W杯出場国コラム:スウェーデン
3月1日、スウェーデンサッカー界に激震が走った。
EURO2016をもって代表引退を表明していたズラタン・イブラヒモビッチが、「代表チームが恋しい」「自分が代表にいないのに、他の選手がプレーしているのを見るのはハードだ」と述べた後に、「自分は代表復帰へのドアを閉ざしてはいない」と発言したからだ。
イブラヒモビッチの代表復帰に関しては、スウェーデン代表がW杯出場を決めた昨年11月にも話題となっていた。しかし、その時点ではイブラヒモビッチ本人が代表復帰を否定し、ヤンネ・アンデション監督もメディアからの質問に対して「今、代表にいる選手たちについて聞いてくれ」と一蹴していた。
なぜイブラヒモビッチが今になって突然、復帰もあり得るような発言をしたのか、その真意は定かではない。
ただ、この発言を受けた元代表選手たちのコメントはいずれも懐疑的なものだった。
スウェーデンサッカー界のレジェンドであるヘンリク・ラーションは「あくまでも自分の考えだけど、彼は復帰しないと思う」と述べている。その理由として、「彼はW杯予選に参加していないし故障を抱えている。自分は、彼にとっての最優先はプレーに復帰することだと考えている」と、12月にひざを負傷し再離脱して以降、いまだプレーしていない点を指摘。同じ趣旨のコメントはフレドリック・ユングベリからも発されており、「ズラタンが代表に復帰すべきかどうかは、スウェーデンにとって大きく、そして難しい問題」としながらも、「この問題は、彼がマンチェスター・ユナイテッドで復帰して活躍をしてから語られること」と口にしている。
3月の代表選は招集外、だがしかし
このイブラヒモビッチの爆弾発言から2週間後の3月15日、3月下旬に行われる親善試合の代表メンバーが発表されたが、そのメンバーの中に故障中のイブラヒモビッチは当然含まれていなかった。しかしながら、質疑応答の時間にはイブラヒモビッチの代表復帰を示唆したコメントに関する質問が飛んだ。
これに対してアンデション監督は、「すべての選手が代表チームで長くプレーしたいと思うのは良いことだ」と述べたうえで、「ただ、私にとっては何も変わらない。彼とは早い段階で話をしている」と回答した。
このアンデションの発言だけを取り上げると、イブラヒモビッチの復帰を否定しているようにも見えるだろう。しかし、指揮官の真意はそうではない。彼はこうも言っている。
「ズラタン、あるいは過去に代表引退を示唆した選手が再び代表でプレーしたいと思うなら、彼らが私に電話をしてくることは歓迎する」
イブラヒモビッチが代表復帰へのドアを閉じていないのと同様に、アンデションもまた彼の再招集へのドアは閉じていないのだ。
冒頭のイブラヒモビッチの発言はアンデションに向けたものでもサッカー関連のインタビューでのものでもなく、ストックホルムで行われたラケットボールアリーナ(屋内テニスコート)のオープニングセレモニーに出席した際のコメントの一つに過ぎない。アンデションはおそらくこう言いたいのだろう、「本気で復帰したいのなら、自分から電話をかけてきて私と直接話をしなさい。何もかもはそれからだ」と。
そしてアンデションもラーションらと同じく、代表復帰に向けてはマンチェスターUでのプレー再開が最優先課題になるとしている。
個人的には正直、現在の彼の状況からリーグ戦残り数試合で代表に再招集するだけの価値を認められるほどのパフォーマンスを見せるのは極めて困難であり、代表復帰は厳しいと思う。何より彼を入れるということは、予選を戦い抜きW杯出場を勝ち獲った選手の誰かを落選させるということだ。アンデション監督の人となりを思うと、そのような選択はしないように思える。
一方で、スウェーデンの新聞メディアがweb上で行っている「イブラヒモビッチをW杯で見たいと思うか」というアンケートの結果は、「YES:53%/NO:47%」と拮抗している。
イブラヒモビッチの今後の状況次第で、スウェーデン代表のW杯最終メンバーが発表される5月15日まで、何度となく議論の的となり注目を集めることになりそうだ。
Photos: Getty Images
Profile
佐藤 真理子
横須賀市在住。日韓W杯でスウェーデン代表にはまる。現地観戦を時おりこなしつつ、配信等のWEBを利用した“遠距離観戦”で一喜一憂する日々に忙しい。お隣のデンマークやノルウェー代表にも興味津々という北欧好き。