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なでしこジャパンの真価は?亘崇詞監督が語る東アジアの今

2017.11.16

EAFF E-1 サッカー選手権 2017 決勝大会

女子も熱いぞ、EAFF E-1 サッカー選手権 2017 決勝大会! 彼女たちにとって今大会は、来年4月に控える2019年W杯アジア予選の前哨戦。男子と同じ日本、北朝鮮、韓国、中国が12月8日(金)~15日(金)、千葉市蘇我球技場(フクダ電子アリーナ)で東アジア王座を争う6試合は激戦必至だ。

4カ国の力関係は今? 大会で注目すべきポイントとは? 人気コメンテーター・解説者として『フットボリスタ』でもお馴染みで、指導者としては日本、さらに中国の女子クラブでコーチ、監督を歴任し、現在は岡山湯郷Belleで指揮を執る女子サッカー界のエキスパート、亘崇詞氏に話を聞いた。

 2010年代以降の“なでしこ強し”というイメージが変わりつつある――それが東アジア女子サッカー界の現状です。かなり実力が拮抗している。それでいて、4カ国がいずれも「世界一」に手が届くレベルにあるというのは男子勢との違いと言えるでしょう。そんな世界最高峰のプレーを目の前で観戦できる貴重な機会なのですから、日本のサッカーファンのみなさんにはぜひスタジアムに足を運んでほしいですね。

 まず、この大会に限って言えば、北朝鮮が2013年、2015年と2連覇中でチャンピオンの座に君臨しています。後半に入ってもスタート時点じゃないかと目を疑うくらいの体力。さらに、あの勝負に対する執念。技術面では上回る日本も、その点は学ぶべきだと思います。一方、北朝鮮と同じくフィジカルなサッカーで、タイトなマーク、落ちないスタミナを武器としてきた韓国は変化の過程にある。これはAFC U-19女子選手権などを観戦した育成年代からも感じる違いですが、持ち前の力強さに繋ぐ意識や崩しの形といった要素が加わり、今まさに進化を遂げている印象です。

驚くべき中国の足球改革

「五輪前には合宿に計120〜150日も割いた!
代表選手になかなか会えませんでした(苦笑)」

 そして、この日本、北朝鮮、韓国を2016年リオ五輪のアジア予選で退け、オーストラリアとともに本大会に参戦し、ベスト8入りまで果たしたのが中国です。僕はその1年前、2015年5月から女子リーグの広東女足で監督を2シーズンやらせてもらい、習近平国家主席が主導する“足球改革”の一端を目の当たりにしました。僕のいた2部のチームでもJ2クラブ並みの年間予算を有したり、何千万円も稼ぐ選手が現れたり。急激なプロ化でしたけれど、ブラジルやオーストラリアなど海外の現役代表プレーヤーを呼び、リーグ全体のレベルアップを図った成果が早くも実り始めています。

 そんな国は代表の強化策も驚くべきもので、五輪前にはチーム合宿に計120〜150日も割いたと言うんですよ! 日本じゃ絶対に無理でしょ。こうした方針はユース世代も一緒で、僕は就任当初、AFC女子選手権を控えていたU-19代表選手になかなか会えませんでしたからね。また、めでたく僕のクラブからA代表に招集されたMFタン・ルイン(今大会でも注目してほしい選手です)ら3選手は、のちにサッカー協会の意向で1部の強豪クラブへとレンタル移籍させられて行きました(苦笑)。

 代表監督には長年フランス女子代表を率いてきたブルーノ・ビニを2015年に招へいし、それまでロングボール一辺倒で前線の速い選手、強い選手で勝つというサッカーをしていたチームが「丁寧さ」を身につけました。欧米人と比べて身体能力で劣る中、サイドバックから中盤でもう1本パスを繋いで逆サイドへという、それで日本が世界を制したような「経由」のサッカーが大切になる。僕も広東女足では“日本人ならこんなふうに丁寧にプレーするぞ”と指導していましたが、欧州から来た指揮官もやはりそう考えたんですね。

 そのビニ監督といえば、五輪予選中にウチが日本風の指導をしていると聞きつけ、「一緒に練習したい」と言い出したこともありました。“まさか来ないだろ”と思っていたら、わざわざ北京から飛行機で3時間以上かかる広東省まで、普通にフルメンバーでやって来ましたからね(笑)。で、その練習試合を最後に予選が行われる大阪へと飛び、ちゃんと日本に勝ってくるという……。こうした柔軟さ、ある種の怖さにも中国の“本気”を感じ、日本も踏ん反り返ってらんないぞと思い知らされたわけで、それが僕自身、指導者として日本に戻ってチャレンジしたいと心に決めた理由でもありました。

広東女足監督時代に中国代表MFタン・ルインと

新生なでしこ、勝負の時

「タレントは大勢います。彼女たちの力を100%
引き出せるような戦い方を見せてほしいですね」

 2016年4月に高倉麻子監督体制が発足して約1年半、世代交代をした新生日本は、“私たちはこれで行くんだ”という形をまだ見せられていないように思います。なでしこリーグ3年連続MVPの阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)や攻守のバランサーとしてチームの要である宇津木瑠美(シアトル・レイン)らに加え、20代前半の世代にも、国内では別格でドイツに渡った横山久美(フランクフルト)、個で打開できる稀有な存在の岩渕真奈(INAC神戸レオネッサ)、世界をびっくりさせられる技術を備えた籾木結花(日テレ・ベレーザ)など、タレントは大勢います。彼女たちはヨーロッパに行こうが、北米・南米に行こうが、強豪クラブが大金を払ってでも欲しがる選手。欧米人のように凄いスピードやキックで驚かせるわけではないけれど、先ほど言った丁寧さや巧さで相手を翻弄し、チームに貢献できるプレーヤーです。

 これまでトライを繰り返してきた日本代表ですが、彼女たちの力を100%引き出せるような戦い方を、このEAFF E-1サッカー選手権で、日本のファンの前で、ぜひ見せてほしいですね。成長を続ける北朝鮮、韓国、中国を越えてナンボ。来年4月に控える2019年ワールドカップ予選(=2018年AFC女子アジアカップ/ヨルダン)を見据えた上でも、真価が問われる大事な大会です。

 またもう一つ、2017年シーズンにクラブの監督を経験させていただいて実感したのは、やはり代表チームが強くあってこそ国内リーグが盛り上がるということ。観客数が減少してしまった、なでしこリーグ。代表がワールドカップ(2011年:優勝、2015年:準優勝)、オリンピック(2012年:準優勝)と躍進していた頃が今となっては夢のようです。なでしこリーグが再び活気づくためにも、いち指導者として、いちファンとして、日本の奮闘に期待したいですね。

亘崇詞 Takashi Watari

1972年、岡山県生まれ。92年にアルゼンチンの名門ボカ・ジュニオールとプロ契約。その後スタッフに加わり、トヨタカップ優勝などを経験する。ペルーのスポルティング・クリスタルや栃木SC、アルテ高崎でプレーし、2009年に現役引退。以降、女子サッカー界において12年に日テレ・ベレーザ、13年にASエルフェン埼玉でコーチ、15年からは中国リーグの広東女足で監督を務めた。16年12月に岡山湯郷Belle(なでしこリーグ2部)の監督兼GMに就任。J SPORTS『Foot!』などでコメンテーターとしても人気を博す。

EAFF E-1 サッカー選手権 2017 決勝大会
チケットJFA、コンビニ、各プレイガイドでチケット絶賛販売中!
TV放送はフジテレビ系列で全国生中継!

その他詳細はこちらの大会公式ページでご確認ください。

Photo: Getty Images, Takashi Watari

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EAFF E-1 サッカー選手権 2017 決勝大会なでしこジャパン日本代表

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フットボリスタ 編集部

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