日本代表コラム
「本田、不発」
「本田、アピール失敗」
「本田、W杯メンバー入りピンチ」
1-2で敗れた27日のウクライナ戦後、多くのメディアで話題になったのが本田圭佑のパフォーマンスだった。半年ぶりの日本代表招集となった本田は、3トップの右FWとして先発した。
6月のロシアW杯のメンバー選考は大詰めを迎えている。4年前は日本の絶対的エースだった本田の立ち位置は大きく変わった。ハリルホジッチ監督率いるチームでは、レギュラーどころかメンバー入りさえ確約されていない。
2017年にメキシコのパチューカに移籍した本田は今年のリーグ戦で4得点5アシスト。最後のアピールチャンスとも言える、今回の欧州遠征メンバーに食い込んだ。だが、マリ戦では71分から途中出場、ウクライナ戦は先発出場するものの、65分に途中交代を命じられた。
2試合合計で90分ほどのプレータイムを与えられたが、ゴールやアシストなどの誰の目にもわかる結果は出せなかった。それゆえにアピールできなかったと見られるかもしれない。ただ、筆者の考えは異なる。
思えば、2010年の南アフリカW杯前、 オランダのVVVフェンローでプレーしていた23歳の本田がW杯メンバーに入るために行ったアピールはわかりやすかった。
ボールを持てば、目の前の相手との1対1を果敢に挑む。そして、左足のパワーを見せつけるように、遠目の位置からでもシュートを打っていく。個人での打開力を前面に押し出して、当時の岡田武史監督の心をつかもうとしたのだった。
南アフリカW杯で1トップとして起用された本田は、カメルーン戦のゴールを皮切りに、デンマーク戦では直接FKを叩き込み、日本の救世主になった。
あれから8年——CSKAモスクワ、ミラン、パチューカと3カ国を渡り歩き、多くの監督の下で戦ってきた本田。ウクライナ戦のプレーは、本田が積み上げてきたキャリアを示すものだった。
前半開始早々の49秒。高い位置を取っていたウクライナの左SBソーボルにパスが出る。日本は右SBの酒井高徳が外に出て対応するが、寄せが間に合わない。ソーボルはワンタッチで前方のスペースへパス。ペナルティエリア内で受けたコノプリャンカは、ゴール前のFWへ折り返す……しかし、このクロスは通らなかった。必死についていった本田が足を伸ばして止めたからだ。
このプレーからわかるのは本田の予測力だ。ウクライナは、SBが張り出すとサイドMFが中寄りにポジションを取る。日本のSBとCBの間のスペースを空けて、そこをサイドMFが活用する狙いがあった。
ソーボルへパスが出た瞬間、本田は自分がスライドして寄せに行こうとしている。だが、酒井が寄せに行こうとしたのを見て、すぐさまコノプリャカのマークに切り替える。ちょっとでもマークの交換が遅れていたら、失点していてもおかしくなかった。
この試合のボール保持率は日本43%、ウクライナ57%。高い位置からプレスをかける時間もあったが、必然的に自陣に押し込まれてボールを回される時間が長くなる。そんな試合展開だったからこそ見えてきたことがある。
本田の修正力だ。
19分のシーンがわかりやすい。ウクライナの左CB、ラキツキからタッチライン沿いに張り出した左SBのソーボルに速いパスが出た。立ち上がりと同じくパスが通れば一気にピンチになる場面だったが、本田はパスを通させなかった。
背番号4は、ウクライナの攻撃パターンに合わせて立ち位置をわずかに変えている。あえてパスコースを空けておき、ボールが出た瞬間にスッと割って入ってインターセプトした。パスを出した選手からすれば「罠にはめられた」と感じただろう。
本田には、運動量が少ない、足が遅いといったネガティブな評価もつきまとう。ただし、相手のプレーを読み取り、細かくポジションを修正し、ボールを誘導して奪う力は、そうした欠点を十分に補っている。
もちろん、本人はゴールやアシストなど目に見える結果が欲しかったはず。 2010年の本田であれば、チームが押し込まれている中でも、前に残って単独でもゴールを狙っていたと思う。だが、2018年の本田は、守備に回る時間が長くなる中で、攻撃面のアピールに走らなかった。
65分で途中交代したものの、足が止まっていたという印象はない。闇雲にボールを追いかけ回さない、賢い守り方をしていたからだろう。
本大会でハリルホジッチ監督がどのような守備を選択するのかは、まだわからない。ただ、コロンビア、セネガル、ポーランドとの実力を考えれば、相手にボールを持たれる展開は十分に予想できる。
そうなった時に、試合の状況を踏まえてプレーを修正できる、本田の価値は大きく高まる。なにしろ、W杯では、わずかなミスが命取りになるのだから。
ロシアに行く23人の最終リストに、ハリルホジッチは「本田圭佑」と書き込むだろう。そう確信している。
Photos: Getty Images
Profile
北 健一郎
1982年7月6日生まれ。北海道旭川市出身。『ストライカーDX』編集部を経て2009年からフリーランスに。サッカー・フットサルを中心としてマルチに活動する。主な著書に『なぜボランチはムダなパスを出すのか』『サッカーはミスが9割』。これまでに執筆・構成を担当した本は40冊以上、累計部数は70万部を超える。サッカーW杯は2010年の南アフリカ大会から3大会連続取材中。2020年に新たなスポーツメディア『WHITE BOARD』を立ち上げる。