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ユベントスをセリエA 6連覇へ導いたアレグリの戦術変更とは?

2017.06.01

イタリア長文分析メディア『ウルティモ・ウオモ』による徹底考察


セリエAで史上初となる6連覇を達成し、CLでは2シーズンぶりに決勝進出を果たしたユベントス。だが、その道のりは決して平たんではなかった。ターニングポイントとなった一戦、それが1月のセリエA第21節ラツィオ戦だ。この試合でアレグリ監督は、初めてクアドラード、ピャニッチ、ケディラ、ディバラ、マンジュキッチ、イグアインの6人を同時起用する超攻撃的な[4-2-3-1]を採用。そして、そこに込められた意図と可能性を、急成長を続けるイタリアのスポーツ総合WEBマガジン『ウルティモ・ウオモ』はいち早く示唆していた。

※本稿内のデータはすべて2016-17セリエA第21節終了時点

重要なのはシステムではなく、プレー原則の更新だった

 1月15日のフィレンツェでの不甲斐ない敗北――セリエAのアウェイ9試合でこれが4敗目だ――に続く本拠地ユベントス・スタジアムでのラツィオ戦、ユーベの戦いぶりは様々な意味で注目されていた。

 ここまでのところ、アウェイで敗れた後の次のホームゲームでは常に楽勝してきている(なにしろセリエAではホーム27連勝中だ)。それゆえ注目が集まったのはユーベのメンタル的な反発力よりもむしろ、戦術的な側面、具体的にはフィレンツェでの[3-5-2]から4バックに切り替えるのかどうかだった。3人のMFで構成されるユベントスの中盤センターは、フィオレンティーナの2ボランチ(バデリ、ベシーノ)と2トップ下(ボルハ・バレーロ、ベルナルデスキ)が構成する中盤の四角形の前に恒常的な数的不利に置かれ、大きな困難に直面した。その意味でこの敗北は[3-5-2]の敗北であると捉える向きも少なくなかった。とりわけ多かったのは、このシステムが守備的に過ぎるという批判だった。

 しかし、このラツィオ戦ではマルキージオ、ストゥラーロが欠場しており、中盤をロンボ(ひし形)に組むのは困難だった。そして、アレグリが選んだスタメンの顔ぶれはさらに興味を煽るものだった。クアドラード、ピャニッチ、ケディラ、ディバラ、マンジュキッチ、イグアイン。この6人をどのようにピッチ上で共存させるのか?

 キックオフ直後からすでに、アレグリが選んだシステムが[4-2-3-1]であることは明らかだった。中盤センターにケディラとピャニッチ、2列目に右からクアドラード、ディバラ、マンジュキッチ、そして1トップにイグアインという構成だ。

ラツィオ戦のパスマップ。[4-2-3-1]の布陣は明確であり、パスも均等に配分されている

試合の行方
Com’è andata la partita

 対するラツィオのシモーネ・インザーギが選んだ布陣はいつもの[4-3-3]。左ウイングには、アフリカネーションズカップ出場中のケイタの代わりに若いロンバルディが、右にはフェリペ・アンデルソンが入っている。

 ユベントスはラツィオのポゼッションに対して、[4-3-3]に対する[4-2-3-1]の噛み合わせを生かして高い位置からプレスをかけて行った。イグアインが2人のCBの間で動き、ディバラはまずアンカーのビリアの前に立ってパスコースにフィルターをかけ、そこからボールを持ったもう一人のCBに飛び出して行く。中央のルートを切られたラツィオのビルドアップは必然的にサイドを経由することになったが、ユーベはそこでも、ウイングとSBがそれぞれマッチアップする相手にプレッシャーをかけ、ボールサイドのセンターMFが敵のインサイドMFに詰めて行く。

 先制点はすぐに決まった。ディバラの優れたテクニックに加えて、ユーベの戦略的基盤となった左サイドの局地的優位性がもたらした得点だった。マンジュキッチが圧倒的なフィジカル的優位を武器に、パトリックとのマッチアップにおいてあらゆるフィジカルコンタクトと空中戦を制したのだ。ヘディングによるポストプレーでディバラにアシストを送り込んだのも彼だった。

 ユベントスは先制後も攻撃の手を緩めず、ハイプレスを仕掛け、ボールを奪い、敵陣でのポゼッションを続けた。

左CBワラシはニアポスト際を効果的にカバーするにはあまりに前に出過ぎ、かつ外に開き過ぎている。右CBデ・フライは明らかに後手を踏んでおり、ワラシとラインがそろっていない。GKマルケッティの前にぽっかりと空いた危険ゾーンを、イグアインが老獪なやり方でアタックした

 17分に決まったイグアインによるユベントスの2点目は、右サイドをワイドに使った組み立てから、ラツィオの2CBの信じられないポジショニングミスによってもたらされた(上図参照)。

 2点リードしたユベントスは、やっとハイプレスの手を緩め、極めて秩序の取れた[4-4-1-1]によるポジショナルディフェンスを主体としつつ、ごく稀にハイプレスを交えながら試合をコントロールした。

 左ウイングに入ったマンジュキッチは、守備の局面では中盤のラインまで下がるなど、このポジションをオーソドックスな解釈でプレーした。攻撃の局面においては、リヒトシュタイナーがオーバーラップしてクアドラードと絡むコンビネーションが頻繁に見られ、ユベントスの攻撃は右サイドでの展開が50%を占めた。一方の左サイドは、マンジュキッチがゴールに背を向けた状態でパスを受け、局面を前進させる基準点として機能する形が多かった。

守備の局面における[4-4-1-1]。マンジュキッチは左サイドMFとして完璧に機能している

 ラツィオは、ユベントスのハイプレスに対抗する戦術的なソリューション(解決策)を見出せなかっただけでなく、ユベントスのポジショナルディフェンスを崩す術も、ポゼッションによるゲームコントロールを阻む術も持たなかった。
この試合のゴール期待値は、ユベントスの1.7に対してラツィオはわずか0.3。ユーベの圧倒的な優位とラツィオの困難を象徴的に示す数字である。

[4-2-3-1]はどう機能しているか
Cosa abbiamo capito del 4-2-3-1

 3バックから4バックへの移行にどうしても目が向きがちになるが、注意すべきなのは、ユベントスが3MF(アンカー+2インサイドMF)ではなく2セントラルMFの中盤を使ったのは、これが今シーズンわずかに2度目という点だ。

 前回使われたのはアウェイのキエーボ戦(第12節)。この時アレグリがピッチに送り出したのは、ストゥラーロを左サイドMFに、2トップにイグアインとマンジュキッチを起用した[4-4-2]だった。それと比べても今回の[4-2-3-1]はまったく新しいソリューションであり、今後の戦いに向けて非常に有用ないくつかのポイントを見出すことができる。

 攻撃の局面においては、組み立ての幅を確保しながら、2ライン間のプレーも効果的に機能していた。ディバラは、2トップの一角でプレーする時よりも高めの位置を自由に動きながら、ポジションを見出すことができた。これは周囲のチームメイトがバランス良くスペースをカバーしていたからだ。守備の局面では、[4-4-1-1]のポジショナルディフェンスにおいては2ラインを狭く保ったコンパクトな布陣を保ち、ハイプレスに出る場合にも個々の機能と役割が明確だった。

 アレグリの言葉によれば、このシステムを試したのは試合前の4日間だけだったという。確かに、メカニズムを磨き上げる余地はまだまだ残されている。特に守備の局面においては、「人」と「スペース」のどちらにポジショニングの基準点を置くのか、そのバランスを取り直す必要がある。CBが自分のゾーンを離れて人について行く(スペースではなく人に基準点を置く)場合、[3-5-2]ならば3人目のCB、[4-3-1-2]ならばアンカーが、それによって空いたスペースをカバーすることができる。しかし[4-2-3-1]では敵のアタッカーに対して2対2の数的均衡で守ることになるため、スペースは空白になってしまう。

ボヌッチとキエッリーニは、「人」に基準点を置いたためそろって左サイドに引っ張り出されている。4バックと2ボランチの守備ブロックは、がら空きになった中央のスペースに走り込んでくる相手に適切に対応することができるのか?

 しかし、こうした個別の戦術的状況はさておき、このラツィオ戦におけるユベントスの戦いぶりからは、いくつかの興味深い戦術的指標を読み取ることができる。

未来のユーベ
La Juve futura

 アレグリは試合後、今後も[4-2-3-1]で戦うことはあり得るが、それが唯一のシステムになることはないと明言している。特定のシステムに過剰にとらわれることがない戦術的柔軟性をあらためて示した格好だ。

 [4-2-3-1]の個別的な特徴はさておき、このラツィオ戦の戦いぶりからは、ここから始まるシーズンで最も重要な時期にユーベがいかに立ち向かうのか、いくつかの点でその方向性を指し示すものだった。第一の指標は、マルキージオの不在時に、チームで最も守備的な性格の強い2人のMF、リンコンとストゥラーロのどちらも起用しなかったこと。

 中盤に起用されたのは、ケディラとピャニッチだった。この2人をトップ下のディバラサポートする中盤の正三角形は、アレグリがディフェンスの安定よりもポゼッションによるゲーム支配を優先したことの表れだ。試合の序盤に2点のリードを奪っていたにもかかわらず、ユベントスのボール支配率は58%、パス成功率も90%を記録した。これはシーズン平均よりもそれぞれ4%、5%高い数字である。

 さらに意味があるのは、ボール支配率が得点の前後でほとんど変わっていないというデータ。これは、リードした後はボールを相手に渡して受けに回るというユベントスのスタンダードとは異なる振る舞いである。例えば、ラツィオ戦の前のホームゲームであるボローニャ戦では、ボール支配率は53.6%にとどまった。前半に2点リードした後は相手にボールを委ねた結果である。

 パスの構成もまた従来とは異なっている。ショートパスの比率はシーズン平均の84.3%を大きく上回る87.7%に達した。パス成功率が高まったのはその必然的な結果である。ユベントスは、高いテクニックを持つ選手たちを数多くピッチに送り出すと同時に、組み立ての幅と2ライン間のプレーを保証する陣形を敷くことを通し、ボールを保持することによって守るというアプローチを選んだ。

 守備の局面においては、フィジカル的な優位という従来からの大きな武器を生かしつつも、人ではなくスペースに基準点を置く純粋にポジショナルなディフェンスに移行することで、この選手たちの特徴によりマッチした守備のメカニズムを見出した。

 これはシステムの問題ではなく、プレー原則の問題である。フィオレンティーナ戦の後、キエッリーニは「今シーズンのユーベにはポグバが欠けている」と口走った。守備の局面ではフィジカルを武器に相手を制圧し、攻撃の局面では力ずくで局面を前に進めるタイプのMFである。実際、今のユベントスにはポグバはいないし、2年前からビダルもいない。フィジカルからテクニックに軸足を移した戦術に移行するのは避けられない道である。

 その意味で、これまでとは異なるやり方で守り、より効果的かつ質の高い攻撃をするために、チームが擁しているテクニックとクオリティの高さを積極的に生かすというアレグリの選択は、極めて筋の通ったものだと言うことができる。

 ユベントスの未来を見据える上で重要なもう一つの指標が、この試合におけるミラレム・ピャニッチのパフォーマンスである。守備力が不十分だという理由から、ユベントスにおいては[4-3-1-2]のトップ下以外、ピャニッチに本当に適したポジションはないと見られてきた。5得点5アシストという数字を記録し、イグアイン、ディバラとの連係も非常に効果的であるにもかかわらず、攻守両局面でチームに貢献するにはあまりにも軽量級に過ぎるというのがその理由だった。

 しかし、この日のピャニッチを見れば、選手のパフォーマンスにとってはどんな戦術的文脈の中に置かれるかが何よりも重要であることがあらためてわかる。両チームを通じて最も多い5回のインターセプト(うち2回は敵陣)は、敵のパスコースを先読みする能力の高さが過小評価されてきた証拠だ。攻撃の局面においては、常に積極的にボールに絡み、組み立てに幅と奥行きをもたらすパスワークを通して、ビルドアップから仕掛け、フィニッシュまでの全プロセスにおいて非常に質の高いゲームメイクを見せ、司令塔として試合を作った。

 ピャニッチの守備力は、フィジカルコンタクトを前提とするポジショナルな中盤守備の中ではチームにとって問題になり得るが、相手の意図を読んで先手を打っていくダイナミックな中盤守備においては、問題どころか非常に効果的に機能することが明らかになった。さらに彼のクオリティは、ポゼッションを通して相手からボールを取り上げる時間を引き延ばすのにも大きな貢献を果たす。

 組み立ての質に軸足を置いたチーム構成と戦術は、ピャニッチだけでなくディバラにも、よりイグアインに近い位置でプレーする機会を増やすという点で、少なくない恩恵をもたらし得る。

 [3-5-2]が悪いわけでは決してないし、[4-2-3-1]が今後のユーベにとって唯一のシステムとなるわけでもないだろう。重要なのは試合を進める上で基本とするプレー原則であり、それがチームが擁する選手たちの特性に高い親和性を持っていることだ。この議論は、特定のシステムや戦術に執着せず、むしろ戦術的な効率を最大化するために異なるアプローチを取ることも厭わないアレグリのような監督に、より強く当てはまる。

 アントニオ・コンテが[3-5-2]を導入した当時と比べると、現在のユベントスは選手の顔ぶれもその特徴も大きく変化している。現有戦力の中でより高いクオリティを備えたプレーヤーを一人でも多くピッチに送り出し、彼らの持ち味を最大限に引き出しながらチームとして機能させるために、新たなプレー原則を導入するのは避けられないことであり、また自然なことでもある。

 ユベントスが今後歩むべき道を指し示しているのは、システムではなくプレー原則の更新なのだ。アレグリはその方向に向かってもう歩き出している。

Analysis: Fabio Barcellona
Translation: Michio Katano
Photo:Getty Images

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ウルティモ ウオモ

ダニエレ・マヌシアとティモシー・スモールの2人が共同で創設したイタリア発のまったく新しいWEBマガジン。長文の分析・考察が中心で、テクニカルで専門的な世界と文学的にスポーツを語る世界を一つに統合することを目指す。従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で新たなファン層を開拓し、イタリア国内で高い評価を得ている。媒体名のウルティモ・ウオモは「最後の1人=オフサイドラインの基準となるDF」を意味する。

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