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戦術用語講座:ハーフスペース完全版#5

2018.02.28

Tactical Tips 戦術用語講座


攻守で布陣を変える可変型システムが一般化してきたここ2、3年、最後の30mを攻略するポイントになるスペースとしてにわかに注目を集めるようになった「ハーフスペース」。「ポジショナルプレー」を語る上でも見過ごすことができないこのゾーンの特徴から着目されるに至った経緯まで、ドイツの分析サイト『Spielverlagerung』(シュピエルフェアラーゲルング)が徹底分析。

あまりの力作ゆえに月刊フットボリスタ第54号では収まり切らなかった部分も収録した完全版を、全5回に分けてお届けする。


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戦術の歴史的な文脈から見るハーフスペースの特性

 ここまで説明してきたように、ハーフスペースは様々な効果や相互作用、そして特徴を反映した、戦略的な基礎となる性質を備えている。だが、ハーフスペースが備える性質というのは単にそうした基礎的な側面だけでなく、戦術的な理由からくるものでもある

 長らく一般的に使用されてきたいくつかのフォーメーションと対峙する時、ハーフスペースを活用することで優位に立てることが多い。特定のシステムが頻繁に使われるのは(そして、それによりハーフスペースが戦術的に有効なのは)、歴史的な理由がある。結局のところフォーメーションとは、それぞれの監督のプレーコンセプトを具現化するするために設計された配置でしかない。さまざまな文化や伝統の中から類似したプレーコンセプトが育っており、その類似したプレーコンセプトから類似した動きのメカニズムや特定のフォーメーションが生まれている。そして、これらは特定の国や特定のプレースタイルの同義語として語られることが多々ある。突き詰めれば、フォーメーションとはヒューリスティック(心理学用語で、論理的にではなく自らの直感や経験に沿って意思決定をしたり判断を下すこと。いわゆる経験則)でしかない。トレーニングによって落とし込まれた特定のプレーコンセプトに沿って、プレーの仕方を簡略するためのものに過ぎないのだ。

 また、フォーメーションは選手の配置を試行するボードの上で生まれたものでもあり、ゆえに直線的である。円形のフォーメーションは存在せず、何の法則性もなく選手が配置されたものをフォーメーションとは呼ばない。そうではなく、直線あるいは最大でも三角形から成る確たる構造をフォーメーションと呼ぶのだ。ちなみに、その三角形もほぼ直線でできており、結果的に立ち現れるものでしかない。

 (フォーメーションが持つ)これら2つの側面――フォーメーションを作ることの本質的な意味とサッカーにおける文化的特徴――と、この連載の冒頭で説明した“中央”や”サイド”に区分けするピッチ分割法とが結びつき、ハーフスペースを非常に独特で特別なものにしている。端的に言おう。フォーメーションを組む時、選手をハーフスペースに配置するという発想がそもそもない(なかった)ため、(自チームのみがハーフスペースを活用することで)対戦相手を苦しめることができるのだ。例えば、守備時に中央の選手たちをサイドの方向へ十分にスライドさせないチームが多く、そうでないチームの場合はサイドの選手にマンマークで対応するか、両ウイングのアタッカーは中央に絞らせない。後者は特にイングランドで非常に多いやり方だ。

 こうして考え得るすべてのシナリオにおいて、ハーフスペースは非常に価値があり効果的である。歴史的に見て、ハーフスペースに選手を配置することは(エルンスト・ハッペルのような例外的な個人を除いて)長らく考慮されてこなかった。ゆえにハーフスペースは特に有効で、対戦相手を驚かせてきた。サッカーの歴史におけるオーソドックスなフォーメーションや標準的な一連の動きでは、ハーフスペースに対して対抗手段を立てることができなかったのだ。 1990年代から2000年代に使われていた、横幅が現代ほどコンパクトではなく左右対称な[4-4-2]は典型的な例だ。ビルドアップ時、受け身でプレスを仕掛ける様子も見せない相手2トップの両脇のハーフスペースを自由に使うことができ、アタッキングサードでは広く空けられたハーフスペースを自由に使うことができたのだ。これは、幅を確保する代わりに孤立していたウインガーと彼らへのマンマーク対応といった、これまでスタンダードだった戦術に起因している。こうしたシステム上の問題は、より優れた守備ブロックの構築とポジショニングの改善によって修正されるものだ。だが、(ハーフスペースを使われると崩されやすいという)脆弱さが依然として改善されないフォーメーションもある。昔から言われている言葉に従えば、「ボールは人よりも速い」ということだ。

 そこに、ハーフスペースの戦術的および戦略的な側面が加わる。従来スタンダードだったフォーメーションに対してハーフスペースが有効なのはなぜか。ダイアゴナルなプレーの方がパスを通しやすく、(相手の陣形に生じた)ギャップを突きやすい。そして、対戦相手のフォーメーションがサイドや中央のレーンを基準に組まれている場合、その効果はますます大きくなる。

 中盤フラット型の[4-4-2]の2チームを想像してみよう。ボールを持ったボランチの1人が守備のハーフスペースにポジションを取ると、もう1人はポジショニングの原則に従って攻撃側のハーフスペースにポジションを取り、そこで適切なパスコースを作る。対して守備チームの2トップとダブルボランチは守備をする際の規則的なメカニズムを持つことができず、スライドするにしてもハーフスペースに選手がいることで難易度が上がり混乱してしまうだろう。FWの1人が相手に釣られてハーフスペースに入ってしまえば中央のスペースが空いてしまい、コンパクトな守備が崩れてしまう。さらに、そのスペースを空けてしまったにもかかわらず、ボールを奪うのは難しい。ボールホルダーがサイドのレーンにいれば、少なくとも集団的な守備で外に追いやって孤立させることができ、中央のレーンであれば、個々の選手がアタックを仕掛けることができる。また、スライドしたFWは自身のポジションの高さをキープせざるを得ず、中盤のスペースをうまくカバーすることができなくなってしまう。

 現代のスペースを基準とした守備ではこういった問題が起きることは少なくなってきているが、ないわけではない。[4-4-2]を多用していたイングランドのプレミアリーグはそれに該当する。

 ここまでに説明してきたあらゆる情報を踏まえて、最後の疑問に移りたい。

結論:ハーフスペースは本当に中央レーンよりも有効なのだろうか?

 ここまでの説明を読むと、ハーフスペースは戦略的な観点から最も重要なものだという印象を受けるだろう。中央のスペースはゴールに向かう最短のレーンで、多くの長所もあるが、ハーフスペースもほぼ同じような特徴を備えている。さらに、ハーフスペースはバリエーションの豊富さも兼ね備えている。中央のスペースからは似た特徴を持つ両脇のハーフスペースにしかボールを送れず変化をつけにくいが、ハーフスペースからはサイドのレーンと中央のレーンという、それぞれ特徴の異なるエリアにボールを送ることが比較的簡単にできる。さらに、ハーフスペースから中央にボールを入れれば相乗効果が生まれる(敵チームのスライドと、そのスライドによりFWに直接縦方向にボールを入れられる中央のスペースが開かれる)。この相乗効果により、(ハーフスペースから中央レーンに向けてプレーする方が)中央からハーフスペースへ向けてプレーしたり、あるいは中央レーンの中でプレーを展開するよりも効果的にプレーできるのだ。

 さらに、斜めの角度が付けられるというハーフスペースの必然的な特性がある。中央のレーンからは、視野は垂直方向に向けられ、コンビネーションプレーをするにしても、ゴールに遠ざかる方向に目を向けなければならない。それがハーフスペースでは、中央と同じように全方位へとプレーができる自由を確保した上で、さらに視野をゴール方向に向けたまま維持できる。また、実践的に縦方向の2つのゾーンを攻略する際には、一方のハーフスペースから(逆サイドではなく)逆のハーフスペースへ長めの展開のパスを送る方が効果的である。確かに、中央からは1つのレーンを飛ばして大外のサイドまで2方向にボールを展開できる。それに対して、ハーフスペースには1方向しかない。だが、その代わりにハーフスペースは2レーンを一気に飛ばしてボールを展開することができる。これは、相手選手を同サイドのスペースに引きつけたうえで、逆サイドに展開した時に成功する可能性が最も高いものだ。一方のサイドのレーンから逆サイドへの展開は、動きが激しい展開の中で、それを実践するのは難しい。

 ここで行われる議論はすべて、あまりに専門的過ぎるだろう。だが、このハーフスペースがメディアの中であまり取り上げてこられなかったのは事実だ。ハーフスペースは、すでにクロップのゲーム分析の中で頻繁に使われる語彙の中に含まれていたり、グアルディオラがポジショナルプレーの中でこのスペースでのプレーを重点的にトレーニングし、その戦略的意義を実践して見せていたにもかかわらず、である。

 この記事は、戦略的な観点から見たハーフスペースについての概要を理解できるようになっているはずだ。しかしながら、このテーマに関しては、まだまだ話さなければならないことがたくさんある。個人戦術レベルでの観点からは触れていないし、ドリブルを使うオプションに触れていなければ、パスの種類に関してもすべてについて触れたわけではない。あるいは、特別なグループ戦術における一連のシステマティックな動きやハーフスペースにおける守備の仕方も議論できるだろう。


Photos: Bongarts/Getty Images
Translation: Tatsuro Suzuki

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ハーフスペース戦術

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シュピールフェアラーゲルンク

2011年のWEBサイト立ち上げ以来、戦術的、統計的、そしてトレーニング理論の観点からサッカーを解析。欧州中から新世代の論者たちが集い、プロ指導者も舌を巻く先鋭的な考察を発表している。こうしたプロジェクトはドイツ語圏では初の試みで、13年には英語版『Spielverlagerung.com』も開始。監督やスカウトなど現場の専門家からメディア関係者まで、その分析は品質が保証されたソースとして認知されている。

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