老いて益々盛ん。オーバー35ストライカーの“個人戦術”
ベテランFWがキャリア晩年に新たな輝きを見せることがあるのも、セリエAの面白いところだ。フィジカルやスピードの衰えを感じさせないばかりか、絶妙のタイミングで相手DFラインの繋がりを断ち、落ち着き払ったプレーでゴールに絡む。まさに長年磨いた技術と、個人戦術の集大成といったところか。
今シーズン目立つのは2人のオーバー35。プロ19年目にして自身の年間ゴール記録を更新したサンプドリアのファビオ・クアリアレッラと、インテルから移籍したボローニャでリーダーとなっているロドリゴ・パラシオだ。
第26節終了時点で17ゴールを記録し、得点ランキング3位に浮上したクアリアレッラのプレーには、熟練の成果が見て取れる。これまで難しいシュートはねじ込んでも簡単なゴールを決められない、という印象もあった35歳だが、今季は優秀なワンタッチゴーラーとして活躍中だ。嗅覚を研ぎ澄ませ、ゴールエリアのわずかな空間にスッと現れてタップイン。エリア内の密集の中で実に冷静なボールコントロールを披露し、無駄な力が抜けたシュートをコースに流し込むようなゴールが増えた。裏抜けも非常にうまく、DFにとっては極めて視野に捉えにくいストライカーになっている。
得点の一方で、アシスト数も5と自身最多のペースで多い。サイドに流れながら味方の位置を正確に把握し、ラストパスを足や頭にピタリと合わせてゴールをお膳立て。このような落ち着きも以前には見られなかったものだ。能力は高く評価され、イタリア代表に登り詰めながらも、ムラが邪魔をして大きな実績は挙げられなかった。今季の成熟ぶりを地元メディアも「第2の青春時代が到来か」と称賛をもって伝えている。
仲間を助けるプレーの数々
片や、パラシオもプレースタイルの転換を図った。スピードと技術を生かして高速ドリブラーとして鳴らしてきた36歳は、2年前に故障をして以降、プレーエリアを狭めながらもキレで勝負するFWに変貌。そしてボローニャではチーム事情により[4-3-3]のCFを任せられると、新境地を開拓した。CFとしてDFを背にしボールを受けることがタスクの一つになるわけだが、それが非常にうまい。マーカーとの間に上手に体を入れながら、ボールをきちんと足下に収めてキープ。チャージを受ければしっかりと潰れ、ファウルをもらう。恵まれた体躯でないにもかかわらず、前線で戦術的な仕事を果たす巧さと献身性は見事だ。
むろん、チャンスメイクの質も高い。DFとの1対1が仕掛けられる状況ならば、抜きにかかって数的優位の局面を作る。味方とシンプルにパスを交換したのちに、マーカーの背後を取って裏に行く動きも芸術的だ。得点数こそ多くないものの、前線で味方を助けるプレーで不動のスタメンとなった。
両者にはそれぞれ、若手の多いチームでリーダーとして活躍しているという共通点がある。経験で引っ張る立場に置かれ、監督からも特別な信頼を得られた時、ベテランはプレースタイルにおいても新たな境地へ踏み出す。
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Profile
神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。