「らいかーるとさんとレバークーゼンについて語り合いたい」――リカルド・ロドリゲスやダニエル・ポヤトスを日本に連れてきたことでも有名な元徳島ヴォルティス強化本部長の岡田明彦氏から編集部に謎のオファーが舞い込んだ。どうやら本人は純粋に話したかっただけのようだが、せっかくの貴重な機会なのでこの異色対談を記事化!
後編では、レバークーゼンを下敷きに、今後の欧州サッカーの戦術的キーワードになりそうな「オーバーロード」「リレーショナル」「補償」について議論してみたい。
サッカークラブは旗を立てるべきか否か?
――サッカーは全部ありというのは前提として、その中で自分たちはこうやって勝つという軸になるものが必要ですよね。
岡田「レバークーゼンやアーセナルは1つのやり方にこだわらない強さも感じるので、いろいろ考えさせられますよね」
らいかーると「そのバランスは本当に難しいですよね。そういう意味では、今季のアーセナルは『自分たちの都合を相手に押しつけるサッカー』と言えるかもしれない。彼らはボール保持による支配もできますが、リードすると自分から引いて守ることがあります。保持できないから引くというのはありだと思うのですが、十分保持できているのに守備固めをするんです。撤退も得意ですよ、全局面できますよ、ということなのでしょうけど、かえってそれで相手に押し切られてしまうのを見ると、どうなのかなと。リバプールにはそれでやられましたし、シティ戦も退場で10人になったという状況はありましたが、最後に同点にされた。サッカーの論理、試合の流れと関係なく、自分たちのやりたいことをやるというのにはちょっと疑問を持っています。それがアルテタが志向するサッカーのアイデンティティでシーズンを通して貫くというなら、目の前の勝ち負けに一喜一憂すべきではないのかもしれませんが」
――なるほど。いくら万能型といっても、どの局面で何をするかという共通理解は必要ですし、相手と関係なく自分たちの都合で保持、非保持を決めて、強引に試合のありようを決めようとしても無理なのかもしれない。岡田さんは強化担当の立場で考えた場合、こういうサッカーをしますという旗はあった方がいいと思いますか?
岡田「あった方がいいですね。示したことを必ずしも表現できていなかったかもしれないので、大きなことは言えませんが……」
――徳島では何と言っていたのですか?
岡田「『アグレッシブかつコレクティブ』です。監督が代わってもこれは言い続けていました。ただ、フットボールは外的要因、内的要因の両方の影響を受けて変わるものなので、どう変化させるかも重要ではあります。軸はあっても変化しないといけない。アイデンティティを維持しながら向上させていくという課題は常にあるわけです。明確な旗を掲げているクラブ、例えばザルツブルクやアヤックス、国内では横浜F・マリノスや川崎フロンターレもそうだと思います。監督、選手が入れ替わりながら、軸を維持しながら変化していく。外から見ている分にはそういうところもサッカークラブの面白いところだと思います」
――「アグレッシブかつコレクティブ」というのは、ファンに見せたいものとして提示したのですか?
岡田「徳島が日本の中で生き残っていくために、どういうスタイルが必要かを考えての言語化ですね。それはクラブの規模によって違ってくるものだと思います。旗を立てることで選手にもわかりやすくなりますし、それで選手を集めやすいということもあります。ファンに喜んでもらうというのと両面あります」
言語化した「何か」が一人歩きするリスク
――Jリーグが始まる少し前、横浜フリューゲルスの加茂周監督が「ゾーンプレス」を掲げたことがあります。ここまで具体的なのは珍しいですが、「ポゼッション」や「ポジショナルプレー」もある程度プレーの実体を表していますよね。一方で、ルート・フリットがチェルシーの監督だった時には「セクシー・フットボール」と言っていた。ちょっと何だかわからない(笑)。でも、インパクトはあった。抽象的すぎると意味がわかりませんが、あまり具体的だと選手やファンも言葉に縛られてしまうかもしれない。……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。