RBライプツィヒはなぜドイツで忌み嫌われ、でも強いのか?
昇格1年目で首位並走。“悪役レスラー”ドイツに見参
ドイツで最も嫌われているクラブといえば、これまでは最多優勝回数を誇る名門バイエルンが他の追随を許さなかった。だが今季、その“序列”を覆すクラブが1部に現れた。レッドブル・グループが出資するRBライプツィヒである。
その嫌われぶりは、リーグ開幕前から話題になった。8月20日のDFBポカール1回戦ディナモ・ドレスデン戦で、スタンドから雄牛の生首が投げ込まれたのだ。レッドブルの商品にはブル(雄牛)が描かれており、言うまでもなくそれに対しての当てつけ。血まみれの生首が転がる映像がセンセーショナルに報じられた。
リーグ開幕後も、次々に“事件”が続いた。ホーム開幕戦となった第2節ドルトムント戦では、RBライプツィヒが記念マフラーを作ろうとしたところ、ドルトムントがエンブレムの使用を認めず中止に。さらにドルトムントのウルトラスたちが応援のボイコットを呼びかけた。アウェイへ応援に行ったら、RBライプツィヒの収入になるからだ。
第5節ケルン戦では、ケルンのサポーターたちがスタジアムの前で座り込みを行い、RBライプツィヒの選手を乗せたバスが足止めされたためにキックオフが15分間遅延。第11節のレバークーゼン戦では、RBライプツィヒの選手バスに強盗対策用のペイントボールが投げつけられ、フロントガラスがペンキまみれになった。
やることなすことすべてがド派手
なぜRBライプツィヒはここまで嫌われるのか。それは、彼らが人工的に造られた“プラスチッククラブ”だからだ。
2005年、レッドブルは本社があるオーストリアで「レッドブル・ザルツブルク」を立ち上げてサッカー界に進出。商品のマーケティング戦略とうまく絡め、アメリカで「ニューヨーク・レッドブルズ」、ブラジルで「レッドブル・ブラジル」をスタートさせた。
そして2009年、ドイツに進出。ライプツィヒ郊外にあった5部のSSVマルクランシュテットを買収すると、“Rasen Ballsport”(芝生の球技)を略したものだとして、レッドブルと同じ“RB”をその名に冠するRBライプツィヒを創設。次々に昇格を繰り返し、2016年夏、ついに1部の舞台にやってきた。
レッドブルは強くなるためなら資金を惜しまない。『シュポルト・ビルト』誌によると、過去3年間で移籍金として9940万ユーロ(約120億円)も投資。バイエルンの2億1150万ユーロ(約250億円)には及ばないものの、現在3位につけるヘルタ・ベルリンの2850万ユーロ(約34億円)と比較すればおよそ3.5倍にも上る。
さらに選手の健康管理と若手育成のために、3500万ユーロ(約42億円)をかけてトレーニングセンターを新設。新スタジアム建設も検討している。とにかくやることが派手なのだ。
序列を覆しているのは、嫌われ者ランキングだけではない。昇格1年目にもかかわらず、今季のブンデスリーガでは第11節にバイエルンを抜き首位に立ち、現在も同勝ち点の2位。伝統を踏みにじってでも成り上がろうとする姿勢が、他クラブのサポーターを怒らせている。
単なる“金満”とは違う
ただし、彼らは単なる金満クラブではない。そこには明確なコンセプトと戦略がある。
例えば年俸にはサラリーキャップを設けて、選手一人の最高年俸を300万ユーロ(約3億6000万円)に設定。基本的に補強するのは23歳以下だ。そのため選手年俸総額は3000万ユーロ(約36億円)に抑えられている。これはブンデスリーガの中位グループの規模だ(バイエルンは2億ユーロ、ヘルタは4000万ユーロ、ホッフェンハイムは3500万ユーロ)。
この経営のコンセプトは、ピッチ上の戦術にも密接にリンクしている。スポーツディレクターのラルフ・ラングニックは、守備では激しくボールホルダーにプレスをかけ、攻撃ではノンストップで相手ゴールに迫る「パワーフットボール」を標榜している。走行距離とスプリントの量と質に徹底的にこだわるサッカーだ。
このサッカーを実行するには、全員が走る必要がある。傲慢なスターが一人でもいたら成り立たない。精神的にフレッシュで、体力的にも回復の早い若手の方がマッチしている。「走る集団」を作り上げるためには、特別扱いされる高年俸の選手がいてもダメだし、体力をセーブするベテランがいてもダメなのだ。
また、姉妹クラブのザルツブルクを人材供給源として活用している。一昨季までラングニックがスポーツディレクターを兼任して戦術書を配布しており、戦術はRBライプツィヒとほぼ同じ。つまりザルツブルクの中心選手を獲得すれば、ハズレがないのだ。昨季はイルザンカーとグラーチ、今季はケイタ、シュミッツ、ベルナルドをザルツブルクから引き抜いている。
ザビッツァーはRBライプツィヒに加入してすぐにザルツブルクにレンタルされ、経験を積んで引き戻された。ベルナルドに至っては、レッドブル・ブラジル→ザルツブルク→RBライプツィヒというルートをたどった“純正品”である。
今、RBライプツィヒはドイツ中のサッカーファンから嫌われているが、逆にそれがチームの絆を強めている。ハーゼンヒュットル監督は『シュポルト・ビルト』誌のインタビューでこう語った。
「ケルンで座り込みの妨害でバスが長時間足止めを食った時、選手たちはかつてないほどに強い気持ちで試合に臨んでくれた。外部からの敵視が、私たちを団結させる」
FWのティモ・ベルナーは「こんなに一体感のあるチームは初めて」と語り、同じくFWのポウルセンは「みんな若くて、まだ家庭を築いていない選手が多く、一緒に過ごす時間が長いことがプラスに働いている」と証言する。
もはやここまで好調が続いたら、運だけとは言えないだろう。東西ドイツ統合後、ドイツのサッカー界をリードしてきたのはバイエルンやドルトムントといった西側のクラブだったが、ついに東側に優勝を狙えるクラブが出てきたと見る向きもある。
敵意が好意へと変わる日は、そう遠くないかもしれない。
Profile
木崎 伸也
1975年1月3日、東京都出身。 02年W杯後、オランダ・ドイツで活動し、日本人選手を中心に欧州サッカーを取材した。現在は帰国し、Numberのほか、雑誌・新聞等に数多く寄稿している。