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優勝・残留争いは“不作”でも、リーガのスター誕生は“大豊作”

2018.05.24

17-18シーズンのブレイク選手たち


3節を残して優勝も降格も決定。やや味気なかった17-18のリーガだが、ニュースターの誕生は止まらなかった。欧州レベルでのコンペティティブさを維持しながらも、慢性的な予算不足が若手や新発掘選手のデビューを後押しする良い流れができている。


 ブレイク選手はやはりブレイクしたチームで生まれるものだ。ベティスのファビアンは大型で万能の攻撃的MF。189cmながら重心が低く小技もうまい。強いシュート、繊細なパス、馬力ある攻め上がりに加え体を使った守備も悪くない。アトレティコ・マドリーのサウールとともに、小粒だったスペインのMF像を変えるかもしれない逸材だ。同僚のブデブズはエレガントなトップ下。ヒールキックを交えるなど美しく時に軽率なプレーを見せる。FKとスルーパスは一級品。ともにセティエン監督のパスサッカーだからこそ成長した選手だ。

6位に躍進したベティスで輝きを放ったファビアン(中央)はクラブ生え抜きの22歳。伸びしろ十分の逸材だ

 ヘタフェからも2人選んだ。まずジェネ。上背はないが速さとマークの執拗さ、アグレッシブでありながら冷静な判断力を持つエネルギッシュなCBで、今夏のビッグクラブ行きもある。唯一の30歳代アンヘルは泥臭く足でゴールを稼ぐタイプで運動量を生かしたプレスも忠実。ロングカウンターを武器とするチームのセカンドトップとしてはまり、柴崎のレギュラーへの道を閉ざした。

チームトップの13ゴールをマークしたヘタフェのアンヘル。過去にリーガ1部3季半で通算4ゴールだったが、自身14-15以来となったリーガの舞台で覚醒した

 エイバルのドミトロビッチの最大の特徴は守備範囲の広さ。高いDFラインの背後を素早く勇敢な飛び出しでカバーするスイーパータイプのGKだ。ホルダンは守備的MFながら当たりの強さと高さ、運動量を買ったメンディリバル監督がトップ下で起用。プレミア好みのボックス・トゥ・ボックス型の選手に育った。

エイバルのゴール前に君臨したGKドミトロビッチ。イングランド、スペインの2部を経て今季ステップアップしたリーガ1部で堂々たるプレーを披露した26歳は、セルビア代表としてW杯メンバー入りも有力視されている


2人選出の健闘組、優勝バルセロナの不毛

 上位陣を見ていくと、ここ数年カンテラからのルートが閉ざされているバルセロナからはゼロ。レアル・マドリーではルーカス・バスケスは昨季ブレイク済みだったので、期待値を含めてバジェホを選んだ。スピードで先回りし上手に体を入れてファウルをせずにボールを奪う巧さは、同僚のバランを思わせる。出場機会に恵まれればセルヒオ・ラモスとピケの後継者となれる素材だ。

バジェホは公式戦出場12試合にとどまったもののまだ21歳。層の厚いレアル・マドリーでポジションを得られるか

 Aマドリーで最も成長したのはトーマスだがブレイク済みなので、故国フランスとスペイン、どちらの代表を選ぶかで揺れたリュカ・エルナンデス。当たりが強く馬力のあるCBまたはSBで、シメオネの下で鍛えられゴディンに学べば、プレーの粗さ(=ファウルの多さ)の角が取れ安定感が出てくるはずだ。

自己最高となる公式戦46試合出場を果たしたリュカ(右)。EL決勝でも同ポジションのブラジル代表DFフィリペ・ルイスを抑え先発フル出場しタイトル獲得に貢献した

 復活バレンシアからは爆発的なカウンターの牽引役ゲデスを選んだ。足の速さはベイルと競争させてみたいほとだが、ゴール前でのフェイントとシュートの多彩さ、パサーとしての能力の高さではゲデスが明らかに上。ファイナンシャル・フェアプレーに引っかかった所属元のパリSGは売却を余儀なくされるであろうから、来季もリーガで彼の高速ドリブルを楽しめそう。

若手中心のチームで復活を遂げたバレンシアの中でも出色のプレーを見せた21歳の俊英ゲデス。ポルトガル代表として臨むロシアW杯でも注目だ

 このゲデスとファビアンと並びビッグ3を形成するのが、ビジャレアルのロドリだ。ブスケッツとプレースタイルだけでなく姿形もよく似ている待望の守備的MF。プレーの先を読みピンチを未然に防ぐインテリジェンスを経験が乏しいにもかかわらず身につけている点でも、ブスケッツのデビュー時以来のサプライズである。

今季出場ゼロに終わった主将ブルーノに代わり台頭した21歳のロドリ(左)

 順位表を降りて行くと、欧州カップ戦参戦も危うかったセビージャで1人気を吐いたのがラングレ。元監督のサンパオリとベリッソがDFからのボール出しを強制したことで足技が磨かれ、組織的な守備が存在しなかったことで1対1が強化された、という皮肉な成長ぶりで、バルセロナ行きの噂が出ている。

苦しんだセビージャにあって確かな成長を見せた22歳のラングレ(左)


低迷チームだからこそ光った個も

 右サイドを突破し続けたポルトゥは、ジローナを危なげなく残留させた攻撃の柱で、スピードとテクニックを兼ね備えたゲデスと同タイプ。バレンシアのカンテラで10代から注目されるも負傷に泣かされてきたが、ケガなくシーズンを乗り切ったことで来季はワンランク上のクラブでプレーできるのではないか。

下部組織に在籍したバレンシアでは芽が出なかったポルトゥだったが、2部アルバセテで磨いた力を1部でも発揮した

 セルタのマキシ・ゴメスはリーガ1年目の選手の中で最多得点者(17)。得点力もさることながら186cm/87kgの体で、中央に張ってのポストプレーとクサビで周りを生かすのがうまい。ストゥアーニ(ジローナ)、ウィリアン・ジョゼ(ソシエダ)と同じ古典的CFが今季は得点を量産した。

セルタの攻撃を牽引したマキシ・ゴメス。ロシアW杯のウルグアイ代表暫定メンバー26人に入っている

 アスレティック・ビルバオのケパは新星ではないが、トップデビュー2年目でW杯出場確実という成長度を評価して選出。体が柔らかく俊敏でアクロバティックな姿勢でボールを弾き出す。

冬にはレアル・マドリー行きも噂されたが残留し、スペイン代表のW杯メンバー23人に選ばれたケパ

 降格したラス・パルマスから選出の2人は混乱のチームの中で抜群の個を見せたから。1トップで孤軍奮闘のカレリは柔軟な体使いからのポストプレーとクサビのうまさでは、リーガ1、2を争う。若く1年目ながらスポークスマン役を買って出たハートも良い。ハリロビッチはカオスだったからこそ生きた。強引なドリブルと空気を読まないシュートのクオリティの高さは元神童ならでは。来季、自由を与える監督の下なら一気に花開くかもしれない、と思わせた。


Photos: Getty Images

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リーガエスパニョーラ

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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