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戦術用語講座:ハーフスペース完全版#1

2018.02.21

Tactical Tips 戦術用語講座


攻守で布陣を変える可変型システムが一般化してきたここ2、3年、最後の30mを攻略するポイントになるスペースとしてにわかに注目を集めるようになった「ハーフスペース」。「ポジショナルプレー」を語る上でも見過ごすことができないこのゾーンの特徴から着目されるに至った経緯まで、ドイツの分析サイト『Spielverlagerung』(シュピエルフェアラーゲルング)が徹底分析。

あまりの力作ゆえに月刊フットボリスタ第54号では収まり切らなかった部分も収録した完全版を、全5回に分けてお届けする。

 この記事では戦術論の中でも、あまり話題にされてこなかったピッチ上のエリアについて掘り下げていきたい――ハーフスペースである。

 我われの分析の中にはこれまでも頻繁に登場し、そのたびにハーフスペースとはいったい何なのか、どんな意味があるのかと質問を受けてきた。この記事で、それらの問いへと徹底的に答えたいと思う。

 そのためにはまず、(ピッチ上の)どこがハーススペースなのかを特定するとともに、ハーフスペースの特徴を簡潔に示すべきだろう。

サッカーにおけるピッチ分割法

 サッカーのピッチを複数に分割するというのは普通に行われることだが、その分割の方法はたくさんある。一つは、チームのフォーメーションを基準にした分割法である。多くの場合、水平方向(横)に3本か4本のラインあるいはエリアへと区切られる。[4-4-2]なら3ライン、[4-1-4-1]なら4ラインといった具合だ。この時、それぞれのエリアの間には“ライン間のスペース”が生じる。この“ライン間のスペース”は、ピッチを垂直方向(縦)に区切った時も同様に生じるものである。

 この方法によるピッチの分割はシンプルである。ほとんどのシステムの場合、横方向の区切り方は両サイドと中央の3エリアとなる。例えば、ルイス・ファン・ハールはここからさらに縦方向に6エリアに区切ってピッチを18分割した。エリアごとに主に担当するプレーヤーが決められ、それぞれにタスクと義務が与えられた。

 (3つに区切られた横方向のエリアのうち)中央エリアがやや広くなっているが、これがいまだに主要な分割法となっている。プレーヤーたちが位置しているエリアと、チームが試合の4局面(ボール保持時と非保持時、攻から守あるいは守から攻へのトランジション時)のうちどのフェーズに置かれているか次第では、特定の選手には(通常とは)異なるプレーが求められることになる。その時どうプレーすべきかは、アリーゴ・サッキによって提唱された4つの基準点(味方・相手・ボール・スペース)に基づいて決まってくる。

 あるいは、純粋かつ幾何学的に分割するやり方もある。例えば、下図は先ほどと同じようにピッチを18分割しているが、それぞれのエリアの大きさは均等である。

 仮にチームが自陣深く引いた場合、多くの人が非常に重要だと考えている“ライン間のスペース”が生じるのは、上図で言えば“14番のエリア”である。なお、なぜ14番エリアが重要なのかを詳しく知りたければ、事実と科学的考察に基づく興味深い英文の記事があるので参照してほしい。

水平方向のピッチ分割法

 個人的には、戦術的事象や戦略的に鍵となるエリア、そして個別の試合状況によりフォーカスできる分割法を好んでいる。その分割法では、ピッチ(の横幅)を次の3種類のエリアに分ける。サイド、中央、そしてハーフスペースである。

 理論的には、この上の図のサイドのレーンをより狭め、ハーフスペースと中央のレーンをより広げることもできる。あるいは、横幅を均等ではなくそれぞれ変えることもできるし、5分割ではなく7分割にすることさえ可能だ。ただし、中心となるのは常に中央のレーンである。中央は多くの場合――チェスでもそうであるように――最も重要なエリアだと見なされる。中央のレーンをコントロールした者がゲームをコントロールするのだ。その理由はいくつかの例を挙げることで簡単に説明することができる。

 中央では、プレー選択の自由度が(他のレーンに比べ)非常に高い。タッチラインによってプレーが制限されることもないためほぼ全方位(前後左右と斜めの8方向)に向かってプレーできるのに対し、サイドの場合は5方向(前後とタッチラインを背負っていない側の横方向、そして斜めの2方向)にしかプレーできない。これはつまり、(サイドでは)プレーするスペースが制限され、縦パスにはより高い精度が求められることを意味する。

 中央の場合、そうした心配はない。中央レーンでのより優れたポジション取りをベースにプレーするチームは多くの選択肢を持ち、ゆえによりダイナミックにプレーすることができる。対戦相手は両サイドと中央、すべてのレーンのケアを強いられるからである。

 だがたいていの場合、中央はタイトに締められプレーを選択する時間を与えられない一方で、(サイドと比較して)より広範なエリアを把握しなければならないために味方や敵を見落としやすくなる。こうしたボール保持時の時間的余裕とボールを展開するスペースのなさは、相手のブロックが中央ほどコンパクトではないサイドではそこまで頻繁に起こらない。さらに、サイドのプレーヤーは180°の視野でピッチ全体を把握できるし、サイドでのボールロストは中央でのそれほど危険ではない。前述した14番エリアが示しているように、中央を経由するルートはゴールへの最短の道であり、中央レーンでのボールロストは失点の危機に直結する。

 ではなぜ、この中央と両サイドのレーンにハーフスペースを加えるべきなのだろうか?

ゴールを基準点とするサッカーというスポーツ

 答えはシンプルかつロジカル。サッカーというゲームの本質に関係している。サッカーの目的はゴールを決めることだ。ロマンチストであろうと現実主義者であろうと、ファンであろうと監督であろうと、戦術家あるいはストラテジストであろうとカオスを好む人間であろうと、究極的には全員がボールがゴールに収まることを求めている。

 ゴールがあるのはピッチの横幅の真ん中である。対峙する両チームの陣形は、それがボールオリエンテッドな(人ではなくボールの位置に応じた)守備だろうとゾーンディフェンスだろうとボールの位置によって変わってくる。ボールがサイドのスペースにある時と中央にある時では、それぞれのチームの陣形は変わってくる。

 “ハーフスペース”はこうした分析的な見方をする時に存在する。両チームが(ボール方向に)スライドする動きを見ていれば、サイドのスペースや中央にボールがある時だけでなく、その間にあるもう一つのエリアでも(他のレーンと)違いがあることに気づくはずだ。それこそが“ハーフスペース”だ。

 ここで、その違いを説明するために一つの状況を想定してみよう。守備側は[4-4-2]で攻撃側は[2-5-3]でビルドアップを試みている。アンカーは多少角度をつけつつ2CBの前に三角形を形成するように位置を取る。守備側のポジショニングは“ノーマル”。攻撃の局面でも守備の局面でも基本となるポジショニングだ。

 ボールがサイドのスペースにある場合、守備側はボールサイドにスライド。SBはカバーのために押し上げ、2CBはSBより深い位置を取り、中盤は三日月のような陣形となる。ボールをめぐる動きや周囲の状況、戦略的なオプションはまったく違ったものになる。こうなると攻撃側がゴールを目指してプレーしようにもスペースは限られ、突破は困難になる。

 最後にハーフスペースにボールがある場合、どのような事が起きるか見てみよう。アンカー(あるいは押し上げたCB)がハーフスペースでボールを持っているとする。再び、両チームは陣形を変化させる。この時点で、ハーフスペースの有効性がわかると思う。両チームの動きが戦略的な違いを生むからである。

 仮に3つのレーン(両サイドと中央)で動いたとしても、ボールの位置にそれほど大きな変化はない。動き自体はよりインテンシブ(激しく)になるが、根本的に新しい陣形が必要になるわけではない。この状況を打開するためには、縦方向へのさらなる変化が必要になる。なぜなら、この状態ではパスと戦略心理的な側面(例えば、ペナルティエリア外からのロングシュート)しか手段がないからである。

ハーフスペースが生む斜めの角度

 ここで中央とサイドのレーンの間にハーフスペースを加えてみると、戦略的にも戦術的にも異なる視点が現れてくる。ひと目でわかるのは、中央にボールがある場合、両チームとも選手がゴール前に位置している。こうなると、目線はまっすぐ縦方向を見ることになる。ここからハーフスペースにボールを動かすと、視野は縦方向ではなく斜め方向となる。ハーフスペースにポジションを取った選手には、中央の場合と同じ数のプレーの選択肢が用意されている。その一方で、中央にいる時のように敵をターンで外しながらサイドにボールをさばく必要もない。ハーフペースにいる選手はゴール方向への視野を確保したまま、パスを受け、さばくまでの一連のプレーが可能になるのだ。


ハーフスペース完全版#2に続く

Photo: Getty Images

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ハーフスペース戦術

Profile

シュピールフェアラーゲルンク

2011年のWEBサイト立ち上げ以来、戦術的、統計的、そしてトレーニング理論の観点からサッカーを解析。欧州中から新世代の論者たちが集い、プロ指導者も舌を巻く先鋭的な考察を発表している。こうしたプロジェクトはドイツ語圏では初の試みで、13年には英語版『Spielverlagerung.com』も開始。監督やスカウトなど現場の専門家からメディア関係者まで、その分析は品質が保証されたソースとして認知されている。

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