
北中米W杯アジア最終予選の第7節でバーレーンを2-0で下し、8大会連続でのW杯本大会出場を決めた日本代表。予想外の苦戦を強いられる中、森保ジャパンが大円団を迎えられた理由を『森保JAPAN戦術レポート 大国撃破へのシナリオとベスト8の壁に挑んだ記録』の著者、らいかーると氏が分析する。
2024年に16もの代表戦をこなした日本であるものの、11月シリーズ以来となる4カ月ぶりの試合となった北中米W杯アジア最終予選の第7節。招集メンバーの27人中22人を占める欧州組はシーズン終盤に差しかっており、お疲れモードなことも間違いない。しかし埼玉スタジアム2002に乗り込んできたバーレーンは、この3月シリーズのためにかねてから合宿をしてきたらしい。となると、ホームとはいえ苦戦は必須である。
3バックが不安の日本にバーレーンが披露した対策
もはや恒例になっている左サイドへのロングボールで始まる日本のキックオフ。ケガで不在の町田浩樹の代わりとなる空中戦の的は伊藤洋輝だ。伊藤の復帰が重なったことは不幸中の幸いだったのかもしれない。左CBの競争はレフティ2人の間で激化していきそうだ。
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大一番がキックオフ
AFCアジア最終予選
日本×バーレーン
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— DAZN Japan (@DAZN_JPN) March 20, 2025
逆サイドのCBを務める瀬古歩夢の初手は、直後に右ウイングバックの堂安律にショートパスでいいじゃないか!とでも指摘されていたであろう、CF上田綺世へのキックだった。相手の出方がスカウティング通りか、実際の力量はどんなものかを探っていく時間帯でもある試合序盤。日本からすれば引き分けでも本大会出場が決まるので、いつもより安全第一で進めていたのかもしれない。
対する基本布陣が[4-4-2]のバーレーンは、包み隠さず自分たちの狙いを披露していく。ビルドアップ隊でボールを回しながら、日本がハイプレスを仕掛けてこればロングボールを繰り出して、こぼれ球を拾うという流れだ。ボール非保持で敵陣では[5-2-3]、自陣では[5-4-1]に可変する日本のダブルボランチを組む遠藤航と守田英正に、プレッシングに連動すべきか、セカンドボール争いに参加すべきかの二者択一を強いている。
4分には左シャドーの南野拓実の導きによってハイプレスが発動しそうになるが、我慢の様相を見せる日本。それでも走る南野に周囲が連動するものの、人が余っているはずの3バックの迎撃が機能せず、最終的にCB板倉滉のファウルでバーレーンの攻撃を食い止めることとなった。フリーキックの結末となったアクロバティックなシュートは、少しだけ日本に嫌な雰囲気を漂わせたかもしれない。
7分過ぎから日本はボール保持で主導権を握ろうとしていく。さっそく堂安の犠牲で成り立った攻撃から右シャドーの久保建英が決定機を迎えると、その未遂で得たコーナーキックから遠藤が決めて先制したかと思いきや、CF上田綺世のハンドが判明してゴールは取り消しに。その隙に堂安が靴紐を取り替えていたことから、VARがあってよかった瞬間でもある。

12分には、伊藤のフィードに左ウイングバックの三笘薫が裏抜け。相手が高く設定しているDFラインの背後を突くのは論理的だが効果的ではなかった。走り合いでは引けを取らないバーレーンが、ボール保持でも日本のハイプレッシングから逃れられる理由が徐々に判明していく。
バーレーンのボール非保持[4-4-2]→[5-3-2]の徹底ぶり
バーレーンのビルドアップはCBコンビが広がる傾向があった。彼らに対して日本の前線は誰が誰を管理するかが曖昧に。上田+南野or久保で解決しそうだが、3トップの形でのプレッシングにこだわりがあるようだった。
そこで上田がマーク対象を見失うと、中央にシャドーが顔を出したところでバーレーンの両SBがフリーになりやすい。日本はウイングバックのスライドで対応したいが、バーレーンの両サイドハーフに高い立ち位置でピン留めされていたことで、前への移動を簡単に決断できる状態ではなかった。
3バックがなんとかしたいところだが、バーレーンは2トップを準備していた。守備の原則である「+1」の法則を考慮するまでもなく、数的優位で抑えること自体は何も間違ってはいない。ただし、日本の守備陣なら同数でも対応できるのではないか?という疑問は残る。
しかし、現実的にあわやのバックパスを出してしまう伊藤、華麗に相手と入れ替わられてしまう瀬古、そして競り合いで意外な強さを発揮するバーレーンの面々を考慮すると、同数を受け入れるリスクは高そうな予感がしたのではないだろうか。つまり、前に連動するよりも後ろを固めたほうが失点の可能性が低くなると考えた可能性が高い。
それでも段々と日本のボールを保持する時間が長くなっていく中で、バーレーンのプレッシングの仕組みもはっきりしていく。ミドルブロックでは[4-4-2]、ローブロックでは[5-3-2]で守りを固めていた。配置を整理しにくい状況でも迷わず5バックに移行していたので、間違いなくチームで統一されていたのだろう。……



Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』 (小学館)。