モフレムの話をしよう――拡張するガンバ大阪のマスコット戦略
2022年5月のお披露目から約2年半が過ぎ、すっかりガンバ大阪のマスコットとして定着した感のある『モフレム』。“さまざまなことへ挑戦する頑張り屋さん”(公式プロフィールより)らしく、今シーズンは特に活動の幅を広げた印象だ。
ホームタウン各地で行われているイベントへの出演をはじめ、ハーフタイムのダンス披露、アウェイ遠征、モフレムの香り『MOFFICÉ(モフィーチェ)』発売、冠試合『モフレムデー』開催、ホームタウンの名産品や観光名所とコラボする『ご当地モフレムプロジェクト』始動……etc. ガンバ大阪を応援していない読者の皆様におかれては初読ではイメージできない活動もあるかもしれないが、選手に劣らない過密日程を過ごしている。
そんな多忙なマスコットをクラブスタッフはどのように見ているのか。本記事では業務で関わりのある3名に集まっていただき、その印象を語ってもらった。モフレムがガンバ大阪にもたらしたものとは——。
他クラブのサポーターからも歓迎されたモフレム
――お集まりいただき、ありがとうございます。今回は業務でモフレムに携わる機会の多い皆様に『ガンバ大阪のマスコット戦略』をテーマにお話を伺わせてください。最初に自己紹介をお願いします。
石丸広希「モフレムに関する施策は部署横断の7~8名で構成されるプロジェクトチームでマネジメントしていまして、私はそのリーダー兼グッズを担当しています」
亀井梨奈子「モフレムプロジェクトのサブリーダーを務めております。業務領域としては事業開発で、10月19日~20日にb8ta Tokyo – Yurakuchoで開催した『MOFFICÉ』イベントなどの企画も担当しました」
川口星夏「普段はホームタウン担当の部署で所属しておりまして、『ご当地モフレムプロジェクト』を社内で企画したことをキッカケに、今年からモフレムプロジェクトに参加させてもらっています」
――ありがとうございます。各施策の詳細については、後ほど詳しく聞かせていただきますね。話の前提として今季はモフレムの稼働が増えていますが、どのような基準やコンセプトでスケジュールを決定されているのか教えてもらえますか?
石丸「(稼働が増えているのは)クラブとしてモフレムの認知度を上げていきたい意図と、ありがたいことにパートナー企業やホームタウンの方々から要望が増えていることが理由としてあります。『こんなかたちでモフレムを使えるのでは?』というアイデアで形になっていないものもまだまだあるので、稼働はもっと増えていく予定です」
川口「ただ、実はホームタウンの方々からは『ガンバボーイはもう来ないの?』と悲しむ声があるのも事実です。これまでガンバボーイが毎年参加していたイベントにモフレムを派遣することも多いので。ホームタウン担当としてはモフレムの認知度を高める必要を感じることは多いですね」
――だからこそ、先日のアウェイ川崎戦への遠征や有楽町でのグリーティングイベントなどを通じて認知度向上に努めている訳ですね。
亀井「関東での諸々のイベントは想像以上の反響でした。印象的だったのは、他クラブのサポーターからも歓迎されたこと。フロンターレ、レイソル、ヴェルディやマリノスといった関東圏のクラブのサポーターの方々が自クラブのマスコットのぬいぐるみ持参でモフレムと記念撮影をしてくれて。ここは選手と違うところで、マスコット特有の価値があるというのは帯同して実感したところです」
石丸「(他クラブのサポーターからも人気があるのは)モフレムのキャラクターデザインも要因としてあるかもしれません。とっつきやすいというか、浸透しやすいというか。あのシンプルさはグッズを作る際も重要なところで、モフレムプロジェクトとして上手くいっているところの1つだと思っています」
林大地選手加入の意外な効果
――モフレムの話を伺う上で重要な論点の1つが『広報』だと捉えています。例えば、ファン・サポーターがモフレムのぬいぐるみを撮影した写真をSNSにアップする行為は大きな露出を生んでいます。
石丸「ぬいぐるみと一緒に撮影をする文化はサンリオさんだったり、ディズニーさんだったりが牽引しているものだと捉えていて、モフレムが時代とマッチしたということなのかなと。遠征先に持ち運びのしやすい一番小さいサイズはビックリするくらい売れていて、在庫がない時にはサポーターの方からお叱りの声もいただきました(苦笑)」
亀井「マスコットをきっかけにガンバやサッカーを知る効果もあると思っています。『あの青いモジャモジャは何?』から『ガンバ大阪の~』という道はあるんじゃないかなと」
――ホームタウンの各市役所に『モフレム像』を寄贈しているのも同じ理由ですよね。
亀井「市によって(モフレム像を)設置いただいている場所は違うんですけど、ガンバに興味のない方も訪れる市役所のような場所に置いていただく効果は大きい。そこはうちのホームタウン担当が粘り強く交渉した結果として、(ホームタウン)全市に設置することができているんですけど……(川口さんを見ながら)苦戦したところもあったよね?(笑)」
川口「はい(笑)。実は箕面市はスペースの問題もあって、当初は市役所内に置くことは出来なかったんです。スポーツ施設への設置で話が進んでいたのですが、箕面市出身の林大地選手が夏にガンバに帰ってきてくれたことをきっかけに流れが変わりまして。今は市役所の中央にモフレム像が設置されています」
――ホームタウン出身の選手を獲得する効果はそんなところにもあるんですね。市役所という場所を重視していることにも表れていますが、近年は新規ファン開拓を意識した広報を重視されている印象です。
亀井「そうですね。モフレム関連は広報にもしてイベントにしても、ガンバ大阪のコアファン層とは違う層にアプローチできているのは感じます」
石丸「グッズの購入層も過去は40代男性を中心に30代~50代がメインだったのですが、モフレムグッズは20代が多い。モフレムがこれまでと違う層に関心を持たれているのはデータ的にも出ています。社員のお子さんがモフレム好きという話も結構聞きますし」
亀井「こないだの有楽町イベントにも蔵本さん(広報部)の奥さんとお子さんも大阪から来てくれていたしね。SNSで発信もしてくれた(笑)」
――関係者からも愛されているのは素晴らしいです。
亀井「久しぶりに会う友人に、プレゼントとして無難なお菓子をあげるよりモフレムのぬいぐるみを渡した方が『何これ?』と会話が弾んで、自分の今やっている仕事の説明もできるメリットもあります。例えば、マスコットボールチェーンは金額的にもお手軽ですし、布教活動としてもピッタリでよく使っています(笑)」
モフレムからいい香りがしたら面白くない?
――グッズに関しては『MOFFICÉ』や『LINEスタンプ』など、普段使いできるグッズの販売が増えています。
石丸「そこは狙いといえば狙いですが、モフレムの造形的にチャレンジできるグッズの幅が広がったのが大きいです。モフレムはシンプルな顔なので、デザイン的にハマるグッズが多いという理由もあります。マネタイズの面でとにかく商品数を増やしている社内事情もありますが(笑)」
亀井「ただ、石丸はMOFFICÉには懐疑的でした(笑)」
石丸「売れたらいいなとは思ってましたよ!(笑)」
――確かに”モフレムの香り”を商品化する『MOFFICÉ』は挑戦的な試みだなと思いました(笑)。どのような誕生経緯だったのですか?
亀井「グッズを開発するというよりも、『モフレムからいい香りがしたら面白くない?』みたいな会話から始まっていて。グリーティング時に皆さん(モフレムに)抱きつくんですよ。そこで良い香りがしたら記憶に根ざすというか、ふっと香りを嗅いだ時にモフレムやスタジアムでの記憶を思い出してもらえたらいいな、といったことを考えながら進めた企画です。(パートナー企業である)ロート製薬さんに相談したら『いいですね!』とノリノリで協力開発してくれて、販売まで至りました。グッズ化を最初から考えていた訳ではなかったんです」
――モフレムは商業利用における自由度が高いといいますか、肖像においても、稼働においても良い意味で「何でもあり感」が強みだと感じます。先日開催されたGAMBA FAN FESTAで販売されたNMB48小嶋花梨さん、ドーナツ・ピーナツさん、福岡選手のコラボイラストキーホルダーも好評でした。
石丸「そこは繰り返しですが、モフレムの造形的な自由度の高さと、選手や成績に頼らないコンテンツ開発はクラブとしての狙いでもあります。まあ、コラボキーホルダーが売れたのは小嶋さんが売り場で販促のお手伝いをしてくれたところが大きいとは思いますけど(笑)」
亀井「コラボという面では、他クラブのマスコットとで何かできたらいいなという期待感があります。(マスコットに関して)他クラブのスタッフさんと内情や悩みを共有する機会が増えていますし、ファン・サポーターも応援するクラブの垣根を超えた横の繋がりがあるので。いろんな形で繋げられるのではないかという手応えもあります」
――マスコットがもたらす“横の繋がり”は興味深い事象ですよね。今年5月に開催されたモフレムデーではサポーターが自発的にモフレムぬいぐるみを持参して集合写真を撮る企画『#圧倒的モフレム』がSNS上の露出を席巻しました。
亀井「試合当日はそんな企画が開催されているとは知らなかったので、後から聞いてビックリしました。本当に嬉しい限りです。モフレムファンの皆さんと上手く交わりたい思いもあります。良い距離感で何かできればと」
石丸「『モフレムデー』は『GAMBA EXPO』や『GAMBA SONIC』と同じような形で年に1回開催される定番イベントに育てたいと思っています。今年は集客的にはそこまで結果を残せなかったのですが、来季にむけてグルメやグッズだけではない取組みの検討は続けるつもりです」
モフレムの存在がガンバ大阪の新しい価値を見出してくれている
――最後に今後の話を。ガンバ大阪では2年連続で『推し活イベント』を開催されています。昨年は山本悠樹選手(現・川崎フロンターレ)、今年は中谷進之介選手を対象としていますが、モフレムにフォーカスした推し活イベントの開催する可能性はありますか?
亀井「まだ検討段階という前提で聞いてもらいたいですけど、モフレムのファンクラブを立ち上げられないかなと。グランパスくんで先行事例があるので、ヒアリングもさせてもらっています。熱狂的なモフレムファンを集めて何かできれば……非売品グッズがもらえるとか、独占してグリーティングができるとか、色んな可能性を探っています」
川口「他クラブの事例という点では、先月発表した『ご当地モフレムプロジェクト』はジュビロ磐田さんの取組み(「ご当地ジュビロくん」)を参考にさせてもらっていて、マスコットを通じた各ホームタウンとの連携を深めていく予定です」
――Jリーグのマスコット界は興味深い前例が多いです。進化したり、仲間が増えたり、フリップ芸をしたり……モフレムの新展開にも期待したいところです。
亀井「そのテーマはプロジェクトでもよく議論されています。『相棒が誕生したらどんなことができるかな』とか。モフレムは好奇心旺盛な性格なので活動の幅を広げる可能性は高いと思います。モフレム自身がどう考えるか次第の部分もあるので、お楽しみということで(笑)」
――楽しみにしています。最後に総括として読者の皆様に一言いただけますか?
川口「私はモフレムプロジェクトに参加してまだ半年くらいなんですが、やれることは幅広いなと感じています。だから、モフレムを通じてガンバ大阪がホームタウンとの新たな関わりを生むためにも、まずはモフレムの認知や愛着を高めていきたいですね」
亀井「ガンバ大阪は責任ある立場の社員の企画力と行動力があるクラブですが(笑)、このモフレムプロジェクトは20~30代の若手中心のメンバーで構成されていて、様々な企画に挑戦する中で良い意味でクラブの中で変化が起きていると感じています。『ご当地モフレムプロジェクト』も川口くんが自ら提案してきてくれた企画ですし、社内的にも『もっとチャレンジしていい』と言われているので、私も今後の展開をとても楽しみしています」
石丸「モフレムが誕生して以降、クラブ内で新しいことにチャレンジしていこうという雰囲気があります。新しい可能性というか、見えなかった世界が見えるというか、モフレムの存在がガンバ大阪の新しい価値を見出してくれている。ホームタウンの方々、パートナーの方々、ファン・サポーターの方々と一緒に今後も新しい企画を考えていきたいです」
RINAKO KAMEI
亀井 梨奈子
事業本部 事業開発担当課長。大阪府出身。2003年パナソニックに入社、家電の先行開発、UI/UX研究に従事。新規事業開発を経て、パナソニック スポーツ株式会社にて事業開発を担当。2023年7月よりガンバ大阪へ出向し、モフレムプロジェクトやガンバオリジナルビール開発など新企画を推進
KOKI ISHIMARU
石丸 広希
顧客創造部商品事業課主任。大阪府八尾市出身。大学卒業後、グッズ製作会社へ入社。2008年~2012年までガンバ大阪グッズ担当として出向。 2018年よりガンバ大阪へ入社。モフレムプロジェクトリーダーや、主にガンバ大阪グッズの企画や製造を行う
SENA KAWAGUCHI
川口 星夏
パートナー推進部ホームタウン担当。兵庫県・猪名川町出身。大学を卒業後、東京のITベンチャー企業に入社。2021年9月よりガンバ大阪に入社。ファンクラブ担当を経て、現在は茨木市・箕面市を中心にホームタウン担当として従事
Photos:(C)GAMBA OSAKA
Profile
玉利 剛一
1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime