北米W杯アジア最終予選で豪雨の敵地に乗り込み、インドネシアを0-4で攻略した日本代表。大勝を通じて森保ジャパンが証明した「サッカーが個だけでも組織だけでもない理由」を、『森保JAPAN戦術レポート 大国撃破へのシナリオとベスト8の壁に挑んだ記録』の著者、らいかーると氏が分析する。
アジア最終予選開幕4連勝は逃したものの、グループ首位を独走している日本。引き分けたオーストラリアにサウジアラビア、バーレーンが団子レースを繰り広げる第二集団と勝ち点5差をつけて迎えた11月シリーズはインドネシア、中国とのアウェイ連戦だ。帰化選手も登用しながらレベルアップを遂げているインドネシアはサッカー熱が高く、敵地は熱狂的なホームサポーターを中心に埋め尽くされていた。
重傷を負った上田綺世と谷口彰悟の招集外によって[3-4-2-1]のスタメン変更を余儀なくされた日本は、谷口の代役として3バック中央に板倉をスライドさせて空いた右CBに橋岡大樹を抜擢。約5か月ぶりの招集から先発へと名を連ねたところに橋岡への信頼がうかがえる。CFには上田と交代での出場の多かった小川航基が起用され、そのまま定位置奪取に向けて挑戦する格好となった。
そしてオーストラリア戦ではベンチスタートだった鎌田大地がスターティングイレブンに復帰。ターンオーバーを封印した日本において序列をひっくり返すことは至難の業になっているが、ビルドアップ隊とフィニッシュ隊を行き来できる鎌田が左シャドーに入るおかげで、あらゆる列に加わることができる左ボランチの守田英正との相互補完が機能している。
現代サッカーに欠かせない中間ポジション
試合前から前半にかけてピッチには大雨が降っていた。雷のような音も聞こえる不穏な雲行きの中でキックオフの笛が鳴る。「立ち上がり集中!」とはアマチュアからプロまで念仏のように繰り返されてきた言葉だが、悪天候でいつも通りにプレーすることは難易度がより高い。準備してきたセットプレーをキックオフから披露するインドネシアも、雨によって大量の水を吸収したであろう芝生によってその精度を落としていたくらいだ。立ち上がりの日本も安全にプレーする場面が見られ、まずは事故なく序盤を乗り切ろうと画策する。
日本のボール保持での配置は[3-2-5]というより[3-1-5-1]。その全体像を把握する上でのポイントは守田の移動だ。最初から中盤でコンビを組む遠藤航を残してフィニッシュ隊に加わり、鎌田とともにビルドアップ隊とフィニッシュ隊を往復することで、インドネシアの守備の基準を乱そうとする。つまり[3-1-5-1]と[3-2-5]の間ではあるものの、中央の[2]を構成する選手は状況によって異なっていた。
さらに[5-4-1]で構えるインドネシアに対して、最終予選全体で自重気味であった両脇のCBが要所で攻撃に参加。最初は6試合ぶりの代表戦出場に結果を欲しがる橋岡が張り切りすぎたのかと思ったが、左CBの町田浩樹も前に出ていってパスで仕掛ける場面が多かったことから予定通りなのだろう。相手のカウンターに備えるよりも、攻撃のクオリティを上げて限りなくフィニッシュに結びつけることを優先する姿勢には、オーストラリア戦の反省があるのかもしれない。
6分に右ウイングバックの堂安律がファウルで倒されるまで、日本はポジションチェンジを交えながら敵陣ゴールに迫ることができていた。[3-4-3]でもあるインドネシアは3トップを相手の3バックにぶつけたそうな様子が見られたが、守田、遠藤、鎌田、ときどき右シャドーの南野拓実が立ち位置で影響を与えてくることで、プレッシングにいけば相手にプレーエリアを渡してしまう矛盾と向き合うことになる。
相手に守備の基準点を与えることで味方を自由にできることもあれば、中間ポジションに立つことで2人の選手を迷わせることもできる。アンカーやボランチが2トップの間で相手のプレッシングを牽制することはあるあるだが、横の中間ポジションだけでなく、縦の中間ポジションに立つことでFWか、はたまたMFが監視するのかを悩ませられる。マンマークが流行ってきている現代サッカーで、ポジションチェンジを行いながら中間ポジションを取ることは、フィニッシュ隊とビルドアップ隊を兼任する上で欠かせない。……
Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。