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プレミアリーグ上陸の新世代監督、スロットとアモリムの戦術的な違いを考察する

2025.03.17

ユルゲン・クロップのリバプール監督退任が決まった後、後任候補として名前が挙がったのは新しいフェーズを担うべき新世代の監督たちだった。スポルティングを躍進させたルベン・アモリム、フェイエノールトで高い評価を得ていたアルネ・スロット。リバプールの指揮を託されたのは後者で、前者もその後にマンチェスター・ユナイテッドの監督としてイングランドに上陸した。2人の戦術的な違い、そしてプレミアリーグへの適応について、らいかーると氏に考察してもらった。

交差した新世代監督2人の運命

 みんなは覚えているだろうか。リバプールの新監督候補にアルネ・スロットとルベン・アモリムの名が挙がっていたことを。当時はアモリムがリバプールの監督に就任することを願う声が大半だったことを。

 時は経ち、リバプールの監督はスロットになり、遅れる形でマンチェスター・ユナイテッドの監督にアモリムが就任することになった。奇しくもどちらの監督が優秀かを比べやすい状況になってしまっている。

 両者に与えられた前提条件が大きく異なるので、安易に比較することは正しくないかもしれない。リバプールを率いたら、アモリムが結果を残していたかもしれないし、ユナイテッドを率いても、スロットは結果を出したかもしれない。これらの仮定は「絶対は存在しない」という言い古された言葉に基づいたものでしかなく、言葉遊びにもならないだろう。

 CLでも結果を出していたスポルティングを率いたアモリムの方が、日本には馴染み深い監督と言える。守田によって輸入されたスポルティングの戦術は、まるで日本代表にトレースされているかのようなことも、この状況に拍車をかけている。余談だが、日本代表が本当に[3-2-5]にチャレンジするとは思わなかった。

 上田綺世が在籍しているフェイエノールトを率いていたので、アルネ・スロットも日本に馴染みがある監督であることは間違いないが、日本におけるエールディビジの視聴環境や、フェイエノールトがELを主戦場としていたこともあって、アルネ・スロットのサッカーが日本に知れ渡っていた、なんてことはないだろう(なお、当時のフェイエノールトの分析記事をフットボリスタに提案して断られたことは記憶に新しい出来事である)。

 リバプールの新監督候補に2人の名前が上がっていたタイミングまで、時を戻そう。

 多くの人がアモリムを推していた中で、少数ながらスロットを推す人もいた。何を隠そう、その少数派の一派がここにいる。なお、当時の自分の予想が当たったことはただの偶然であり、大事なことはその予想の根拠にあるのではないだろうか。

 アモリムよりもスロットの方がリバプールで成功するだろう!と予想した根拠を書いていくことで、両者の違いを明らかにしていくことを今回の記事の目的とする。

 なお、あくまで両者の違いであり、両者の差ではない。ユナイテッドでのチャレンジで苦戦をしているが、アモリムもめちゃくちゃ優秀であることは伝えておきたい。

[3-2-5]の使い手、現代サッカーの申し子ルベン・アモリム

 猫も杓子も[3-2-5]の時代において、アモリムは[3-2-5]の使い手として名を上げることとなった。

 ボール保持におけるアモリムの[3-2-5]の特徴は、相手を押し込んだ時に両脇のCBが後方支援を行い、サイドにおけるトライアングルアタックを実現していること、セントラルハーフの片割れが6人目の強襲者としてフィニッシャー隊に加わることを特徴としている。

 [3-2-5]対策として広まっている5レーンを埋める作戦に対して、サイドからの攻撃に厚みをつけること、6人目のフィニッシャー隊を準備することで、5レーンアタックにローテーションを取り入れる作戦は、[3-2-5]の進化系としてスタンダードな作戦となってきている。

 定位置攻撃だけではなく、速攻も整備されていることは見逃せない点だろう。前線の3枚は裏に走ることも多く、特にビッグクラブへの移籍の噂が絶えないギェケレシュはボール保持における攻撃に幅を出しながら得点まで決める存在になっている。

……

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Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。

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