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フランスの張本勲!?御意見番ドメネクのレ・ブルーぶった切り

2018.03.28

元フランス代表監督レイモン・ドメネクインタビュー


グリーズマンやポグバが主軸に成長してEURO2016で準優勝した代表では、カンテがさらに頼もしく、ムバッペら若手の逸材も続々と。現体制6年目のフランスは、1998年以来の世界一を狙えるチームなのか? あとはデシャン次第か? その分析担当は、あの人である。忌まわしき南アフリカ大会から7年、現在は解説業もこなす元代表指揮官が、現レ・ブルーの強みと唯一の弱みを、W杯という舞台の異様さを、監督の孤独さを、自身の体験を交えて語る。
※このインタビューは17年11月に収録した

タレント集団、特に凄いのは?

カンテはまさにマケレレ、“鉄板”だ
「他より1000倍うまい」、それがムバッペ


── 現在はブルターニュ(フランス北西部の地域圏)代表チームの監督をされているそうですね。

 「私の手元には世界中にいるブルターニュ生まれの選手のリストがあるよ。試合はバカンスシーズンに行われるから参加可能な選手は限られるが、逆に休暇で里帰り中の選手が参加してくれることもある。これは公式戦ではなく親善試合だが、地域に密着していて、雰囲気も良く楽しい。ブレスト、ギャンガン、レンヌ、ナント、ロリアン……プロリーグにも多くのクラブがあるブルターニュはフランスで屈指のサッカー地方だからね」


── フランス監督組合の会長も務めておられるとか。

 「フランス人監督だけでなく、国内リーグにいる外国人監督や国外クラブで活動中のフランス人監督も会員になっている。組合の役割は、監督たちがしっかりとした決まりに沿って職務を遂行できるよう手助けしたり、彼らのステータスを守ること。特に契約については専門の弁護士もいるから、雇用主であるクラブ側と問題があった時は被雇用者である監督を助けるべく法的な介入もしている。監督という仕事は難しく、複雑で、そして何より孤独だからね。23人の登録メンバーを決定する時も、それを発表する時も、会見に臨む時も、監督は常に一人だ」


── メンバー選考のお話が出たところで聞きますが、W杯出場も決まったこの時期、代表監督が頭を悩ませるのは23人の登録選手を絞り込むことではないですか?

 「いや、そんなことはない(即答)。まず、最初の18人までは簡単だ。なぜか。おそらく誰に聞いても、この18人はだいたい共通しているからだ。本当だよ。試しに挙げてみようか? GKはマンダンダ、ロリスは確定、DFはメンディ、シディベ、バラン、コシエルニー、キンペンベ、ユムティティ……中盤はポグバ、カンテ、マテュイディ、アタッカーはルマル、グリーズマン、ジルー、ムバッペ、(ウスマン・)デンベレ、コマン……このあたりの顔ぶれは誰に聞いても同じだ。毎回、最後の最後まで議論になるのは残りの5人なのだが、実際の大会では彼らがプレーすることはまずない。何カ月もかんかんがくがく意見が交わされたのに、いざ本戦が始まればこの5人はほとんど存在感がないんだ。今回ならベンゼマ、パイェ、ラカゼット、フェキル、トリッソ、ラビオ……このへんが当落線上ということになるだろうが、2010年や2006年の大会で誰がサブメンバーだったか、優勝した1998年大会でさえ正確に覚えている人が何人いるだろうか」


── それにしても現代表にはタレントがそろっています。それはフランスの強みの一つなのでは?

 「その通りだ。O.デンベレがケガから復活してムバッペと一緒にプレーすることができればさらに面白くなるだろう。彼はムバッペとはまた違った持ち味の選手で、予想を裏切る動きをするというか、両足を同じように使いこなせるしね。ムバッペほど知的な動きができるわけではなく、良い時と悪い時の差も激しいが、テクニックは素晴らしい。またタレントが数多くいれば、1人の調子が悪くても他で補える。そして監督もそうした事態を踏まえて、いかにそれぞれの能力を補い合えるかを考えてチーム構成を準備しておく。彼らのような逸材がいる攻撃陣の豊富さは現代表の強みと言っていいだろう」


── ただ、予選のルクセンブルク戦(17年9月)でも0点に抑えられてしまったように、W杯では、特にグループステージでは相手が徹底して守ってくることも予想されます。そういった展開をこじ開ける力には乏しい印象が……。むしろオープンゲームになった方がフランスは有利かと思いますが。

 「確かに現在の攻撃陣にとってはオープンゲームの方が持ち味を生かしやすい。しかしまだ今の代表は完成形ではない。W杯で一番難しいのは開幕戦だ。どのチームも気力、体力ともに万全だから徹底したディフェンスも可能で、しかも一発勝負でないために敗退の危機に迫られて戦うプレッシャーもない。確かにグループステージでは負けないために何も仕掛けてこないチームもいるだろうから厳しいが、先に進むほど自分たちのゲームをする相手との対戦が多くなるのでフランスにとっては有利だ。試合を重ねるごとにチームは熟成していくものだが、今の代表も先に進めば進むほど強さを増していくだろう」


── フランスは常に攻撃陣は人材が豊富ですが、例えばSBは不足している?

 「確かにそうだ。バンジャマン・パバール(11月の親善試合で初招集。シュツットガルト所属の22歳)を試せたのは良かった。(2番手の)ジャレはすでに34歳だからね。ベストはバンジャマン・メンディ(左)とシディベ(右)のコンビ。メンディ(9月にマンチェスターCの試合で右膝靱帯損傷)は3月頃に復帰できれば、ギリギリだが間に合う。カンテも一昨年のEURO直前に初めて招集されたが、その時すでにレスターで十分に実力を示していた」


── カンテは現代表で先発が確実なメンバーの1人?

 「今の代表は、彼がいる時といない時では戦力がまったく違う。彼がボールを奪い取る役目を務めることで、周りの選手たちに思う存分、能力を発揮させることができている。彼はまさにマケレレだよ。チームには常にそうした“鉄板”メンバーがいる。例えば98年大会ではFWのデュガリーとギバルシュのところだけが議論になったが、あとの先発イレブンは満場一致で誰もが納得する顔ぶれだった。2006年もそうだ。この時は、監督の私にはかなり早い段階から先発イレブンの構想があった。控え選手も確定していた。フィジカルが必要な後半には、リベリとアンリに代えてウィルトールとゴブーを入れる、といった具合にね。そうすることで、チームに保証となるものも与えることができるのだ。これがダメならこの手がある、というようなね。2010年は少し違っていて、互いに戦わせても拮抗するような同じレベルのチームを2組作った。どちらを先発させてもいい状態だった」


── ディディエ・デシャン監督はどうでしょう?

 「攻撃陣はまだ完全に完成してはいないようだね。しかしジルーとグリーズマンは固定で、サイドにムバッペというのも確定、あとはその時の選手のコンディションによって変わるだろう。ドイツ戦(17年11月14日/2-2)ではジルーが不在だったため、ラカゼットとムバッペで3トップを形成した。ただしこれはオプションで、デフォルトはジルー、グリーズマン、右にムバッペ、そして左にコマンかO.デンベレ、もしくはルマルを配した形だ。中盤はカンテは確実、もう1人はポグバ。となるとマテュイディは微妙になるが。それか3トップならポグバを左に置いて右はトリッソという手もある。トリッソはより“ボックス・トゥ・ボックス”タイプの選手で、ゴールエリアまで上がることもあるし積極的にシュートも狙う。アタッキングサードでプレーするが攻守が変われば下がって守備に加勢する。ラビオもいい選手だが、カンテに代わってプレーした昨年10月のブルガリア戦で、ケガを恐れて全力を出し切ってなかったと非難された。W杯行きをつかむためにはどんな試合でもトップレベルでプレーする必要があるから、あれはマイナス要素になった」


── グリーズマンの良さを生かすためにもジルーは必要?

 「当然だ。グリーズマンがムバッペと組んだ試合もあったけれど、その場合はムバッペがグリーズマンより低い位置にいる時はうまくはまるが、より前へ出た時はジルーと組んだ場合ほど機能していなかった」


── ムバッペは今回のW杯で活躍できると思いますか?

 「彼は今大会で大ブレイクする可能性もある。しかもそれはもはや驚きではなく、当然、といった感じだ。今でも思い出すのが(昨季リーグ1で)モナコが優勝する前の年、当時モナコのディレクターだったマケレレと話した時に彼が言っていたことだ。『1人、凄いのがいる。若いが、他の誰よりも1000倍うまい。監督はなぜ彼を使わないのか?』と。それがムバッペのことだった。監督のジャルディンは練習だけはファーストチームと一緒にさせていたが、試合に出すのには慎重で時間をかけていた。その時まだ彼は16歳だったけれど、すでに抜きん出ていた。マケレレは言っていたよ。『明日試合に出しても立派にやれる』とね。彼こそスターだ。注目を浴びるのが好きで、話すのも好き。自分にできることをみんなに見せたくてたまらない。プレッシャーだって望むところだろう」

「彼こそスターだ。自分にできることをみんなに見せたくてたまらない」。ロシアで大ブレイクしても「当然」とドメネク氏も絶賛の19歳ムバッペ。3月27日のロシア戦(1-3)では2ゴールを奪いチームを勝利に導いている

代表選手とは? W杯とは?

選手には、段階がある…代表が、頂点。
その国の威信さえも背負うのだから


── では、現代表で真のスター、リーダー格は?

 「いないな。それが現代表の唯一の弱点とも言える。ピッチ上に真のリーダーがいないこと。みんなが『僕じゃない、彼だ』と譲り合っている。形式上はグリーズマンやジルー、バラン、ポグバ、カンテといった選手になるのだろうが、他より抜きん出た存在は1人もいない。全員が平均してとても高いレベルにあるが、そのさらに上に立つ選手というのが、ビッグチームには必要だ」


── 特に非日常を体験するW杯ともなれば……。

 「約1カ月半、生活をともにする。試合の激しさも半端ではないし、常に人の目にもさらされる。絶えずプレッシャーと隣り合わせだ。W杯期間中はまったく非日常的な体験をすることになる。その中にあって真のスター選手というのは、スポットライトが自分に当たることを好み、もっともっと注目されたいと願っている。その強さがチームを引っ張っていく。みんなを上に引き上げてくれるのだ。誰よりも前に出て、みんなが自分のことを見て、話題にするのを好む、それが真のスターだ。そして周りは彼についていく。『よし、俺についてこい! 勝たせてやるから!』とみんなを率いてくれる存在。それはただプレーが格段にうまいとか、自分のことだけを極めようとする選手ではない」


── ここ数年、フランスにはそういう選手が不在ですね。

 「プラティニやジダン級の選手はもはやいない。その後のチームにも非常に優秀な選手は集まっているが、タイトルを手に入れようと思ったら、彼ら以上の働きができるスーパーな存在が必要だ。1982年の代表でいえば、ジレス、ティガナ、ジャンジーニ、そしてプラティニのようなね。こうした選手の凄さは、他の選手のレベルまで上げてしまうところにある。すでに優秀な選手のレベルがさらに上がるのだから、当然チーム全体のレベルも一段と向上する。歴史を振り返っても、何かを勝ち取ったチームにはそんなビッグスターがいたものだ」

準優勝となった2006年W杯でジダンと。(右はGKバルテズ)


── 実際、W杯はどれほど異質な世界なのでしょう?

 「そこでは、すべてがまったく違う形になってしまう。ほんの小さな発言や行動が何倍にも拡大されて取り上げられたり、カメラが常にそこら中にいて、圧倒的なプレッシャーの中にいる。選手たちの心理状態も特殊だ。彼らの多くは『これが自分にとって最後のW杯かもしれない』と思っている。確かにオリンピックと同じで4年に1度の大会だ。ここでチャンスを逃せば、次はあるかどうかわからない。もちろんイタリアのブッフォンのように何度も出場した者もいるが、多くの選手には『これが自分にとって優勝を狙える最後のチャンスかもしれないから、限界まで出し尽くさねば』という緊張感にもなる。そういったプレッシャーといかに付き合えるかで、選手の器も見えてくる。スターはプレッシャーが大好きだからね。プレッシャーがあると萎縮してしまうような選手は、そこそこの選手ということだ。そもそもサッカーというのは、人々を魅了するスペクタクルであって、選手はそれを演じる者、アーティストなのだから」


── 現代表にもメンタル面が弱い選手はいますか?

 「例えばコマン。彼は素晴らしい選手だ。しかし彼はピッチに上がるとすっかり輝きを失ってしまう。何を恐れているのか、リスクを冒して仕掛けていくこともしない。両サイドでプレーできるし、素晴らしいドリブルを持っているというのに、せっかく切り込んでも後ろにパスを返すという安全策に流れる。怖いんだ。プレッシャーを感じているんだ。バイエルンでは果敢にドリブルで突破しているのにね。選手には、段階がある。国内リーグで活躍できる選手、その上がチャンピオンズリーグで輝ける選手、そして代表でも良いプレーができるのがサッカー選手の最高峰だ。上に行くごとにプレッシャーや必要とされる能力は高くなっていく。その国のベスト中のベストしかプレーできない代表が、頂点なのだ。その国の威信さえも背負うのだからね。2014年大会のアルジェリア代表を覚えているだろうか? 彼らは素晴らしかった。メンバーはイングランドやフランスの中堅クラブでプレーする選手たちだったが、ナショナルチームのユニフォームに袖を通した途端、エネルギーが炸裂した。彼らのパフォーマンスはとんでもなく素晴らしかった。敬服したよ。代表のシャツというのはそれだけ重みがある。それだけに、ポジティブにもネガティブにも転ぶのだ。あの大会でのアルジェリアは、普段の実力の20~30%増しの力が出せていた。我われフランスは逆で、20~30%減だった」


── EURO2016では重圧に強そうなポグバでさえプレーの質を落としていました。クラブでは好調だったのに……。

 「W杯では対戦相手は強豪ばかりだ。リーグ戦ならいろいろな相手がいるが。代表というのはそれだけ別物なのだ。決して強豪というわけではないルクセンブルクのようなチームだってそう。選手たちが日常的にプレーしている場所は決して高いレベルではないかもしれないが、彼らは遠征の道中に、代表選手へと移行していく。より能力が研ぎ澄まされ、モチベーションも上がる」

ズバリ、どこまで行ける?

すべてはデシャン監督の頭の中に…
準決勝。勝つにはプラスαが必要だ


── これから本大会までの約6カ月間の準備期間は?

 「監督は、ほぼ毎週のように代表選手たちのクラブでの試合を視察に行く。彼らに夏に何が待っているかを忘れさせないようにね。フランス代表クラスの選手は欧州カップ戦もあれば国内リーグでも優勝争いをしているから、そのシーズンはハードで長い。がしかし6月1日からはW杯の準備が始まるのだから、普段からの生活や体調管理、しっかり回復時間を取ること、ケアを怠らないこと、つまりはこの6カ月をW杯の準備期間と思って過ごすようにと念を押す必要がある。『忘れるなよ』とね」


── 残り5戦の強化試合でフランスの準備は十分ですか?

 「選手たちの意識や、チームがどのくらい仕上がっているかにもよる。次のテストマッチの時にはどの国と対戦するかもわかっているし、その時点で監督の頭では23人の最終メンバーは8割方、先発イレブンについては99%決まっている。もちろんケガ人などもあるから、すべてが想定通りなら、ということだが。それと、選手がシーズンを終えるタイミングも重要だ。早めに終えた選手は、感覚を鈍らせないためにテストマッチで多く使う必要がある。逆にグリーズマンのように、カップ戦でも決勝まで行き、シーズン中ほとんどの試合に出場しているというような場合は1試合もやれば十分で、それよりも回復が大事だ。そうした選手ごとのコンディションの加減を正確に判断するのも代表監督の重要な仕事だ」


── 戦術についてはどうでしょうか?

 「すでにすべてのオプションは監督の頭の中にある。ジルー、グリーズマン+サイドの2人でいくのか、3アタッカーでいくのか、といったことをね。選手の状態によって想定通りにいかないこともある。例えばジルーがケガをした場合には、戦術の変更を強いられる。現メンバーで、あのポジションは彼しかいないからね。そうしたこともデシャン監督は想定に入れているだろう」

昨年10月にはドメネク氏の持つ同国監督勝利記録(41)を更新し、46勝まで積み上げたデシャン。現代表で「代わりがいない」ジルーと


── ズバリ、このメンバーでどこまで行けるでしょうか?

 「準決勝。今のチームでここまで行けたら結果を出せたと言えるだろう。ただ、せっかく準決勝にまで行ったのなら優勝したくなるだろうけれどね。しかしドイツ、再びトップレベルを取り戻したスペイン、それからブラジルの3カ国は抜け出ていると感じている。この3者のどれかが優勝候補と言えるチームだ。その一歩後ろに我われフランス、ベルギー、あとはイングランド……だがイングランドは状況によるね。彼らは常に全力で突き進むあまり、いいところまで行った段階で回復不足でぱたっと敗れて最後まで行けないのがお決まりのパターンだ。フランスには準決勝、決勝まで狙えるだけの素材はあるが、実際に勝つにはプラスαが必要だ」

Raymond DOMENECH
レイモン・ドメネク

1952.1.24(65歳)FRANCE

選手時代はフランス代表でもプレーした元SB。リヨン監督などを経て93年から母国のU-21代表監督に。指導・育成の手腕が認められて04年、A代表監督に就任する。そのチーム作りは当初から疑問視されたが、06年W杯の準優勝で契約延長。しかしEURO2008でGS敗退に終わると、10年W杯では大会中に一部選手が造反するなどレ・ブルーが空中分解、1分2敗の惨敗で解任された。時を経て現在はブルターニュ代表監督やフランス監督組合の会長を務める他、『レキップTV』にレギュラー出演するなど解説者としても活躍中。

Photos: Getty Images, Yukiko Ogawa

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フランスレイモン・ドメネク

Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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