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初先発で見せた遠藤航らしさ。フラーフェンベルフとの違い、“スロットの6番”に必要なもの【リバプール現地取材】

2024.09.28

今季の公式戦6試合でピッチに立ったのは2回、ともに後半アディショナルタイムからの出場だった。リバプール2年目、新体制下で不遇の開幕1カ月を経て、ついに初スタメンのチャンスが巡ってきたウェストハム戦。泰然自若な31歳のチャレンジ再スタートを、現地アンフィールドから山中忍氏がレポートする。

不運な失点関与も、その後に増した存在感

 遠藤航ならではのパフォーマンスだった。9月25日にアンフィールドで行われた、リーグカップ3回戦での82分間のことだ。移籍2年目の日本代表MFは、アルネ・スロット新体制下のリバプールで公式戦初先発の機会を得た。

 与えられた役割は、スタート時の2ボランチでも、後半早々の選手交代に伴う3センター移行後もアンカーマン。まるで、履いていた青いスパイクに磁石でも内蔵されているかのように、ルーズボールや五分五分の競り合いをものにし、ウェストハムから大勝(5-1)を収めたチームのボール支配に強度を加えていた。

 先制を許した21分のオウンゴールに絡んでしまってはいる。ゴール前至近距離でジャレル・クアンサーの足に当たって転がり込んだボールは、そのCBの2メートルほど横でクリアを試みた遠藤の右足から放たれていた。地元紙『リバプール・エコー』では、「完全なパニック」と指摘された一場面。そう聞けば、冷静な遠藤らしからぬプレーだったように思える。

 確かに、チームとしては拙いセットプレー守備だった。しかし、個人に対する表現としては酷だろう。ファーサイドから折り返されたボールを、相手MFエドソン・アルバレスが足下に収めきれずにいる間に、ニアから中央に詰め寄った遠藤の体勢的にも、セーブを試みたGKがピッチに腰をついていた周囲の状況的にも、咄嗟に蹴り出せるコースが他にあったとは思えない。

 もちろん、思わず頭を抱えた本人には自責の念があったに違いない。それだけに、その後に存在感を増した事実を評価してもよいのではないか? 遠藤らしい、メンタルの強さが発揮されたと言える。

 失点からわずか4分で、ディオゴ・ジョタが頭で押し込んで試合を振り出しに戻し、気が楽になった部分はあったかもしれない。それにしても、33分には、セットプレーの場面で自らヘディングで逆転ゴールを狙う姿も見られた。敵のパスをカットし、マイボールはタイトなエリアでも迅速に繋ぐ遠藤には、スタンドから納得の拍手。前半は、相手のクロスをボックス内で難なく処理する本職ボランチのプレーに歓声が起こる中で終了することになった。

「チームの心臓であり、ブレーンにもならなきゃいけない」

 後半に入ると、リバプールは早々49分の時点で逆転に成功する。マン・オブ・ザ・マッチにふさわしいジョタが、自らに訪れた2度目のチャンスに再びネットを揺らした。アシストは、この攻撃の起点でもあったカーティス・ジョーンズ。遠藤の存在が、中盤中央の相棒による攻撃注力を可能にしていた。57分、やや緩慢だったジョーンズのボールロスト後、チェイシングで敵を速攻カウンターには転じさせなかったシーンが象徴的だった。……

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アルネ・スロットイングランドウェストハムプレミアリーグライアン・フラーフェンベルフリーグカップリバプール日本代表遠藤航

Profile

山中 忍

1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。

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