きっかけは「ガッツポーズお姉さん」!?ルヴァンカップ決勝から始まったJリーグ写真・動画SNS解禁の裏側を振り返る
2021シーズンのJリーグYBCルヴァンカップ決勝で試験導入され、翌2022シーズンから本格施行された『Jリーグ公式試合における写真・動画のインターネット上での使用ガイドライン』。あれから約3年が経って再び同大会決勝を迎える今、Jリーグが写真・動画のSNS投稿解禁に至った裏側を振り返るべく、担当者であるJリーグ・プロモーション部の板垣伸典氏を直撃した。
ファン・サポーターのSNS投稿は非関心層に届きやすい
――まずは読者に向けて自己紹介をお願いします。
「板垣伸典と申します。僕がJリーグに入ったのは2011年1月で、そこから事業戦略室、JリーグやJクラブに協賛してくれるスポンサーさんやパートナーさんを見つけてくるスポンサー事業部を経て、8年前からプロモーション部に所属しています。プロモーション部というのは、Jリーグ主管試合の集客プロモーション、Jリーグオウンドメディアの運用、ブランドマネジメント、メディア(特に地上波テレビ)に取り上げていただくためのパブリシティ活動を管轄している部です。そこでSNSも含めたデジタル領域全体を見ているので、『Jリーグ公式試合における写真・動画のインターネット上での使用ガイドライン』の策定・施行にも関わっています」
――ご担当として『Jリーグ公式試合における写真・動画のインターネット上での使用ガイドライン』を策定・施行された背景を教えてください。
「まずJリーグのお客さんが安全で快適に試合を観戦できるよう定めている試合運営管理規程上では、『私的目的以外で、試合(試合前後に行われる練習、式典等を含む)及び観客等の写真撮影または動画撮影』を禁止してきました。つまり試合会場で写真や動画を撮ること自体は問題ありませんが、それをSNSに投稿することは外部の目にも触れますから、私的利用の範疇を超えるので許可していなかったんですね。
でもその試合運営管理規程が策定された昔とは違って、今はSNS上での情報発信や情報収集が当たり前の時代。そこでファン・サポーターのみなさんが投稿した写真や動画が、JリーグやJクラブに興味・関心を持ってもらう新たな接点や発見になるんじゃないかと考えたんです」
――コロナ禍前まで実施されていた観戦者調査の2019シーズン版を読んでみても、J1・J2リーグ全体で88.5%、J3リーグ全体で83.9%の方がSNSを含むインターネットを情報入手経路としているというデータがありましたよね。ただ、すでにJリーグ・Jクラブも公式SNSで情報発信していたわけで、発信元がファン・サポーターに変わると効果も違ったりするのでしょうか?
「実はデータでの裏づけがあるんです。今僕らはX(旧Twitter)のポストを分析するツールを使っていて、指定したキーワードが含まれた投稿がどれくらいあるか、指定した投稿に対してどんな人が反応しているかを分析できる環境を作っているんです。それを調べていった時にJリーグやJクラブの公式SNSの投稿よりも、ファン・サポーターの投稿の方がサッカーに興味のない非関心層からのいいねが圧倒的に多かったんですよ。
例えば2021シーズン、J1第11節の名古屋グランパス対ガンバ大阪でコロナ禍で声出しが解禁されない中、豪快なガッツポーズで決勝点の喜びを表現して注目を集めた『ガッツポーズお姉さん』って覚えていますか?最初はファン・サポーターのみなさんが話題にしていてバズったんですよね。だから我われや名古屋グランパスさんも、DAZNさんの映像を使って後追いで投稿したんですけど、いいねの中身を調べてみたらJクラブサポーターの方とか、サッカーファンの方とか、もともとサッカーに興味を持っている関心層が多くて、非関心層は少なかった。でもファン・サポーターのみなさんの投稿についたいいねを見ると非関心層が多く、中には7、8割まで至っている投稿もあったんですよ。
それをきっかけにデータを分析していくと全体の傾向としても当てはまって、同じ投稿でもファン・サポーターのみなさんの方がバズった時に非関心層に届きやすいことが判明しました。それがトリガーとなって『Jリーグ公式試合における写真・動画のインターネット上での使用ガイドライン』の策定を始めたという経緯ですね」
3年前のルヴァン杯決勝では「違反例をチェックしていた」
――つまりJリーグ・Jクラブに発信が限定されていた写真や動画をファン・サポーターの方々にも投稿してもらって、サッカーの試合観戦をしたことがないような非関心層にJリーグに興味を持ってもらう狙いがあるということですね。
「さらにそこからスタジアムへと足を運んでもらえるようなプロモーション効果も期待しています。今はサッカーに限らず、何か商品やサービスを購入するにしても口コミやレビューを参考にしますよね。要は開発者側や提供者側が出している情報だけではなく、お客様という同じ第三目線での評価や気づきももとにお金を払うかどうかを決めている。それは試合のようなイベントでも同じで、最近だと例えば博物館や美術館、展示会なんかでも撮影可能範囲を広げたりしながら、来場者に文字だけでなく写真や動画も含めて情報発信してもらって初めて来る来場者がイメージしやすいようにしていますよね。
そうやってより非関心層に興味を持っていただけるきっかけを広げながら、より口コミでスタジアムに足を運んでもらえるようにする狙いを浸透させるために、試合管理規程の枠組みの中における特例として『Jリーグ公式試合における写真・動画のインターネット上での使用ガイドライン』を策定していきました」
――ただ、写真や映像の使用可能範囲を広げていくには当然、著作権や肖像権も関わってきますよね。その利害関係者であるJクラブやDAZNにも相談したりしたのでしょうか?……
Profile
足立 真俊
1996年生まれ。米ウィスコンシン大学でコミュニケーション学を専攻。卒業後は外資系OTAで働く傍ら、『フットボリスタ』を中心としたサッカーメディアで執筆・翻訳・編集経験を積む。2019年5月より同誌編集部の一員に。プロフィール写真は本人。Twitter:@fantaglandista