ジニャックも大歓迎。天才メネズ、メキシコで元気に“自己中”発揮中
名優たちの“セカンドライフ”
欧州のトップリーグで輝かしい実績を残した名優たちが、新たな挑戦の場として欧州以外の地域へと旅立つケースが増えている。しかし、そのチャレンジの様子はなかなか伝わってこない。そんな彼らの、新天地での近況にスポットライトを当てる。
from MEXICO
Jérémy MÉNEZ
ジェレミー・メネズ
2004年のU-17欧州選手権でフランスに初の優勝カップをもたらしたのが、もうはるか昔のことのようだ。カリム・ベンゼマやサミル・ナスリ、ハテム・ベン・アルファらがいたこの大会の主力メンバーは“87年組”と呼ばれ、何年かに一度のタレントがいっぺんに出現したとしてフランス国内で大いに注目を集めた。2得点を挙げたジェレミー・メネズもその一人だ。
育成を受けたソショーでプロデビュー。17歳だった2005年1月にわずか7分間でハットトリックを達成し、フランスリーグの歴代最年少記録と最短記録を樹立。彼の名前は世界中のサッカー界に轟き、マンチェスター・ユナイテッドら国外の強豪も獲得に動いた。テクニックが確かな天才ドリブラーとして期待された彼の未来は明るかった。
しかし、そこから今日までの14年間を振り返ると、不思議なくらい評判に見合った実績は残していない。
ソショーの後はモナコ、ローマ、パリSG、ミランと渡り歩き、16-17シーズンはふたたびリーグ1に復帰してボルドーでプレーしたが、ケガの影響もあり目立った活躍はなかった。昨年夏、トルコリーグのアンタルヤスポルに移籍。熱烈な歓迎を受けたが、前シーズンからの股関節のケガが癒えずデビュー戦を迎えられずにいると、期待が大きかっただけにファンは苛立ちを募らせ、実戦復帰後も当時の監督レオナルドから評価を得られなかった。
そんなトルコに半年で別れを告げ、今年1月、たどり着いたのが欧州から見て地球の反対側にあるメキシコだった。
所属先のクラブ・アメリカは国内タイトル12回、CONCACAFチャンピオンズリーグでも7度優勝している強豪だ。1月9日、メキシコシティ空港に到着したメネズを250人ものファンが出迎え。さらに、彼を含むこの冬入団した新メンバー4人のお披露目イベントには2万人が集まった。
待望のデビュー戦は1月27日のアトラス戦。途中出場だったが得意のドリブルを披露すると、次のロボス戦では痛快なボレーで移籍後初ゴールをマークした。
3年前からメキシコリーグに所属する先輩、アンドレ・ピエール・ジニャックは「まさにゴラッソ!ジェレミー・メネズ!」とTwitterで称賛。メネズも「サポートをありがとう、Hermano(兄貴)!来週会おう!」と返した。
「来週」とは、2月10日に行われた後期第6節のティグレス対クラブ・アメリカのこと。ここで早くも両雄相まみえるメキシコリーグの“フレンチ・クラシコ”が実現した。
前半、ジニャックが真骨頂の弾丸ヘッドで先制点を奪うと、後半、メネズがこれまた彼らしい憎いほどに冷静なPKで同点に返して、フランス勢が1点ずつ挙げて引き分けという仲の良い結果に終わった。
移籍が決まる前、ジニャックはメネズからアドバイスを求められたという。
「ジェレミーが来るのはうれしいよ。ここは本当に住み心地が良いし、リーガMXを彼もきっと楽しめると思う」
ジニャックは永住権を取ろうとしているくらいメキシコでの暮らしを気に入っている。彼のアドバイスは、メネズの背中を大いに押したことだろう。
「入団の時は熱烈に歓迎され、退団する時はほっと安堵される」
フランス時代、メネズは「ボールを持ち過ぎる」「プレーが自己中心的過ぎる」と批判され続けた。とんでもない額のお金が動く現代のフットボール界では、結果重視になるのは免れない。チームの勝利のために駒となって動ける選手が称賛され、その中で自分の個性を出しつつチームに貢献できる選手が最高級プレーヤーの称号を得る。
それでも、パリSG時代にメネズが見せたキレの鋭いドリブルや予想を裏切るフェイント、際どいコースを突いたパスといった技ありプレーの数々は、いまだに強烈に印象に残っている。その試合の結果は忘れてしまったが、「良いプレーを見せてもらった」という感動だけは残っている。
そんな“魅せるプレーヤー”メネズにとって、選手たちが「自分の個性を発揮したい!」という気持ちを全面に出してプレーするメキシコリーグは合っている気がする。
メキシコのサポーターは持ち上げる時も凄いが、叩き方も相当厳しいと聞くから容赦はないだろうが、もともとヒール役は性に合っているメネズからすれば、そんなプレッシャーも望むところだろう。眼力鋭い濃いめのルックスも馴染んでいる。
ジニャックはメキシコでの活躍がデシャン監督の目に留まってフランス代表に復帰した。EURO2016出場したのは、現在のメネズと同じ31歳の時だ。メネズも、2013年3月以来ご無沙汰しているフランス代表復帰があるかもしれない。
フランスのサッカー誌『SO FOOT』はメネズを「入団の時は熱烈に歓迎され、退団する時はほっと安堵される」選手だと描写した。言い得て妙だが、今回の挑戦は果たしてどうなるか?
「僕のすべてを出し切るから、ファンのみんな、待っていてくれ」と綴ったメッセージ通りの活躍で、キャリアの次章を謳歌してほしい。
■プロフィール
Jérémy Ménez
ジェレミー・メネズ
(クラブ・アメリカ/元フランス代表)
1987.5.7(30歳)183cm / 77kg FW FRANCE
2004-06 Sochaux
2006-08 Monaco
2008-11 Roma (ITA)
2011-14 Paris SG
2014-16 Milan (ITA)
2016-17 Bordeaux
2017-18 Antalyaspor (TUR)
2018- Club América (MEX)
Photos: Getty Images
Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。