37歳アルシャビン、ロシアが誇る英雄はラストシーズンも華麗に
名優たちの“セカンドライフ”
欧州のトップリーグで輝かしい実績を残した名優たちが、新たな挑戦の場として欧州以外の地域へと旅立つケースが増えている。しかし、そのチャレンジの様子はなかなか伝わってこない。そんな彼らの、新天地での近況にスポットライトを当てる。
from KAZAKHSTAN
Andrey ARSHAVIN
アンドレイ・アルシャビン
W杯開幕前、ロシアの各メディアはベスト4と躍進したEURO2008の代表チームを特集して「あの時の再現を」と切実な願いを込めていた。当時エースだったアルシャビンも再び注目を集め、「第2のアルシャビンは誰か」というテーマがトレンドとなる中、元ロシア代表MFのアレクサンドル・モストボイは「21世紀最高の選手。今の代表に彼のような存在はいない」と一蹴。アルシャビンの経歴がいかに偉大であるかが浮き彫りとなった。
その後、自国開催のW杯でロシア代表が下馬評を覆し快進撃を続けると、試合のたびに08年代表とアルシャビンが引き合いに出され、その歴史的意義が強調されていた。
そんな祭典の喧噪をよそに当の本人はというと、大会が行われているロシア西部から遠く離れたカザフスタンで、37歳となった現在も国内リーグ戦のピッチに立っていた。
2016年3月、資源マネーに支えられ急激にインフラ整備が進み、ロシア語で生活できる中央アジアの新興国を「現役最後の地」として選んだ。カイラトは自国選手育成をクラブの方針としているが、アルシャビンにはカザフスタンのプロ選手の平均を7倍も上回る年俸250万ドル(約2億7500万円)を支払い、「退団の意思にはいつでも応じる」という異例のVIP待遇が物議を醸した(その後の交渉で月給12万ドル、クラブが雇用の決定権を有する条件に変更)。
しかしピッチに立てば、獲得の是非が問われた移籍初年度から公式戦37試合で11得点11アシストを記録しその真価を発揮。記者が選ぶリーグ最優秀選手に輝いた。カイラト加入のきっかけとなった元ロシア代表コーチのアレクサンドル・ボロデュク監督や、古巣ゼニト時代からの盟友アナトリー・ティモシュクはクラブを去ったが、「ここでは気持ち良くサッカーを楽しめている」と居心地の良さを実感している。
翌2017シーズンも33試合10得点11アシストと前年と遜色のないプレーを見せ、カップ戦優勝の原動力に。リーグのレベルが劣るとはいえドリブルやパスの鋭さは健在で、ロベルト・マンチーニ監督の下で調子の上がらなかったゼニトのセルゲイ・フルセンコ会長が真剣に呼び戻しを検討したほどだった。
その雄姿を目に収めようとカザフスタンを訪れるロシア人ファンも増えており、「ロシア大使」としての役割も担っている。
ピッチ外では夫人 vs 愛人バトル勃発
一方で、私生活の方はアーセナル時代に知り合い、カザフスタンで自身2度目の結婚式を挙げたアリサ夫人との破局が昨年報じられた。アルシャビンには新たにモデルとの熱愛疑惑が浮上し、夫人と愛人がメディアを通じてバトルを展開。ピッチ外では順風満帆とはいかないようだ。
昨季終了後に引退もささやかれたが、契約を1年延長し臨んだ今季は開幕戦からチームの攻撃を牽引し続け、4月と5月の月間MVPを受賞。ロシア紙『スポルト・エクスプレス』が「素晴らしいシーズンを送っている。チェルチェソフは考え直すべきでは」と代表復帰を推したほどの輝きを放っている。しかし、アルシャビン自身は「自分が必要とされるほど代表は弱くない」と後輩たちを励ますとともに、今季終了後の引退を示唆している。
「ゼニトには戻りたいと思っているが、それは選手としてではない。監督業よりもマネージメントの方に興味がある」
ロシアサッカー史にその名を刻んだ天才アタッカーは圧倒的な技術で今も観客を魅了しながら、最後の時を迎えようとしている。
Andrey Arshavin
アンドレイ・アルシャビン
(カイラト/元ロシア代表)
1981.5.29(37歳)172cm / 69kg FW RUSSIA
1999-09 Zenit
2009-11 Arsenal (ENG)
2012 Zenit on loan
2012-13 Arsenal (ENG)
2013-15 Zenit
2015-16 Kuban
2016- Kairat (KAZ)
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Photos: Getty Images
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Profile
篠崎 直也
1976年、新潟県生まれ。大阪大学大学院でロシア芸術論を専攻し、現在は大阪大学、同志社大学で教鞭を執る。4年過ごした第2の故郷サンクトペテルブルクでゼニトの優勝を目にし辺境のサッカーの虜に。以後ロシア、ウクライナを中心に執筆・翻訳を手がけている。