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イランの欧州的な怪物ウインガー。アリレザ・ジャハンバクシュ

2018.06.20

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 アジア人初となる、オランダリーグ得点王。今シーズン、歴史に名を刻んだ男が主戦場とするウイングにコンバートされたのは、驚くべきことに16-17シーズンだった。そこからわずか1年でエールディビジのベストウインガーに選出され、海外からのスカウトにも注目される選手へと変貌する。たった2年で、ウイングを極めてしまったかのような恐ろしいパフォーマンスを披露する男は、イラン代表でも右サイドのアタッカーとして攻撃陣をけん引する。

とにかくシュートがうまい

 もともとはストライカーとして期待され、中央でプレーしていたジャハンバクシュの武器は、一般的なウイングとは比較にならないシュートパターンの豊富さにある。得意の飛び出しからDFラインの背後でボールを受ければ、冷静沈着にGKの動きを見極めながらゴールを狙う。ループシュートや強烈なミドルシュート、相手を背負った状態からの振り向きざまシュート、正確にコースを狙うグラウンダーシュートといった幅広いエリアからのシュートを使い分けながら、ジャハンバクシュはオランダの地でゴールを量産。特にミドルシュートの威力は凄まじく、相手GKが触っても勢いを殺し切れないような重いキックを放つ。ゴールに突き刺さるような一撃は、ロナウドやベイルを彷彿とさせる。

 細かなステップでの俊敏性というよりも、ヨーロッパ的な「伸びていくようなスピード」を武器にしていることも特徴的で、体幹が強いので相手と競り合った状態でも体勢を崩しにくい。さらに背筋が伸びていることは視野の広さにも繋がっており、利他的なアシストパスも少なくない。ライン際からの低弾道クロスや裏へのスルーパスといった、味方を使うプレーも得意技だ。フワリと浮かせるようなクロスも正確で、寸前まで味方の動きを見ながら位置を調整する。味方を使う能力にも優れ、ドリブルでスピードに乗った状態でもチームメイトの位置を把握する能力は抜群だ。ミドルシュートを警戒したDFがブロックしようと前に出れば、その間を柔らかいスルーパスが通過する。強烈なシュートと繊細なタッチが共存していることで、彼を封じるのはさらに厄介になる。

 恐るべき手札の多さによって相手の的を絞らせないので、ドリブルでも派手なフェイントを使う必要がない。スピードを落とさずにシンプルに仕掛けるだけで、相手の守備陣からすれば脅威となる。シュートフェイントも効果的で、的確なタイミングで使いこなす。

ヨーロッパ的な「独力打開型」

 ハンブルクで活躍したレジェンド、マハダビキアとの比較も少なくないように、イラン国民からの期待は高まる一方だが、代表チームの課題は「カウンターの局面で、攻撃の枚数が足りない」ことにある。ドリブルでボールを運び、高い位置まで持ち込んだ段階での選択肢が限られてしまうことで、強引にシュートする以外の選択肢しか残らないことも多いからだ。十分にカウンターの起点として貢献しているが、味方のサポートが効果的になってくれば、新エースの輝きは増すはずだ。

 アジアという枠で考えれば、香川真司やソン・フンミンといった瞬発力やポジショニングの良さを武器にするタイプが欧州で活躍する中、独力で局面を打開できるジャハンバクシュは特殊な例だろう。それだけでなく、24歳のアタッカーとしても欧州でもトップレベルの完成度を誇る。シュート、アシストパス、ドリブルという各能力において、ジャハンバクシュを上回る24歳は少なくないが、そのすべてを兼ね備えた選手を見つけるのは難しい。「怪物的」な成長速度で階段を上っていくアタッカーのステップアップは、遠くない未来に訪れるだろう。飛躍のきっかけがロシアの地であっても、驚きはない。

Alireza JAHANBAKHSH
アリレザ・ジャハンバクシュ

1993.8.11(24歳)180cm / 75kg IRAN

PLAYING CAREER
2010-11 Damash Tehran
2011-13 Damash Gilan
2013-15 NEC (NED)
2015-  AZ (NED)

Photos: Getty Images

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FIFAワールドカップアリレザ・ジャハンバクシュイラン代表

Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。

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