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アジア大会、マジでヤバいです…森保監督「これがアジアの戦い」

2018.08.24

アジア大会 男子サッカー競技現地レポート


これまでに世界各地を訪れ、ユース世代からA代表まで様々なカテゴリの試合を現地で取材してきた川端暁彦氏をして「『想定外が想定内』なのはわかっていたのだ。しかし、そんな覚悟すらあっさり飛び越えられてしまう」と言わしめる、アジア大会の男子サッカー競技。何がそんなに“ヤバい”のか。そして、劣悪な環境下でも最大限のパフォーマンスを発揮するべく、日本代表チームが採り入れている最新の科学的アプローチや工夫の数々とは。現地インドネシアでチームを密着取材している川端氏のレポートをお届けする。


 インドネシアは赤道に近い島国である。照り付ける灼熱の太陽は想定内だった。アジアの大会であるから、良いピッチで試合ができると思っていたわけでもない。諸々の覚悟はしてきた。「想定外が想定内」なのはわかっていたのだ。しかし、そんな覚悟すらあっさり飛び越えられてしまう、「これがアジアの戦い」(森保一監督)という。


ここがヤバい①:まさかの“組み分けやり直し”

 第18回アジア競技大会。アジア版オリンピックと呼ぶべきこの大会(個人的にはアジアの五輪というよりアジアの国体のように感じるのだが)の男子サッカー競技へ、日本は東京五輪を目指すU-21のチームで参加している。だが、開幕前からどうにも不穏な空気が漂っていた。なにしろ、組み合わせが一度決まった後に、出場国が増えてしまったのだ。何を言っているのかわからないと思うが、これもアジアである(?)。

 24カ国で行われた抽選を経て4チームずつ6グループに分かれたのだが、ここで「おい、俺がいないぞ」の声が挙がった。UAEとパレスチナが、何とこの抽選から漏れていたのだ。「そんな馬鹿な」と言いたいところだが、本当にいなかった。7月25日に謎の追加抽選が行われることとなり、両国はそれぞれ別グループに割り振られた——のだが、5カ国グループが誕生して2節増えるので、日程が収まらない。この5カ国グループだけ8月10日に開幕することとなった。ちなみにこうした大会日程が決まったのは、7月28日のことである。さらに、8月3日にはイラクが大会不参加となる事態まで発生している。

 幸いだったと言うしかないのが、日本が5カ国グループに回らなかったこと。チームのスケジュールは14日ないし15日に開幕する通常バージョンを基準に組まれていたため、10日になっていたら大変なことになっていた。なにしろ11日と12日にはJリーグの試合が組まれており、ここまでは選手をクラブ側が拘束することを認めていたからだ。そう、11日と12日までは、選手の所属クラブでの試合があったのだ。


ここがヤバい②:中1日も…超過密日程

 真夏の連戦を経ている選手たちが森保監督の下にやって来たのは12日のこと。この日に試合のあったMF神谷優太(愛媛)と追加招集のDF大南拓磨(磐田)を除いた選手たちは夜の便で成田を飛び立ち、深夜にインドネシアへ到着。現地でたった1回のトレーニングセッションをこなして、Jリーグの試合から中2日という日程でネパールとの初戦に臨む流れだった。

 この日程について松本良一フィジカルコーチは「この日程はキツいですよね」と苦笑いを浮かべつつ、「本当にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の経験があって良かった。その経験がなかったら、どうしていいのかわからなかったと思います」と言う。

 もとより代表チームのフィジカル管理、コンディショニングは一筋縄でいくものではない。イビチャ・オシム監督の率いたジェフ千葉の大躍進や、アビスパ福岡のJ1昇格、そして森保監督の下で広島に3度のリーグタイトルをもたらした名フィジカルコーチにとっても新しい挑戦である。広島でACLを戦って苦労した経験を踏まえつつ、調整・練習のメニューを吟味し、もはや阿吽の呼吸があるという森保監督と最終的なトレーニングのプランを練り込んだ。

 しかし、その大事なたった1回のトレーニングすら、「照明が暗過ぎて」(森保監督)ボールが見えないので危険ということとなり、当初予定していたメニューは組めず。「アジアではわれわれにも対応力が求められる」という森保監督の予言(?)通りの展開がいきなり起きることとなった。以降、練習は暑熱を避けた夜ではなく、昼前に組まれる形とならざるを得なくなる。さらに第1戦と第2戦の間は中1日、その後も中2日しかなく、登録選手は20名とターンオーバーもできない。コンディショニングはまさに肝だった。

 「まずは体重をキープすることを基本にしながら、選手個々の食事や睡眠の状態もすべてチェックして、データを見ながら監督やスタッフと話して練習メニューを組んでいます。データで状態が落ちてきたことがわかった選手については、メディカルスタッフとも話して対応することになります」(松本フィジカルコーチ)

 チームのスタート当初は睡眠への意識が低く、寝る前の準備を怠るような選手もいたというが、所属チームで出場する機会が増えるにつれて全体の意識も高まっているそうで、この点で問題は発生していないとも言う。

 とはいえ、この年代のチームならではの問題だが、そもそも「合流して来る選手たちのコンディションがバラバラ」(松本フィジカルコーチ)という問題もある。夏場の連戦をタフに重ねてきた選手もいれば、出場機会に恵まれなかった選手もいるし、大学生はまた違う状態で合流してくる。本来ならば、事前の合宿でその状態を整えて均していくのだが、今回はその時間もなかった。コンディションで選手の起用法なども見極めながらの戦いである。言ってみれば、タフな日程の大会を戦いながら選手のコンディションを整えていくしかないのだ。


ここがヤバい③:隣で家畜を解体!? 厳しい周辺環境

 暑さとの戦いもある。今回はJISS(国立スポーツ科学センター)のスタッフも帯同し、練習・試合前の水分摂取量なども選手ごとに個別設定するなど詳密な準備が行われている。日本では陸上競技などで採り入れられている手を冷水で冷やすことによって深部体温を下げる手法も導入されている。「エビデンスが得られている方法で、今年代別日本代表の各チームで実践してデータも採れています。練習中にも使えるメリットがある」(松本フィジカルコーチ)。

 だが、こうした準備を整えてもピッチ外でいろいろあるのがこの大会である。そもそも練習場までホテルから1時間以上かかるという負荷もあり、近場でグラウンドを探すことに。結局、現地のインターナショナルスクールのグラウンドを借りられることになり、ここでグループステージの合間の調整的な練習を行うこととなった。ただ、枯れ芝のピッチ状態はお世辞にも良好とは言えず、MF初瀬亮は「世界中のいろいろな国に行きましたが、ここのピッチが“一番”かもしれない」と苦笑するほかなかった。

まるで冬枯れかのような芝の上でトレーニングする日本の選手たち

 試合会場の変わるラウンド16に向けて新しい練習場へ移り、ここはシャワールームもあって一番マトモな施設だなと思われたのだが、22日はイスラム教の「犠牲祭」の真っ只中ということで、何と練習場の隣で家畜の解体作業が行われるという、ちょっと考えにくい事態まで発生した。「音」も聞こえるし、「匂い」も嗅げる、何より解体されて運ばれていく「姿」が見える環境である。「さっきまで立っていた牛が……」(FW前田大然)、「あんなの初めて見ました」(MF松本泰志)と選手を絶句させるには十分な光景だった。正直な話、筆者もトレーニング中に後ろが気になって仕方なかった。

選手たちもビックリ。日本のトレーニングの隣で家畜の解体作業にいそしむ人たち(※解体されている家畜も写り込んでいた元画像を編集部で加工した)

 もちろん、試合で使われるスタジアムのピッチ状態については言うまでもない。大会を重ねることで、ここからさらに悪くなっていくことも避けられず、コーチングスタッフと選手たちにはより柔軟な思考と、何よりタフネスが求められることとなる。またチームの一体感を作るという意味では、「想定内の想定外」も決してネガティブなことばかりではない。

 何でもありのアジア舞台で東京五輪代表は心と体を整えながら、より高みを目指していくこととなる。

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トレーニング日本代表

Profile

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。

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