シティ対ナポリのスペクタクル。パスサッカー頂上決戦【UU分析】
ウルティモ・ウオモレビュー:17-18 CL GS第3節マンチェスター・シティ vs ナポリ
現代におけるポゼッションサッカーの最高峰、グアルディオラとサッリのチームが激突した2017年10月17日のCLグループステージ第3節を、イタリアのWEBマガジン『ウルティモ・ウオモ』が戦術的に徹底分析。立ち上がりの30分、マンチェスター・シティの衝撃にたじたじとなったナポリだが、そこから自らのアイディアで流れを反転させた。
このマンチェスター・シティ対ナポリの前日会見で、マウリツィオ・サッリは選手たちに、たとえ力が及ばないように見えたとしても、目の前の敵に対等な戦いを挑むよう求めた。ナポリのサッカーの質以前に、サッリが自らのチームをどれだけ信頼しているか、この試合にどれだけの希望を懸けているかを示すコメントである。
実際、この試合に向けられた期待は非常に高かった。それは両チームのサポーターだけに限った話ではない。ヨーロッパで今最も好調な2つのチームが、いかなる怖れも持つことなくそれぞれのサッカーをピッチ上で存分に発揮し合う戦いを、ソファでくつろぎながら存分に楽しみたいと思っているニュートラルなサッカーファンにとっても同じことだった。なにしろナポリはこの時点でセリエAで無敗、シティもジョセップ・グアルディオラが監督の座に就いて以来最高の状態にあるのだ。
そしてナポリとマンチェスター・シティは、非常に共通点の多いチームでもある。サッリのチームは、GKレイナから始まるグラウンダーのパスでチームを押し上げていく能力に関して、信じられないレベルにある。敵のプレスを誘い出しておいて、そこから複数のパスコースを作り出して、ワンタッチ、多くてもツータッチのパスを高い精度で繋いでいく能力が際立っているのだ。ボールの周囲に人数をかけ、その密度を利用して相手の秩序を乱し、敵陣半ばまで徐々にチームを押し上げ、エリアに侵入するスルーパスを送り込む機会を虎視眈々と狙う。
ポゼッションを相手の秩序を乱すために利用するのはシティも同じだが、そのやり方には小さな違いがある。グアルディオラのチームは、よりスピードのあるボール循環をベースとしている。それが可能なのは、敵プレッシャーラインの背後に位置する選手たちが、流動的なポジショニングによってパスを受けるためのスペースと時間を作り出すからだ。まるでメトロノームに導かれているかのように正確で連続的なボールタッチによってチームを敵陣半ばまで押し上げ、作り出した位置的優位の果実をそこで摘み取ろうとする。グアルディオラのサッカーは、絶え間なくボールを動かすことで相手を振り回し、正しい距離感を失わせて陣形を歪め、プレッシャーの質を低下させる。シティはどんな相手もこうした流れの中に引きずり込もうと目論む。もちろんナポリも例外ではない。それは開始からの数分間で早くも明らかになった。
シティの多角形
Il poligono del City
マンチェスター・シティは、ビルドアップ時には[3-2-4-1]の陣形を取る。その配置は極めて流動的だが、4つの頂点は常に固定されている。GKエデルソン、CFガブリエウ・ジェズスという縦軸、サネとスターリングという横軸だ。他のすべてのプレーヤーは、この多角形の内側を、ボールの動きに応じて変化するいくつかのあらかじめ決められたメカニズムに従って、自在に動き回る。
左SBのポジションに入ったデルフは、ビルドアップの初期段階では“偽インテリオール”として内に絞り、フェルナンジーニョと並んだ位置を取る。こうしてフェルナンジーニョが中盤で孤立する状況を回避することで、シティは敵の第1プレッシャーラインに穴を空ける最終ラインからの球出しにおいて、常に少なくとも2つのパスコースを確保していた。
バイエルンでもラームやアラバを使って行われていたこのメカニズムは、さらに2つの戦術的メリットをシティにもたらした。まず、ナポリのMFに、デ・ブルイネとダビド・シルバへのマークを放してでも前方のデルフにプレッシャーをかけに行くかどうかという選択肢を突きつけた。そして、シティはもしボールロストしても、最も危険な中央のゾーンがしっかりプロテクトされている。さらに、サネとスターリングを高い位置に張らせることによって、ナポリのSBがハイプレスに参加できないようブロックしてもいた。
だが、立ち上がり30分のシティの優勢を説明するためには、デ・ブルイネとD.シルバが果たした役割を明らかにする必要がある。グアルディオラが昨シーズン、影のレジスタと位置づけていたD.シルバは、2ライン間でラストパスを供給するという、より本来の資質に合った役割に戻った。その代わりにゲームメイカーとしての役割を担うようになったのがデ・ブルイネだ。
このベルギー代表の攻撃的MFは、右ハーフスペースの中を縦に動きながら、あらゆる高さで自由に攻撃に絡んでいた。時には最終ラインからの球出しを助けるために自陣まで下がることすらあった。彼はモダンフットボールにおいて他に類例がないほどの繊細なテクニックの持ち主であり、それを敵ペナルティエリア手前で決定的な仕事をするためだけでなく、自陣でビルドアップの起点として機能するためにも存分に活用した。
戦術的に見ると、2人のインサイドMFをこれだけ高く、また接近した配置とすることによって、シティはほぼ理想的な形でピッチを埋めることが可能になっていた。右からスターリング、デ・ブルイネ、G.ジェズス、D.シルバ、サネという5人によって構成される前線は、効果的なプレッシャーによってナポリを自陣に押し込め、非常に高い位置でのボール奪取に成功していた。
グアルディオラによる開始30分間の支配
La prima mezz’ora di dominio Guardiola
敵陣半ばで5つの縦レーンに完璧に配置された5人のアタッカーは、プレスにおいてだけでなく、とりわけ攻撃において大きなアドバンテージをもたらす。それは先制ゴール(9分)の場面で早くも顕著になった。
フィニッシュに繋がるアクションは、フェルナンジーニョからサネへのサイドチェンジから生まれた。ボールを収めたその時点ですでに、前線には5人の味方が整然と並んでいた。この場面では、このチームのトータルな流動性に注目しても興味深い。右のハーフスペースには、サイドチェンジのスペースを作るために後退していたデ・ブルイネに加えて、右SBのウォーカーがダイアゴナルランでその前に入り込み、ペナルティエリアに詰めていた。2ライン間の左ハーフスペースにいたD.シルバは、そこからスタートを切ってナポリ最終ラインの裏に走り込み、サネからのスルーパスを引き出すと、ゴールラインぎりぎりまで進んで中央にマイナスのクロスを折り返す。この時点でナポリのディフェンスはD.シルバの動きを追う形でゴールの目の前まで後退しており、その後ろ、ゴール正面では右サイドからダイアゴナルに走り込んできたウォーカーとスターリングが完全にフリーになっていた。ナポリの中盤は後手に回ってそれを捕まえ切れなかった。
2-0とするゴール(13分)も、ナポリのプレッシャーラインの背後に作り出した数的優位の状況から生まれている。中央でデルフからのパスをフリーで受けたフェルナンジーニョが右にサイドチェンジ、それを受けたスターリングが中央から裏に走り込んだG.ジェズスに素早く浮き球の縦パスを送り込むも、これは前を取ったアルビオルに頭でクリアされる。この場面でも、ハーフスペースを完璧に埋めていたシティの陣形が、高い位置でのポゼッション回復に繋がった。というのも、このクリアのこぼれ球を拾ったデ・ブルイネが、そのままスピードに乗ってクリバリを振り切り、ゴール前中央にグラウンダーの速いクロスを送り込んだからだ。そこに詰めていたG.ジェズスはそれを簡単にタップインするだけで良かった。
ナポリは、立ち上がりから30分続いたシティの素晴らしい攻勢に、サッリ監督が求めた通り彼らのサッカーで応えようと試みた。すなわち、ボールサイドの密度を高め、連続的なムーブメントによって狭いスペースの中で繰り返されるハイスピードなパス交換で敵の陣形を揺さぶり(グラム、ハムシク、インシーニェが構成する左のチェーン)、それによって逆サイドに生まれるスペースをアタックする(カジェホンのペナルティエリアへのダイアゴナルラン)という仕掛けだ。中央ではメルテンスが裏のスペースを狙う動きで最終ラインを押し下げ、ラインを高く保ってスペースを奪おうとするシティの試みを無化しようとする。
試合に対するアプローチが誤っていたという、試合終了後に聞かれた指摘は当たっていない。単に、組織的な連係とそのタイミングがもはや完璧なレベルに達した相手を前にしなければならなかったというだけのことだ(実際サッリは試合後、シティを「破壊的なチーム」と形容していた)。
ナポリの選手が最初の30分に犯した一つひとつのミスは、時には気がつかないほど小さなものであったにもかかわらず、まるで山肌を滑り落ちる雪崩がその途中にある雪を巻き込んでどんどん大きくなるように、シティの生み出す危険を増幅していった。ジエリンスキがデルフにかけるプレッシャーの1秒1秒の遅れ、外に開くと見せかけて背後に入り込むD.シルバの一つひとつの動きが、シティのボール循環に大きなアドバンテージを作り出していった。
ナポリのハイプレスのメカニズムを破綻させたのは、まさにそのデルフのポジションだった。シティはビルドアップの初期段階で、常にプラス2人の数的優位を手にしていた。足下のテクニックが素晴らしいGKエデルソン、そしてデルフまたはオタメンディ(カジェホンが1対2の数的不利を強いられていた)だ。そのためナポリは、ボールホルダーへのプレッシャーが後手に回っただけでなく、第1プレッシャーラインの背後に大きなスペースを残し、シティがそこにフリーでパスを引き出して前を向き、ボールがオープンな状態で最終ライン攻略を仕掛けるのを許すことになった。
この地域支配を通して、シティは最初の30分間、ほぼ完璧な形で攻め続けた。2-0というスコアをもたらした2つのゴールに加えて、クロスバーを叩いたシュートが1つ、ゴールライン上でのクリアが1つ、さらに圧倒的なボール支配率(74%)と前代未聞の危険度(シティのゴール期待値xGの3分の2は最初の30分に積み上げられたものだった)をもたらしたのだ。
ナポリの勇気ある反撃
La risposa corraggiosa del Napoli
この地獄のような30分を乗り越えたところで、ピッチ上では何かが変わり始めた。シティのインテンシティが低下したという側面もあっただろうし、ナポリの選手たちが立ち上がりに抱いていた恐怖感を払拭したという側面もあっただろう。いずれにしてもナポリから無理なダイレクトプレーが減り、その分リズムを落としてじっくりとポゼッションを確立するようになった。
ナポリは、ジョルジーニョを欠いた時にはボールを速いスピードで走らせることができないとあらためて覚ったのだろう。ディアワラのテクニックはまだそれについていけるだけの精度を獲得していない。リズムをよりコントロールすることによって、すなわちパスの精度と成功率を高めることによって(試合の最初の1/4は69%だったが、残り3/4は86%まで上がった)、ナポリはシティのファーストプレスを徐々にかわせるようになっていった。ジョルジーニョをベンチに置くという選択は、結果的にはナポリにとってネガティブな方向に働いたことになる。もちろんそれを立証する手立てはないのだが。
リズムを落としたことによって、ナポリはショートパスの交換によってチームを押し上げ、シティ陣内でポゼッションを確立できるようになった。そうして38分に得てメルテンスが蹴ったPKは、この試合最初の枠内シュートでもあった。メルテンスは中途半端なシュートでこの得点機を無駄にするのだが、シティの一方的なゴールラッシュになるのではないかと思われたそれまでの展開からナポリが脱出するきっかけとなったという点で、心理的に重要な役割を果たしたことは確かだ。
精度を高め安定してきたパスワークを通して、ナポリはグアルディオラがデルフのポジショニングを通して仕掛けた戦術的な罠を逃れることにも成功した。ボール支配率が下がり自陣でブロック守備を行う時間が長くなったことで、決して慣れているわけではないSBの仕事をこなすことを強いられたデルフは、絶え間なく動き回るカジェホンを食い止めるのに難儀することになる。
ナポリの優位性は最後の30分でさらに顕著になった。それに大きな貢献を果たしたのが、アグレッシブなプレスを通して試合の流れをさらに手元に引き寄せたアランの投入(故障したインシーニェと56分に交代)だった。シティはチームの重心を下げることを強いられ、ますます自軍ゴールに近いところでボールを扱わなければならなくなり、エデルソンは危険な縦パスを一度ならず強いられることになった。
地域支配を失ったシティの目の前には、ネガティブトランジション時の脆弱性という、完全に乗り越えたはずだった昨シーズンの弱点も、亡霊のように蘇ってきた。
グアルディオラは、ベルナルド・シルバの投入(スターリングと70分に交代)を通し、試合の流れを手元に引き戻そうと試みる。そのドリブル突破によって試合のスローなリズムを揺さぶり、高いテクニックによってボールポゼッションを確保することが狙いだろう。一見するとパラドックスだが、この交代は試合をコントロールし結果を守るのに役立つものだった。しかしポルトガル人アタッカーの投入は期待した結果はもたらさなかった。ナポリはすでに安定したボール支配を通して主導権を手中に収めており、シティは敵陣まで押し上げポゼッションを確立する術を持たなかったからだ。
ボールを保持したナポリは、左サイドのトライアングルを完璧に機能させた。ハムシクのタイミングがぴったり合った動き出しと、グラムの勢いに乗ったドリブルが、2-1のゴールに繋がるPK(73分)をもたらしたのだ。自らがキッカーとなることを強く求め、冷静きわまりないシュートを決めたのは弱冠20歳のディアワラ。これは偉大なプレーヤーの振る舞いである。このレベルのコンペティションで初めて決めたゴールであることを考慮すればなおさらだ。
このゴールによって、試合の流れはますますナポリの側に傾き、ギュンドアンの投入(D.シルバと76分に交代)もメンバー表の名前を書き換える以外にはいかなる効果ももたらさなかった。試合も終盤になると、両チームともに疲労が目立って陣形が間延びし始め、中盤でボールを奪うとすぐに前線に縦パスを送り込むというプレーが多くなってくる。
試合のこの時間帯を象徴するアクションは以下の2つだ。まず、シティがピッチ中央からパス3本でG.ジェズスのシュートまで持ち込んだ場面(ゴールはオフサイドにより取り消された)。そしてアランが自陣でボールを奪ってからたった2本のパスを経て、メルテンスがペナルティエリア手前でループシュートを試みた場面だ。まるでフェンシングの試合を思わせるような展開だったが、どちらのチームを相手にとどめを刺すような決定的な一撃を放つことはできなかった。
ナポリにとってこの試合は、大きな自信を手に入れるにふさわしいものだった。もちろん、あのおぞましい立ち上がりの30分を除いての話だが。シティの衝撃を受けてふらついた後のナポリは、昨シーズンのマドリッドで完敗を喫した時(CLラウンド16)と比べて、明らかに成熟し自信を増したチームになっており、ホームのサンパオロでシティから勝ち星をもぎ取ることも可能なように見えた。
一方グアルディオラにとってこの試合は、シティの今シーズンのサッカーは十分なレベルにあることをあらためて証明するものだった。ただ、ナポリに勝つためには30分間の完全なゲーム支配で十分だったとしても、ヨーロッパのトップクラブに対しても同じようにいくわけではないだろう。シティはプレーのバリエーションをさらに広げる必要がある。B.シルバとギュンドアンを効果的にチームのメカニズムに組み込み、試合のコントロールを失ったりリズムが落ちたりした時のトランジションをより安定したものにしなければならない。これらは、現在のシステムに代わる戦術的な選択肢を持つことが極めて重要になる今年春に、より差し迫った課題になるだろう。過去にバイエルンを率いていた当時、1月までは精密機械のように機能していたグアルディオラのシステムが、春の到来を乗り越えられなかったのを我われはすでに目にしている。
試合の主導権が両チームの間を往き来したこの試合は双方の監督に、その複雑性と完成度においてすでに極めて高いレベルにあるそれぞれのサッカーをさらに向上させる、いくつかのヒントを与えた。それ以前に私たちは、これまでめったに目にしたことがないほどのスペクタクルを私たちに見せてくれた2人の監督と選手たちに感謝しなければならない。このスポーツを私たちが愛しているのは、まさにそうした試合を観るためなのだから。
Photo: Getty Images
Translation: Michio Katano
Profile
ウルティモ ウオモ
ダニエレ・マヌシアとティモシー・スモールの2人が共同で創設したイタリア発のまったく新しいWEBマガジン。長文の分析・考察が中心で、テクニカルで専門的な世界と文学的にスポーツを語る世界を一つに統合することを目指す。従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で新たなファン層を開拓し、イタリア国内で高い評価を得ている。媒体名のウルティモ・ウオモは「最後の1人=オフサイドラインの基準となるDF」を意味する。