アレグリ、グアルディオラが実践したゲームメイカーの生かし方
ペップ・グアルディオラは2004年時点のインタビューで「自分のようなタイプのMFは絶滅の危機に瀕している。唯一、現代に生き残っている存在がアンドレア・ピルロだ」と語った。絶滅危惧種の天才は2017年11月、自身の公式SNSでスパイクを脱ぐことを発表した。彼とそして2016-17限りでスパイクを脱いだシャビ・アロンソへの惜別をかねて、時代に挑んだ偉大なるボランチの挑戦にスポットライトを当てたい。
ピルロを生かした「可変式3バック」
アントニオ・コンテのユベントスは、ピルロを軸として構築されてきた。シエナ時代には果敢なサイドアタックで相手を攻略する[4-2-4]スタイルの信奉者として知られた指揮官は、ピルロの加入に合わせてフォーメーションを変更。中盤の人数を増やした[4-3-3]の採用が、ピルロ・システムの始まりだった。そこからさらに今やコンテの代名詞となった[3-5-2]システムの実用化に着手。攻守両面でピルロの能力を最大限に引き出すシステムは、分析と対応を繰り返す「戦術研究家」がそろうイタリアの地でも猛威を振るった。
ピルロの両脇を固めるインサイドMFとして配置されたアルトゥーロ・ビダルとクラウディオ・マルキージオは、守備の局面になれば豊富な運動量でのリトリートによって名手の左右のスペースを的確に埋める。2012年夏にフリー移籍で加わったポール・ポグバも含め、ボール奪取に優れた2枚のMFは組み立ての局面でも的確に前線とピルロの中継役となれるテクニックを兼ね備える。優秀な副官たちに支えられた司令塔は、現代フットボールのピッチに君臨した。
当時指摘されていたのが「ピルロの左右に置くMFの負荷が大きい」というシステム上の弱点だった。彼らの運動量が落ちてくるとチームは間延びしてしまい、カウンターを受けやすくなる。これを解決する策が、3バックの両脇に位置するCBがピルロの高さにまで進出する可変システムだった。
その最大の利点は、カウンター時にピルロの両脇のスペースを埋められることだ。中盤が戻れないタイミングであれば、両脇のCBがポジションを上げる。
攻撃面のメリットもある。コンテのユニークな前後分断型のシステムでは中盤で孤立していたピルロが「前」と「後ろ」を繋げるキーマンになっていた。当然の帰結として彼には、縦パスかバックパス以外の選択肢がない。ところが、新たに横パスという選択肢が加わることで組み立てが格段に円滑化した。これはピルロへのマンツーマン対策にも効果的で、徹底マークで司令塔が潰された状態に陥れば両CBがボールの供給役を担う。そこで詰まっても、最後尾のボヌッチに戻してロングボールを蹴り込むパターンもある。稀代の才能を生かすためのシステムはユベントスをさらなる高みへと押し上げ、スクデット3連覇という大きな果実をもたらした。
シャビ・アロンソを生かした「アイソレーション」
この機会に昨シーズン限りで引退したもう一人の天才ボランチ、シャビ・アロンソについても言及したい。
バイエルン時代、ペップ・グアルディオラは緻密な攻撃戦術の中にバスク出身の司令塔を組み込んだ。シャビ・アロンソの創造性に頼るのではなく、彼の正確無比なロングキックが効果的に機能する局面を意図的に設計したのだ。
2014年のCLグループステージ、7-1で快勝したローマ戦を例に説明しよう。レバンドフスキとミュラーの2トップ、ロッベンとベルナトの両翼がローマの4バックを引き付けた状態で、左インサイドMFのゲッツェが一度ボールを受けておいてシャビ・アロンソへリターンパス。ミュラーが外側から回り込むように裏のスペースを狙い、相手の左SB(アシュリー・コール)を内側へと戻らせる。
対面するアシュリー・コールがいなくなった右サイドでは、ロッベンが自由に仕掛けられるスペースが生まれる。逆サイドにアイソレーション(孤立)する選手を作り出しておいて、そこにシャビ・アロンソが正確なロングボールを供給。突破力のあるロッベンをあえて孤立させ、一気に相手の守備ブロックを攻略する。パスコースを探す時間を極限まで減らすチーム全体の動きによって、ペップはシャビ・アロンソの能力を最大化した。
絶滅危惧種と言われたボランチたちはキャリア晩年においても現代フットボールの中に組み込まれ、確かな輝きを放っていた。選手の特性に合わせて戦術を構築することの重要性は、いつの時代も変わらない真理である。
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Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。