【独占取材】U-20W杯見るなら知っておくべき欧州列強の育成事情
イタリアサッカー連盟 育成年代責任者インタビュー
今回欧州の育成事情の最先端を調べるにあたり、フットボリスタのインタビューに応じてくれたのは「イタリアサッカー連盟の頭脳」と呼ばれるマウリツィオ・ビシディ。アリーゴ・サッキやアントニオ・コンテの副官としてイタリアサッカー改革に従事し、ベントゥーラ新体制では育成年代を統括する責任者に任命されたビシディは近隣のライバル国をどう分析し、何に葛藤しているのか。U-20 ワールドカップ出場国ドイツ、フランス、イタリア、ポルトガル、イングランドを含めた欧州列強で本当に成功している最新の育成大国はどこなのか?――貴重な当事者の声を聞いてほしい。
最先端のドイツ、オランダ
モダンなプレーモデルが浸透し、メンタリティが変化してきた
──月刊フットボリスタ2016年4月号の特集「戦術パラダイムシフト」でイタリアの育成年代の問題点を取り上げましたが、対照的な成功例としてドイツの名前を挙げていました。今回は、欧州列強の育成事情を掘り下げていければと思います。
「ドイツは2000年代に入ってから、DFB(ドイツサッカー連盟)が全国に連盟の育成センターを作り、同時にクラブにもアカデミーの設置を義務づけて、タレント発掘と育成の仕組みを抜本的に作り直した。そして戦術的にも一つのシステム([4-2-3-1])に基づくモデルを作り、トレーニングメソッドも含めてすべての育成センターに展開した。
この[4-2-3-1]のプレーモデルは、ドイツの伝統的なスタイルとは一線を画した、非常に攻撃的でモダンなスタイルだ。これを実現するための技術、戦術のトレーニングメソッドとメニューを連盟レベルで準備し、それをトップダウンで育成センターとクラブに下ろしていった。その大部分はビルドアップ、ポゼッション、展開、崩しという攻撃の局面にフォーカスされている。それが浸透していくにつれて、ドイツサッカーのメンタリティそのものも明らかに変化してきた印象がある。フィジカル能力に依存しゴールまで最短距離で進む1対1重視の単調で直線的なサッカーから、高いフィジカル能力を維持しながらもテクニックを重視したコレクティブで攻撃的なサッカーにシフトした。今育成年代ではどのカテゴリーでもドイツがトップか2位、悪くても3位という位置にいる」
──そのドイツの新しいプレーモデルを具体的に説明してもらえますか?
「どのチームも基本的なメカニズムは同じだ。後方からビルドアップする時には、左右のSBがかなり高い位置までポジションを上げ、CBが大きく外に開いて、その間にMF1人が下がって来る。ドイツの特徴は、最終ラインのパス回しにGKも積極的に参加するところ。彼らはGKというポジションに対する概念を変えた。攻撃の局面ではGKもDFと同じ1人のフィールドプレーヤーという考え方に立っている。だからドイツの若いGKはみんな足下のテクニックが非常に優れている」
──2CBとGKに下がって来たMFを含めた4人が横に長いひし形を作って、そこでボールを動かすところからビルドアップが始まるわけですね。
「そう。その間に(2ボランチの)もう1人のMFはポジションを上げ、トップ下が中盤まで下りて来て陣形的には[3-4-3]に近い形になる。とはいえ中盤の4人はフラットに並ぶわけではなく、常に斜めのパスコースを作るようなポジションを取っている。そして、最終ラインから中盤にボールが入ると、そこから相手の2ライン間にボールを送り込んで、敵最終ラインを攻略する形を作ろうとする。重要なプレー原則は、最終ライン攻略には5人を前線(敵中盤ラインの背後)に送り込むこと。前線中央で基準点となるCFと2列目の3人に加えて、もしウイングが中に絞っているならばSBが攻め上がり、ウイングが開いていればMFが縦に入り込んでいく。それで攻撃の人数は5人だ。初期のビルドアップ段階ですでに5人が敵中盤のラインより前にポジションを取っていることすら珍しくない」
──攻撃の選手が低い位置まで下がって来ることはあまりないわけですね。
「原則としてはないね。それよりも2ライン間にとどまって味方からのパスを引き出そうと動く。後方の4人(ある時点からはGKを除いた3人)は、敵中盤ラインよりも手前に残ったMF、SBも巻き込んでパスを回しながら前進し、サイドあるいは中央の2ライン間に縦パスを送り込もうとするわけだ」
──その時点ですでに陣形としてはかなり前がかりになっていると思いますが、ボールロストした場合のリスクはどう管理するのでしょう?
「重心が前に移っている時の対応は一つしかない。そのままハイプレスに転じて即時奪回することだ。リトリートせずそのまま前に出てボールにプレッシャーをかけ、その周囲のパスコースを潰す。それが外されたら初めてリトリートするという順番だ。ドイツはどの年代でもこのゲーゲンプレッシングのメンタリティが浸透している。近年はドイツだけでなく他の国でもそういうチームが多くなってきた」
──ドイツの場合は、導入から10数年が経って、育成年代からA代表まで一つのシステム、一つのプレーモデルで完全に一貫しているということですね。
「そういうことだね。ドイツに次いで成功しているのはオランダだ。この2カ国で育成各年代のランキングトップを争っている感じだね。ベースとなるやり方は同じだが、違うのはオランダには黒人選手が多いこと。ドイツはほとんどが白人選手だが、オランダ、フランス、イングランドは黒人選手の比率が高い。これはフィジカル能力という点でとりわけ育成年代では大きなアドバンテージになる。黒人選手は肉体的に早熟なので、同じ17歳でも例えばイタリア人と比べると体格もパワーも明らかにレベルが違う」
──オランダやイングランドは、A代表ではそれほど黒人選手の比率が高いという印象はないのですが。
「早熟な分、20歳を超えると白人選手に追いつかれてくる部分もあるし、A代表では育った国ではなくオリジンの国(ほとんどはアフリカ諸国)を選ぶ選手が少なくないということもある。これはフランスやポルトガルでも同じだ」
過渡期のイングランド
A代表と育成年代では明らかにスタイルが異なる
──最近、若手の台頭が著しいイングランドの育成事情は?
「イングランドの場合、育成年代においては、積極的にボールを支配し攻撃の局面ではある程度までリスクを冒してゴールを奪いに行くスタイルが、どの年代にも浸透しつつある。しかしプレミアリーグのサッカーは、一般的に言ってそうしたコンセプトとはかなり異なっている。フィジカルで闘争心にあふれ、やみくもに前へ前へというスタイルが今なお主流だ。戦術的なディテールに注意を払ってそれを遂行しようという姿勢はあまり見られない。後方から攻撃をビルドアップしよう、ボールポゼッションを大切にしよう、という意識は薄い。代表レベルで見ても、A代表のロイ・ホジソンのサッカーと、育成年代の各代表のサッカーは明らかにスタイルが異なっている。育成年代では新しい戦術トレンドを取り入れた、モダンなスタイルが浸透してきているからね。それと比べるとA代表のサッカーは一時代前のブリティッシュスタイルだ」
──育成レベルで新しい原理原則が浸透しつつあるとしたら、数年後にはトップチームレベルでもそれを身に付けた世代が主流になってきますよね。
「あと5、6年後にはA代表やプレミアリーグでもカルチャーが変わってくるかもしれないね。イングランドは黒人選手が多く、スピードやコンタクトプレーといったフィジカル能力を生かした伝統的なスタイルに適している。そこに、今育成年代で取り組んでいるメソッドを通してテクニックや戦術的インテリジェンスも上乗せしていけば、プレースタイルも変わってくるかもしれない」
──現A代表にもスターリングやチェンバレン、ケインやアリのようなタレントがU-21代表から徐々に上がってきています。彼らをイングランドの新しい取り組みが生んだ第一世代と言っていいんでしょうか?
「本当にそうなるかどうかはこれから次第だろう。イングランドの場合、観客がテクニカルなポゼッション志向のスタイルをあまり評価しない、もっとインテンシティが高くてアグレッシブな、前へ前へというスタイルを好む部分がある。例えば、ポゼッションを維持するためのバックパスに観客がブーイングの口笛を吹くというようなことが起こるからね。育成年代ではテクニカルなスタイルが定着しても、トップチームのレベルにまでそれが波及するかどうか、私はそれほど楽観できないと思っている」
独自路線のフランス
ポジションに特化したスペシャリスト。チームとして機能させようとは考えていない
──アンリ、アネルカらを輩出し、90年代はヨーロッパのトップと言われたフランスの育成は今どう評価すればいいのでしょうか?
「フランスは、戦術レベルではヨーロッパの中でもむしろ遅れている。というよりも、近年の新しいトレンドは育成レベルには入ってきていない。彼らは、それぞれのポジションのスペシャリストを育てることに関しては非常に優れているのだが……。
説明しよう。フランスの育成年代はほぼ常に[4-3-3]で戦っている。時には中盤の三角形が反転して[4-2-3-1]になるが、基本は[4-3-3]だ。7番と11番はウイング、9番はCF。ウイングは1対1のドリブル突破、サイドをえぐってのクロス、2ライン間に入り込んでコンビネーションからシュートといった、各ポジションに要求されるスキルと個人戦術をよく叩き込まれている。そのプレーのベースになっているのは、組織的な戦術でもプレー原則でもなく、ポジションに応じた個人技術と個人戦術だ。したがって、一人ひとりがそれぞれのポジションに応じた役割をこなす反面、コレクティブな連係についての意識が低いという側面も持っている。一人ひとりは優秀で1対1の局面に強いがチームとして機能する部分が少ないと言えばいいだろうか。
もう一つ特徴的なのは、前線とCBという高いフィジカル能力が要求されるポジションには黒人選手、よりインテリジェンスが要求される中盤には白人選手が多いということ。これは人種差別にも繋がりかねないデリケートな問題なので、その理由を深く追求することはしないでおくが……」
──でもポグバ、コンドグビア、マテュイディなど、A代表の中盤には黒人選手が多くないですか?
「そうだね。ただ育成年代に関しては、どの年代のチームも同じような傾向があるという印象を受ける。それはさておき、育成全体のトレンドに話を戻すと、フランスではビシーからクレールフォンテーヌにいたるINF(フランス国立サッカー研究所)のメソッドが今でも基本になっている。そのベースは1対1で勝つための個人技術と個人戦術であり、それがポジションごとにしっかりと確立されているから、それぞれのポジションに特化したスペシャリストが育つ。チームはそれを組み合わせて構築されているが、個々のパーツは個別に機能しており連係は希薄だ」
──とはいえ、その中からもニアングやグリーズマンのように9番でも7番、11番でもプレーできるような個性は育ってくるわけですよね。
「彼らも育成年代ではウイングならウイング、CFならCFという枠の中で育てられてきているのだろうけれど、タレント自体がその枠に収まらないものを持っているから、実際の試合の中では9番として育ったニアングが7番でプレーしたり、11番として育ったグリーズマンが9番としてプレーしてそのタレントを発揮するということが起こる。もちろんクラブレベルではコレクティブな戦術も学びながら経験を積んでいくわけだしね。私が言っているのは、あくまで育成年代の代表レベルの話だ。しかしその基本的な方向性や傾向はA代表まで一貫して繋がっていると思う」
「フランス方式+α」のベルギー、守備組織のイタリア
協会主導の中央集権的なやり方で個人、チーム戦術を両方教え込む
──近年、タレント育成で最も成功しているのはベルギーでしょう。何か秘密があるのでしょうか?
「ベルギーは育成という観点から見て最も興味深い国の一つだ。人口が少ない小国であるにもかかわらず、近年は質の高いタレントを数多く輩出している。ベルギーもドイツなどと同様に、サッカー協会主導による中央集権的なやり方で育成を進めている。すべてのクラブに対して育成部門では[4-3-3]で戦うことが義務づけられており、選手たちはこのシステムの戦術的メカニズムをよく理解している。メソッド的にはテクニック、そしてポジションごとの個人戦術にフォーカスされており、プレー原則という考え方は採り入れていない」
──その点ではフランスに似ているように聞こえます。
「そういう一面は間違いなくあるけれど、ベルギーは個人戦術だけでなくチーム戦術もしっかりと教え込まれており、チームとしてもよりコレクティブに連係して戦うことができる。高いテクニックと個人戦術を身に付けた選手が[4-3-3]という明確なシステムの組織的秩序の中で機能するのだから、チームとして強いのは当然だ。A代表がFIFAランキングで瞬間風速とはいえ1位になったのは決して偶然ではない。とはいえ、U-17のランキングではイタリアが7位、ベルギーは10位、スイスは11位だから、少なくともこの年代に関してはそれほど傑出した結果が出ているわけではない。しかしベルギーはどの年代も、チームとして明確なアイデンティティが確立されており、一人ひとりが自分のポジションのタスクを非常によくこなす。
ただし守備の局面では、我われイタリアの方がよりコレクティブに振る舞うし、よりオーガナイズされている。彼らの場合守備も基本的に1対1がベースなので、例えばCBとの勝負に勝てば一気にシュートまで行ける。イタリアは、CBが抜かれても誰かがカバーリングに入っているし、最終ラインの前も中盤がしっかりフィルターをかけている。その分攻撃に割くリソースが足りないところが問題だが……。我われイタリアの年代別代表はU-15からだが、ベルギーはU-14も持っている。クラブレベルでもサッカー協会が主導で作ったメソッドによってトレーニングしているから、その年代が代表として集まってもすぐにチームとして機能し始める」
──協会主導のトレーニングメソッドは、育成年代全部についてすべてのクラブに浸透しているのですか?ということは、ベルギーではどのクラブでも同じトレーニング、同じエクササイズをやりながら育つということですよね。
「基本的にはそういうことだ。先日ベルギーサッカー協会のテクニカルディレクターから送ってもらった資料DVDにも、8歳の子供たちにコーディネーションと1対1などの技術を並行してトレーニングするためのエクササイズなどが入っていた。10代前半でも、エリートレベルの子供たちは特定の学校に通って、週2回午前中に個人技術のトレーニングを受けている。それがシステムとして定着している。ただし育成年代でのトレーニングの基本はあくまで個人技術と個人戦術だから、代表レベルでもチームとしてのオーガナイゼーションは優れているとは言えない」
──逆に言うと、イタリアは個人技術が高くない一方で、守備の局面における組織的な戦術やオーガナイゼーションでは傑出して優れているということですか?
「そして攻撃ではカウンターアタックを効果的に使うことができる。多くの相手はチームとしての振る舞いが攻撃的で多くの選手を前の方に送り込んで来るので、我われはそれを逆手に取って素早いトランジション(攻守の切り替え)から一気にその背後を突いていくという構図だ。しかし、ヨーロッパでトップにいる5、6チームが相手だと、常にボールを支配されて劣勢に立たされる。イタリアは結果を出すことはできるが、試合の中で“サッカーをしている”のは彼らの方だ。正直言って私はそれに心苦しい思いがあるよ」
停滞のスペイン、成長株のポルトガル
「やばい、あそこからやられる」と思うんだが、幸運なことにそこでまたボールを回す
──そのヨーロッパでトップの5、6チームというのは、具体的には?
「ナンバー1はドイツ。続いてオランダ、フランス、ポルトガル、ベルギー、イングランド、その後にイタリアとスペインが続いている」
──スペインは思ったよりも評価が低いですね。ポゼッションに拘泥(こうでい)し過ぎて進化が止まっているという感じでしょうか。
「私にはそう見えるね。スペインサッカーの最大の特徴は、ボールポゼッションに過剰なほどに重きを置くところにある。スペインと戦っていると、ボールを支配されて一方的に自陣に押し込められ、右に左にと動かされているうちに、守備陣形が崩れてゴールに向かうスペースができる。それを見ている私は『やばい、あそこからやられる』と思うんだが、幸運なことに彼らはそこでまたボールを回すんだ。サイドで1対1になって、ここを抜かれたら厳しい、というところでも、突っかけずにボールを戻して逆サイドに振ったりとかね。
ボールを縦に運ぶという意識は極めて低く、とにかくボールを保持し続けようとする。一人ひとりのテクニックや戦術意識はとても高いんだが、そのほとんどすべてがボールポゼッションとそれを維持するためのポジショニングに費やされているという印象だ。ロンド(鳥かご)に代表されるポジショナルプレーのエクササイズに多くの時間を割いていることは一目瞭然だが、その一方で相手の守備ラインを越えゴールに向かってボールを運ぶ、局面を進めるというプレー原則への意識は低い。動いてパスをもらい、パスを出して動くというプレーを続けながら、前が詰まるとすぐに後ろに戻してサイドを変えるから、攻撃に奥行きが出てこない。
イタリアサッカーはゴールという明確な目標があるがゆえに、ボールポゼッションを飛び越えて一気にそこに行こうとさえするのだが、スペインサッカーはボールを支配してゲームの主導権を握ることが目標になっており、ゴールはそれに従属しているという印象すら受ける。我われがスペインと戦うと、彼らはほぼ一方的に試合を支配する。しかしボール支配率は65%対35%でも、作り出した決定機と与えた決定機を比べてみるとほぼ常に対等で、我われの方が上回っていることすらある」
──個人技術というかボールスキルでは明らかにスペインの方が上でしょうし、ポゼッションへの意識も高いから、そういう支配率になるのは当然ですよね。ただ彼らの場合それがゴールという目標に収斂(しゅうれん)していかないということでしょうか。グアルディオラも、最終ラインを越える最後の30mは個人能力に依存する、とはっきり言っているわけですが、バルセロナやバイエルンにはメッシやロッベンがいても、スペインには個人能力で最終局面を打開できるタレントがいない。でもそれは育成レベルでそういう選手を育ててこなかった必然的な帰結でもありますよね。
「戦術的にも、オフ・ザ・ボールで裏のスペースに走り込む動きが少ないし、スペースにボールを送り込むという意識も低い。足下、足下、足下……と繋ぎ続ける。体格やフィジカル能力という観点から見ると、スペイン人は我われイタリア人よりもさらに小柄で軽い」
──小兵が多いのはテクニックのある選手を選んで育てているのか、それとも民族的な特徴として避けがたくそうなのか、どっちなんでしょうね?
「それはわからない。おそらく両方なのではないかな。確かなのは、スペインはフィジカルコンタクトには弱いし、どちらかと言うとそれを避けようとする傾向が強い。その点では日本にも似ているかもしれない。高いテクニックでボールをよく動かすが、ぶつかった相手を吹っ飛ばすようなインパクトの強さはない。細かいコンビネーションで狭いスペースをするりと抜け出すことはあるが、フランス、ドイツ、オランダなどのようにパワーとスピードで強引にこじ開ける強さには欠けている。圧倒的なポゼッションを誇りながら最後の30mに限界があるのもそれが理由だろう。彼らのサッカーとそのベースにあるカルチャーがそうである以上、これを変えるのは難しいのではないかと思う」
──反対に、ポルトガルが上位に上がってきているんですね。
「ここ何年かでレベルがはっきり上がってきた。システムは[4-3-3]が基本だが、モウリーニョやパウロ・ソウザなども採り入れている戦術的ピリオダイゼーション理論のメソッドが育成年代にも導入されているようだ。もう一つ、ポルトガルはアフリカに旧植民地があって、高いフィジカル能力を備えた黒人や混血の選手がいる。そこに高いテクニックとボールポゼッションというもともとの特徴がミックスされて、総合的なクオリティが高まってきた。そのポゼッションも、スペインのようにホリゾンタル(水平=横幅を作る)なものではなく、敵の守備ラインを越えるというプレー原則に従った縦の意識も備わっている。近年はどの年代でもランキング上位に顔を出すようになっており、育成年代では最も興味深い国の一つだ」
マウリツィオ・ビシディ
(FIGC育成年代代表統括コーディネーター補佐)
1962.5.18(53歳)ITALY
ISEF(体育専門学校)修了後、コーチキャリアをスタート。パドバの育成部門でデル・ピエーロを育て、91年、当時のミラン監督サッキにプリマベーラ(U-19)監督として引き抜かれる。その後ペスカーラ、ビチェンツァ、モデナなどセリエB、Cの監督を歴任し、2010年8月より現職。イタリアサッカー連盟(FIGC)の育成年代代表の運営体制改革に携わる傍ら、A代表でもプランデッリ監督をスタッフとして4年間サポートした。現在は各年代の代表チームとともにヨーロッパ中を飛び回る多忙な日々を送っている。
Photos: Getty Images, Bongarts/Getty Images
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。