詳しくなれると期待していた。

 イタリア代表からセリエへと流れた私は、ソフィスティケイテッドなフットボールに漠然とした憧れを抱いていたのだ。私もパブでフィッシュアンドチップスをぬるいビールで流し込みながら、グナとかCOYSとか「赤い方」とか言ってみたい。しかし残念ながら、願いは叶わなかった。そう、テリアーズはプレミアリーグではなかったのだ。その上、当時はまだチャンピオンシップのゲームに関しては視聴方法がなかったため、私にできることと言えばマスコットのTerry the terriaの画像を漁ることくらいだった。当然、シーズン途中でテリアーズを追いかけることはやめてしまった。そもそも「エンブレムがかわいいから」程度の理由で選んだチームの応援がそう続くわけがないのである。

 エンブレムに燦然と輝くヨークシャーテリア。これが、私がテリアーズを選んだ理由である。フットボールへの憧れを胸にプレミア参戦を決意したものの、さてどのチームを応援しようかとプレミアリーグとチャンピオンシップのエンブレムを並べて眺めていた時、あの弱そうなエンブレムはとても魅力的に見えた。ヨークシャーと言えばヨークシャーテリアかヨークシャープディングしか思いつかないけれど、ヨークシャープディングでない方をエンブレムに採用したことは評価に値する。とはいえ、テリアはいかんせん弱そうだ。トッテナムのニワトリあたりにしか勝てる気がしない(前年成績2戦2敗)。しかし可愛いは正義だ。マスコットが可愛くないのはイングランドなので仕方がない。その可愛くないマスコットやプレシーズンマッチの負けっぷりを何度かブログでネタにしたり、ユニフォームやグッズを海外通販したり、その程度で情熱は冷めてしまった。

テリアーズのエンブレム。中央上部に鎮座するヨークシャーテリア

 それから4年経った17-18シーズン、テリアーズはプレミアリーグに昇格した。昇格チームのニュースは、セリエクラスタの私の耳にも入ってくる。テリアーズ昇格を知った私の最初の感想は「応援し続けておけば良かった!」だった。応援するチームが昇格すると、みんなからおめでとう、と言って祝福してもらえるのだ。実生活で誕生日以外におめでとうなんて言ってもらえる機会がどれだけあるか考えてみるといい。絶好の機会を逃した私であったが、昨年しれっとテリアーズの応援を再開した。今度こそ、パブでフィッシュアンドチップスをぬるいビールで流し込むのだ。


真面目に答える。弱小を応援するのには理由があるんです

 「モデナ女子」とかいってちやほやされたものだから、またそういうニッチなとこ狙ってちやほやされようと思っているのでしょう? などと言われそうだが、おおむね正解だ。私はちやほやされたい。

 ただそれ以上に、怒られたくないという気持ちが強い。サッカーに限ったことではないが、どこの世界にも自分よりファン歴が長い人というのが必ずいる。そしてかなりの確率で、適当なことを言うとどこかから怒られるのだ。初心者には優しくしよう、歴が長ければ偉いわけではない、などそういった輩を嗜める意見も昨今よく見かけるが、すなわちそうやってファン歴でマウントをとってくる人がいまだに一定数存在するということだ。

 さらに困るのが、サッカーに詳しい人たちだ。歴の長い人たちが誇示してくるのは、記憶や経験だ。チームの歴史に関する記憶はその真偽が明らかな場合が多いので、あまり揉めない。しかしサッカー経験者や戦術分析屋による選手および試合評価は、正解がないだけに揉める。そしてメジャーなクラブになればなるほど、その人数は多い。ディスカッションは大いに結構と思う。しかし私のように勝った負けたでキャーキャーしたいだけの人間は、そこに巻き込まれて怒られたくはないのだ。

 弱小チーム、マイナーチームを応援する限り、こういったこととはほぼ無縁である。適当なことを言ってもまずバレない。試合を観なくてもチーム愛を問われない。選手に適当なあだ名をつけても怒られない。全試合騒ぎたい放題だ。ただし独りでだが……。ちなみに、先日のマンチェスター・シティ戦、視聴人数はかなりいた様子だったが、ツイッター上でテリアーズについて言及されているもののうち最も多かったのは、スタンコビッチの頭髪についてであった。

22歳のスロベニア人DFヨン・ゴレンツ・スタンコビッチ


孤独に耐えられれば、何かいいことがある…かも?

 弱小チームの応援は楽しい。2部リーグから選べば、昇格の感動を味わえるかもしれない。選ぶ基準はなんでもいい。ユニフォームがかわいいでも、マスコットが気持ち悪いでも、監督がイケメンでも、なんでもいい。弱小チームなら、顔サポだなどと揶揄されることもない。多分。さらにイングランドのチームなら、情報も英語で得られるし、なにより破産消滅の可能性が低い。

 そして気楽さと同時に与えられる孤独を楽しもう。SNSに溢れる観戦会の告知をよそ目に、着る機会のないユニフォームをそっとなでる孤独を、現地観戦を企てて情報を集めようとしてもまったく検索に引っ掛かってこない孤独を、某ライブストリーミングによって提供される解説および実況が、明らかに自チームに対して興味を持っていない時の怒りと孤独を、キックオフから試合終了まで、自分の独り言だけが表示されるツイッターのTLににじむ孤独を楽しもう。そのうちきっと、誰かが声をかけてくれる。どうしてそんな、弱小チームを応援しているのですか? と。

テリアーズの本拠ジョン・スミスズ・スタジアム


Photos: Getty Images

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ハダーズフィールドモデナ

Profile

いまい みこ

モデナ女子、そしてテリア女子。誰がなんと言おうと女子です。カメラと映画が好きなハイカル女子でもあり、からあげが好きなからあげ女子でもあります。たぬきに似ています。特技はベン・ウィショーの物まねです。

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