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鉄のカーテンの向こうにメイド娘。開催国ロシアが日本代表に羨望?

2018.06.13

フットボール・ヤルマルカ

 18世紀、女帝エカテリーナ2世の地方視察に際して、知事のポチョムキンが張りぼての村をその場しのぎで造ったという伝説から「ポチョムキン村」という有名な言葉が生まれた。体裁を取り繕い、臭いものには蓋をする――そんな伝統はソ連時代、さらに顕著に。劇作家アレクサンドル・ガーリンの戯曲『夜明けの星たち』で描かれた、モスクワ五輪開催時に“ソ連にいるはずのない”存在として郊外に隔離された売春婦たちの悲哀などはその最たる例である。

 史上初となるW杯開催がいよいよ目前に迫り、プーチン大統領は「準備はすべて整った」と宣言。スタジアムや各施設は突貫工事で何とか間に合わせたものも多いが、それでも各国からのゲストは極上の「ポチョムキン村」を安心して楽しめるはずだ。

 懸念される安全確保に関しては、大統領自らが指揮を執る。反政府デモ鎮圧の時は恐ろしい治安部隊も今回ばかりは頼もしい。いざとなれば「OMOH」(アモーンと読む)の文字を背負った屈強な特殊部隊が守ってくれるだろう。

快適かつ幻想的なロシアの夏

 大会期間中の6、7月は冬の長いロシアでは最も快適で、幻想的な季節。現地ではどのようなものを目にすることができるのだろうか。ぜひ「ポチョムキン村」の外側も現地で、または映像を通して味わってもらいたい。

 卒業式シーズンの6月には“コスプレ”をした女子高生たちによって、街がメイド喫茶のようになる日が数日ある。ロシアでは小中高の一貫教育が普通で、小学校の入学式で着たメイド服のような衣装を高校の卒業式に着るのが習わしとなっている。開放感に包まれた彼女たちが街中の噴水に飛び込む姿が風物詩だ。

 特に、サンクトペテルブルクで開催される卒業生たちのための祭典「赤い帆」(6月23日)は昨年の欧州最優秀フェスティバルに輝き、白夜の古都に流れるネバ河を舞台とした花火と光の壮大なショーには100万人以上の観客が訪れる。今年はロシア対エジプト戦の開催後ということもあり、サッカーに彩られた夜になりそうだ。

 こうしたお祭りの季節には酔っ払いも当然増える。面倒に巻き込まれないよう、できるだけ近寄らないこと。

 もう一つ、夏のロシアで忘れてはいけないのがアイスクリーム。素朴で濃厚な味わいのこの国のアイスが実はかなり美味しいことは、あまり知られていない。ソ連時代から続くレトロな包み紙の国産品がおすすめだ。

 最後に、日本代表は現地でどれほど注目されているのだろうか。メンバー発表直後には「ホンダがロシアに帰って来る」と報じられ、記事のコメント欄には「欧州クラブでプレーしている選手ばかり。ロシア代表もこうあるべき」との声も。ほぼ国内組の自国代表と比べると日本は強豪に映るようだ。ぜひとも日本代表にはロシアの人々の期待を裏切らないサッカーを見せてほしいと願うばかりである。


Photos: Getty Images

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FIFAワールドカップロシア文化

Profile

篠崎 直也

1976年、新潟県生まれ。大阪大学大学院でロシア芸術論を専攻し、現在は大阪大学、同志社大学で教鞭を執る。4年過ごした第2の故郷サンクトペテルブルクでゼニトの優勝を目にし辺境のサッカーの虜に。以後ロシア、ウクライナを中心に執筆・翻訳を手がけている。

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