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クラブの“英雄”ジダンに対するフロレンティーノの不満とは?

2018.08.17

『ディープスロート 内部情報が語るレアル・マドリー』 出版記念特別企画#2


フットボリスタの人気連載『ディープスロート 内部情報が語るレアル・マドリー』書籍化を記念して、本書に収録されているコラムを特別に公開。第2弾は、突然に訪れたジダンとの別れの遠因となった、レジェンドに対するフロレンティーノの不満とその理由。

ジダンを見つめ続ける困惑の視線

『月刊フットボリスタ』2017年2月号掲載


 FCWC決勝を見てフロレンティーノ・ペレス会長は自信を深めた。鹿島アントラーズの想定外の健闘に、日本まで同行したフロントたちから憤りの声が出た。

 「ジダンにもかかわらずまた勝った!」

 2016年、表彰台に上って最も多くの優勝杯を掲げたチームは、終了間際や延長戦のPKやラッキーなゴールで勝ってきたと会長は考えている。彼の見立てでは、チームには相手を圧倒するプレースタイルがなく、ファンにとってヒーローであるジダンは、会長からは今までもこれからも疑いの目で見られるだろう。アンチェロッティの時と同じ構図である。会長の不満は奇妙に映る。CL、UEFAスーパーカップ、FCWCの3冠とリーガでの首位の座は、ジダンの仕事をポジティブに評価するものとなるはずなのだ。だが、フロントの不信は1年前のジダン就任時から始まっている。

 2016年1月4日のジダン任命が本意でなかったのは、前年6月にジダンではなくベニテスを新監督に選んだことからもわかる。会長の狙いは“造反者”に支配されているロッカールームに切り込むこと。ベイルが真のリーダーとなるためにはセルヒオ・ラモスとロナウドという障害を取り除かなくてはならない。

 ベニテス就任と同時に2人のキャプテンとの戦争が勃発。低迷するチームに危機感を抱いた会長はロナウドとS.ラモスを呼んで話をした。成績不振はベニテスのせいだという彼らに、ジダンのことをどう思うかと聞いた。ジダンが就任時からほぼ選手全員(懐疑的だったのはベイルだけ)の支持を得ていたのは、こうした背景があった。


選手たちが全面支持だったわけ

 ジダンが2人のキャプテンを前面に押し出しチームが快進撃を始めると、フロレンティーノはベニテス解任を後悔し始めた。2016年のわずか2敗という成績はチームの根本的な――プレーの中身ではなく、戦う集団としての――変化を物語っていた。レアル・マドリーは国内では無冠ながら国際タイトルを総なめにしファンは大喜びしたが、会長の心は晴れなかった。2人のキャプテンが権力を回復するということは、自分の管理下からチームが離れていくことを意味していたからだ。

 当初、ジダンは栄光のキャリアで選手たちを魅了した。レジェンドであることは彼らを無条件に従わせた。そのうちにジダンの戦術やメソッドが月並みなものであることに気づいた彼らは、次にジダンの性格を評価した。ベニテスと違ってジダンは選手を放っておいてくれた。古参選手たちとの衝突を避け、何かを強制することもなかった。中でも重要だったのは、会長のアドバイスにあまり従わなかったことだ。

 クラブの顔であることを自覚し、堅実に特有のユーモアを交えて、ジダンは独立して動いた。決断は彼のもの、彼だけのものだった。その質実さにアンチェロッティを思い出した選手たちはさらにジダンを支持する。ロナウドのお気に入りであるハメスを外す決断ですら肯定的に受け取られた。

 ハメスではなくイスコを優先する決断は物議を醸すものだったが、フロントからの圧力はあっても選手の中に抵抗する者はいなかった。フロレンティーノはジダンに、ハメスにもっとチャンスを与えるよう何度も進言したが、ジダンはハメスの練習態度の悪さを理由に断った。この練習態度に関するジダンの意見は、クラブ職員や選手たちの意見とは異なっている。彼らは「ハメスはコバチッチやイスコよりもよく練習している」と証言する。


ハメスの苛立ちと会長の不満

 ジダンがハメスを使わない理由はサッカー的なものではなく個人的なものではないか、ハメスの子供っぽい尊大さが気に入らないのでは、という噂がささやかれている。ハメスの苛立ちはFCWC決勝後の「もっとプレーしたい。他のクラブを探している」というお祝いムードに水を差す発言からも明らかだ。

 ハメスへの冷遇が、会長がジダンを気に食わなく思う最たる理由である。彼は8000万ユーロもした選手なのだ。「フロレンティーノはジダンにバツをつけた。成績が悪化すればただちに解任。助け舟を出すことはない」とある関係者は言う。

 リーガ首位、CL、UEFAスーパーカップ、FCWC制覇というジダンの栄光の年が終わる。前回FCWCを獲ったアンチェロッティの2014年12月と同じように。あの時、その半年後に解任される運命だとは誰も想像していなかった。2002年にCLを制覇したビセンテ・デル・ボスケが、翌年リーグ優勝しながら解任されるとは誰も想像できなかったように。

 フロレンティーノと側近たちは数字をチェックした。バルセロナ、アトレティコ・マドリー、セビージャはいずれも過渡期にある。15試合時点で2位のチームの1試合平均勝ち点が2.1を下回ったのは08-09以来。バルセロナは2ポイント、アトレティコ・マドリーは1.6なのに対してジダンのレアル・マドリーは2.4。この数字はいずれもシーズン終了後に解任された2人、09-10のペジェグリーニ(2.4)、14-15のアンチェロッティ(2.6)と同じか下回る。ある側近は叫ぶ。

 「レアル・マドリーが上がったのではない。他のチームが落ちたんだ!」

『ディープスロート』出版記念特別企画


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Photos: Getty Images
Translation: Hirotsugu Kimura

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ディエゴ トーレス

スペインの高級紙『エル・パイス』でレアル・マドリー番を20年務めたエース記者。中立な報道姿勢が買われ、会長周辺から選手、職員までの広い匿名の情報源を持つ。著書に『モウリーニョ vs レアル・マドリー 三年戦争』『ディープスロート――内部情報が語るレアル・マドリー』(小社刊)がある。

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