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レナート・バルディ×片野道郎 前編。現代サイドバック3つの類型とは

2018.08.02

[対談]進化したサイドバック分析 前編

近年サッカーの進化によってサイドバックの役割は大きく変質したが、攻撃、守備、トランジション(攻守の切り替え)の各フェーズで具体的にどんなタスクを担っているのか? 『モダンサッカーの教科書』の共著者レナート・バルディに、現代サイドバックのタイプとタスクを整理してもらった。


対談 レナート・バルディ(戦術分析コーチ) × 片野道郎(イタリア在住ジャーナリスト)


現代サイドバックのタイプ分類

片野「今日は、モダンフットボールの中で最も大きく機能と役割が変化し多様化したポジションであるサイドバックについて掘り下げていきたいと思います。全体像を把握する上で、このポジションでプレーする選手をタイプ別に見ていくアプローチと、このポジションが担うタスクを見ていくアプローチを想定してみたのですが、レナートはどちらが効果的だと思いますか?」

バルディ「難しいところですね。両者は密接に絡み合っている上に、システムやゲームモデルによっても変わってきますから。いずれにしても言えるのは、サイドバックというポジションは10年前と比較してずっと複雑で多様になったということです。現代のサイドバックには基本的な守備力、敵陣まで駆け上がる走力、クロスの技術といった伝統的なクオリティに加えて、ビルドアップを司るレジスタとしての能力も求められています。タイプ分けするとしたら、その主な資質から『守備的サイドバック』、『攻撃的サイドバック』、『レジスタ的サイドバック』の3タイプに分けることができると思います」


レジスタ的サイドバック

ファーストサード(自陣の1/3)でのビルドアップ、そしてミドルサード(中盤の1/3)でのポゼッション確立に積極的に関与し、プレーのリズムとタイミングをコントロールするタイプ。具体例はグラム(ナポリ)

片野『レジスタ的サイドバック』は、どう定義できるでしょう?」

バルディ「ファーストサード(自陣の1/3)でのビルドアップ、そしてミドルサード(中盤の1/3)でのポゼッション確立に積極的に関与し、プレーのリズムとタイミングをコントロールするレジスタ的な機能を担ったサイドバック、と言えばいいでしょうか。自陣から敵陣にボールを運ぶビルドアップのプロセスにおいて、ボールのラインよりも前に進出してパスを受けるよりも、最終ラインからのパスを受けそこから中盤と連係してチーム全体を押し上げていくビルドアップのプロセスに関与していく、その際ボールのラインよりも後方からポゼッションをサポートするポジションを取る頻度が高い、といった特徴があります。こうした機能を担う上では、サイドバックの利き足はそれほど重要な問題ではなくなってきます」

片野「右利きだから右サイド、左利きだから左サイド、という必然性が薄れているということですか」

バルディ「というよりも左右両足を同じように使えるプレーヤーの優位性が高まると言った方がいいですね。サイドを起点に“逆足”を使い、相手のプレッシャーラインを割ってピッチの中にボールを持ち込んでいくプレーは、しばしば守備のメカニズムを混乱させます。大部分のチームはボールをサイドに追い込む方向でプレッシングを行いますから、攻撃側にとってはそのプレスをかいくぐってサイドからボールを持ち出すことが大きなテーマになってきます。サイドバックが左右両足のテクニックやプレービジョンといったレジスタとしてのクオリティを備えているかどうかは、そこで大きく効いてくるというわけです」

片野「後方からのビルドアップを重視するチームが増えたのに対応して、ファイナルサード(敵陣の1/3)からプレスを開始する超攻撃的プレッシングをするチームも増えてきました。CBに対する敵FWのプレッシャーが高まったことで、CBから敵の第1プレッシャーラインを越えてMFに届くパスを簡単には出させてもらえなくなっていますよね。中盤の第2プレッシャーラインを割って直接2ライン間にズバっと縦パスを送り込むのはさらに難しい。だからよりスペースと時間が得やすいサイドバックに最終ラインのレジスタ的な機能を果たすことが求められるようになった、という流れでしょうか」

バルディ「ええ、そういうことです。そこでは正確なボールコントロール、的確な読みとプレー選択、パスの精度といったクオリティが違いを作り出します。セリエAではグラム(ナポリ)、コラロフ(ローマ)がその観点から見ると際立っています。敵のプレッシャーラインを越えて局面を前に進めるパスを出したり、サイドのチェーンのメカニズムを発動させるきっかけのパスを出すのは多くの場合彼らです」

片野「グアルディオラがバイエルンで導入した『偽サイドバック』も、サイドバックがレジスタとして機能するという流れの中から生まれたと考えて良さそうですね」

バルディ「そもそもの発想は、カウンターが強力なチームが多いブンデスリーガで、ネガティブトランジション(攻→守の切り替え)時に最も危険な中央のゾーンをプロテクトするためだったという話を、グアルディオラ自身から聞いたことがあります。しかしもちろん同時に、ビルドアップの初期段階における最終ラインからの球出しをよりスムーズかつクリーンにするという狙いも持っています。そのためには、攻守両局面で読みと状況判断力に優れていること、そして片側をタッチラインに守られていない中央のゾーンで360度の視野を持ってプレーする感覚を身につけていること、そして基本的なボールスキルを高いレベルで備えていることが求められます。偽サイドバックの元祖にしてプロトタイプと言えるラームは、まさにそういうタイプのプレーヤーでした。育成年代にセントラルMFとして育った経験があらゆる意味で生きていました」

片野「オフ・ザ・ボールで大外のレーンを駆け上がりパスを引き出してクロスを折り返すプレーに特化した古典的なサイドバックは、このポジションに求められる機能とタスクを果たす上では不完全な、言ってみれば時代遅れの存在になりつつあるのかもしれませんね」

バルディ「例えば、マンチェスター・シティに移籍してからのウォーカーの変貌ぶりは興味深いものがあります。縦の突破からのクロスなどファイナルサードでの攻撃力が最大の持ち味だったプレーヤーが、偽サイドバックとしてインサイドのレーンでゲームメイクを担っているわけですから。もともと持っていた高いテクニックをそれまでとは異なるやり方で生かしたグアルディオラの手腕は素晴らしいと思います」


守備的サイドバック

後方から攻撃をサポートしつつ、ネガティブトランジション時には素早く背走して中央の危険なゾーンをプロテクトする余地も残した中間的なポジション取りでバランスを確保するタイプ。具体例はファン・ジェズス(ローマ)

片野「残る2つのタイプについてもざっくり見ていきましょう。『守備的サイドバック』と言っても、例えばカテナッチョの時代のように第2ストッパー的な役割を果たすわけではもちろんありませんよね。ただ、どちらか一方のサイドに攻撃的なキャラクターの強いサイドバックを起用する一方で、もう一方のサイドには本来CBのプレーヤーを起用するようなケースは今もよく見られます。昨シーズンのローマでは右にフロレンツィやブルーノ・ペレス、左にファン・ジェズスという組み合わせが多かったですよね」

バルディ「昨シーズンのローマでは、スパレッティ監督が左サイドバックをチーム全体の攻守のバランスを担保するバランサーとして機能させていました。左サイドからの攻撃は、高い位置でワイドに開いたポジションを取るウイングのペロッティが担っており、サイドバックには積極的な攻撃参加は求めていなかった。その分ファン・ジェズスは、後方から攻撃をサポートしつつ、ネガティブトランジション時には素早く背走して中央の危険なゾーンをプロテクトする余地も残した中間的なポジション取りでバランスを確保する役割でした。純粋な守備的サイドバックというわけではありませんが、ナポリのヒサイは総合的な戦術的貢献度が非常に高いプレーヤーです。爆発的なスピードがあるわけでも、優れたクロスやロングパスを持っているわけでもない。しかしプレー展開の読みやポジショニングが極めて的確で、チーム全体のメカニズムを機能させる上で欠かせない存在になっています。攻撃の局面では正しいポジショニングで中盤のポゼッションを後方からサポートし、必要に応じてタイミングのいいスペースへの走り込みでカジェホンのマーカーを剥がす役割を果たす。守備の局面では、ネガティブトランジション時の対応に加えて、ファーストサードでのポジショナルな守備のフェーズにおいても、最終ラインの一員としてCBと連係して動く時、ラインを飛び出して敵のウイングにプレッシャーをかけに行く時の選択が常に的確です」


攻撃的サイドバック

ファイナルサード(敵陣の1/3)を攻略する上で重要な仕事ができるクオリティを備えている一方、守備の局面ではやや欠落もあるタイプ。具体例はアレックス・サンドロ(ユベントス)

片野『攻撃的サイドバック』については?」

バルディ「ファイナルサードを攻略する上で重要な仕事ができるクオリティを備えている一方、守備の局面ではやや欠落もあるタイプですね。セリエAではアレックス・サンドロ(ユベントス)、ブルーノ・ペレス、カンセロ(インテル)、ボリーニ(ミラン)などがこのタイプです。爆発的なスピード、優れた1対1のドリブル突破力、質の高いクロスやミドルシュートといった攻撃のクオリティが際立っており、攻撃に幅と奥行きをもたらす上で重要な存在と言えます。例えばブルーノ・ペレスは、オープンスペースでスピードに乗せたら、そのまま一気にフィニッシュまで行ってしまうスピードとテクニックを持っています。しかし守備の局面に関しては、迅速な帰陣、プレーの流れを読んでのポジショニング、1対1の守備、後方からの走り込みに対する対応などに小さくない問題を抱えています。我われがトリノで仕事を始めた1年目のプレシーズンキャンプで試した後、ミハイロビッチ監督の求めるサイドバックとはタイプが異なるという結論に達してローマに売却することになりました。彼のようなタイプは、サイドバックの守備力には多少目をつぶっても攻撃力の高さを重視するスペインやイングランドのような国ではいいですが、イタリアのように守備の局面での戦術的ディシプリンを要求するリーグでは厳しいですね」

片野「とはいえ、最近は攻撃の局面で両サイドバックを同時に上げるチームも多いですよね」

バルディ「彼らのようなタイプを左右両サイドで使えるのは、90分の大半を敵陣に押し込んで戦うトップレベルのメガクラブか、そうでなければ失点のリスクを冒しても攻撃的に振る舞うという明確なゲームモデルを採用している監督が率いるチームだけだと思います。少なくともイタリアでは、左右のサイドバックを同時に敵陣深くまで送り込むことは原則としてしませんし、一方のサイドバックには守備的なクオリティを備えた選手を起用することでバランスを取ろうとするのが普通です」


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■『モダンサッカーの教科書』から学ぶ最新戦術トレンド
・【デ・レオ インタビュー 前編】戦術的ピリオダイゼーション実践編。ゲームモデルは歴史や文化も含む
・【デ・レオ インタビュー 後編】プレー原則とパターンの違いは? 日本と共通するイタリアの悩み
・第1回:欧州の戦術パラダイムシフトは、サッカー版ヌーヴェルヴァーグ(五百蔵容)
・第2回:ゲームモデルから逆算されたトレーニングは日本に定着するか?(らいかーると)
・第3回:欧州で起きている「指導者革命」グアルディオラ以降の新たな世界(結城康平)
・第4回:マリノスのモダンサッカー革命、CFGの実験の行き着く先を占う(河治良幸)

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Photos: Getty Images

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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