小川由紀子のおいしいフランスフット
3月18日のリーグ1第30節ニース対パリSGは、フランスリーグでは異例の13時キックオフだった。その理由はズバリ、中国の視聴者を狙ったため。スペインやイングランドに続く遅ればせの参戦で、初の試みにバロテッリ擁するニースとネイマールがいるPSGを選んだものの、ネイマールは足を手術したため欠場だった。また、シーズン開幕を告げるスーパーカップは2009年以来、国外で開催しているのだが、来季は14年の北京に続き2度目の中国、深センで行われることが決定済みだ。
世界のサッカー界には中国マネーがどんどん流入している。セリエAではインテルとミランが中国オーナーの手に渡り、プレミアリーグの胸スポンサーにも中国系企業が急増。ニース対PSGにしても、すでに中国のホテルチェーンがスポンサーにつくニースと中国系スポンサーを絶賛募集中のPSGという、世界的スター選手がいる以外の理由も明確だった。ニースの公式WEBサイトは今季から中国語版を導入。PSGのサイトにもアラブ語やインドネシア語と並んで中国語があるが、以前あった日本語版はいつの間にか消滅している。ビジネスチャンスがないと判断されたのだろう。
EU圏外枠とは別にAFCで1枠
中国マネーが魅力的なのは、単にスポンサー料だけではない。中国企業が参加すれば現地での宣伝広告に繋がるし、試合がテレビ放映されれば人口14億人の国では視聴者数が稼ぎやすくグッズの売上も見込める。実に魅力的なマーケットだ。
その中国企業を誘い込もうとリーグ1が画策しているのが「アジア枠」の設置。現在4枠のEU圏外出身者枠に5枠目を加え、これをAFC加盟国選手に当てようという案で、すでにリーグ、クラブ、選手会等の各団体から承認を得たと、同国プロリーグ協会のディディエ・キヨGMが先日『ル・パリジャン』紙で語った。現在リーグ1に所属するAFC加盟国選手は、マルセイユの酒井宏樹、メスの川島永嗣以外ではトロワとディジョンに韓国人が1人ずついるのみ。アンジェのFWケトケオフォムフォンはラオス出身だが仏国籍だ。
ポルトガル人記者に聞いた話では、同国の2部リーグでは冠スポンサーに中国企業がついたため、各クラブ最低1人の中国人選手を入団させる等のルールができたらしい(1部にいるクラブのセカンドチームは除く)。リーグ1も本来は中国系スポンサーを惹きつけるべく「中国枠」で考えていたが、あまりにあからさまなのでAFC枠にすることにした、との噂も耳にした。この流れを後押しするかのように、川島が『カナル・プリュス』の人気番組にゲスト出演したり、フランスにいるアジア人選手の特集番組が放送されるなど、じわじわとアジアの風が吹き始めている。
アジア枠は早ければ来季から実施予定、さらに南米枠を追加するプランもあるという。これまでEU圏外にカウントされないアフリカ系選手が中心だったリーグ1は、より多国籍な顔に変わりそうだ。
Photo: Getty Images
Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。