注目クラブのボランチ活用術:パリ・サンジェルマン
シャビ、シャビ・アロンソといった名手たちが欧州サッカーのトップレベルから去ったここ数年、中盤で華麗にゲームを動かすピッチ上の演出家は明らかに少なくなっている。では実際のところ、各クラブはボランチにどのような選手を起用し、どんな役割を求め、そしてどうチームのプレーモデルに組み込んでいるのか。ケーススタディから最新トレンドを読み解く。
パリ・サンジェルマンのゲームは、ことに国内リーグにおいては、ボールキープする時間は長いが相手が守備ブロックをがっちり固めてくる場合が多いため、案外シュートチャンスは多くない。CFのカバーニは、彼自身が下がらない限りまったくボールを触れない試合も多い。そんな展開の中、いかにクリエイティブなパスで敵の守備網を崩すか、緩急をつけてゴールを狙える一瞬の隙を生み出すかが非常に重要となる。それを司るのがベラッティの役割だ。
[4-3-3]を定型とするPSGのフォーメーションで、中盤の1人は底に位置するアンカー、通常はチアゴ・モッタで、彼はDFラインの手前に陣取る防波堤であるため、より守備の比重が高い。ラビオは「ボックス・トゥ・ボックス」プレーヤーで、よりゴール付近の高い位置までを仕事場としてフィニッシュにも積極的に絡む。そしてベラッティは、T.モッタよりも高い位置を主戦場とし、自軍のものになったボールを“ゴールに繋がる”ボールへと変える役目を担う。ボールを受けた途端、瞬時に誰が一番その技量や距離感においてゴールに近いか、どのステップを踏めば最短でゴールにたどり着くかを判断。それに従ってサイドチェンジの長いパス、細かく繋ぐ短いパス、あるいは自らのドリブルなど、その場に応じた最適のツールを選択して“仕掛け”をスタートする。
ベラッティが現在このポジションで世界最高クラスと言われるのは、その判断が正しいことと判断までのスピードが速いこと、さらにはそれを正確に実行できるスキルがあるからだ。守備面でも、状況判断が的確なタックルや小柄な体を生かしてのインターセプトなど貢献度は高い。PSGでは昔からアタッカーやDFには良い人材がそろっていたが、その両端を繋ぐ中盤のクオリティが低く、間延びしたゲームをする傾向があった。カタール資本の現体制となって充実の戦力補強が始まり、中盤に有能な選手を集められるようになったことでプレーの質は格段に上がった。
ネイマールとムバッペというスピードスターを得た今季は、前線の流動性も増している。ベラッティもそれに合わせて、ショートパスの連動で相手の守備ブロックを断絶していく動きが以前よりも増している。
17-18 チームスタイル:ポゼッションとカウンターの併用
基本的に中盤の右側で、ペナルティエリア付近まで上がることもあるが、ゴールエリア内まで入ることは稀。同様に最終ラインに近い位置まで自ら下がることも近年は少なくなり、ある一定の高さを保ってアンカーやDF陣からパスを引き出している。
Photo: Getty Images
Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。