アーセナルの撤退守備は既定路線?直接対決で見え隠れしたマンチェスター・シティとすれ違う運命
プレミアリーグ第5節で実現した1位マンチェスター・シティと2位アーセナルの昨季に続く首位攻防戦は、2-2の痛み分けに終わった。前半に1-2のリードを手にした一方で、そのロスタイムに退場者を出したアウェイチームの撤退守備には批判の声も相次いだが、らいかーると氏が「既定路線」と見立てている理由とは?注目の大一番をレビューする。
代表戦の9月シリーズでのマルティン・エデゴーの負傷離脱により、2024-25シーズン序盤戦から本来のプランから離れたサッカーを展開しているアーセナル。プレミアリーグ前節のノースロンドンダービーではトッテナムにボールを渡し、自陣に撤退して守備を固める策で結果を残した。その一戦で出場停止だったデクラン・ライスの復帰を受けて、CL初戦では従来のサッカーにチャレンジするものの、昨年にEL決勝でレバークーゼンを圧倒した人を基準とするアタランタのプレッシングの前にたじたじとなり、いつもとは景色の異なる1週間を過ごしている。
彼らをホームで迎え撃つのはマンチェスター・シティ。プレミアリーグ年間最優秀選手に輝いたフィル・フォデンがいるようでいない日々もなんのそのである。ケビン・デ・ブルイネの欠場が続いた昨季同様に微調整こそあるものの、誰がいようといまいとやることは大きく変わらないところに凄みがある。かつてミケル・アルテタ監督がペップ・グアルディオラ監督の下でコーチとして働いていたことも相まって、マンチェスター・シティとアーセナルは間の子のような印象もあれど、最近は徐々にかけ離れていっていくすれ違いも見え隠れしているのではないだろうか。
時代を代表するカードは、いついかなる時も存在している。かつては世界中がクラシコにくびったけだった。その次に数々の名勝負を繰り広げたのは、マンチェスター・シティ対リバプール。そしてユルゲン・クロップ監督が退任したライバルに続く新たな挑戦者として、近年のプレミアリーグで優勝争いを繰り広げてきたアーセナルは地位を確立できるかどうか。その中心に立ち続けるグアルディオラをめぐる戦いは、まだまだ続くようである。
「果敢」を利用されるも…運も味方して同点に
開始の笛と同時に、2トップの一角であるカイ・ハベルツにアンカーのロドリが吹き飛ばされて試合の幕が開けた。互いに必要のない衝突でいきなり不穏な雰囲気が漂う中、自己紹介を見せたアーセナルの姿勢は普段着に近いものであった。ゴールキックを根性で繋ぎ、マンチェスター・シティのビルドアップには果敢なプレッシングで対抗する。
「果敢」と表現した理由はライスにある。押し込まれたら通常の右セントラルハーフの仕事に戻るが、相手陣地にボールがあればロドリまで出ていく場面が見られた。ボール保持時に[4-1-4-1(4-3-3)]から左SBのヨシュコ・グバルディオルがインサイドハーフ化するマンチェスター・シティの[3-1-5-1]に対して、左ウイングのガブリエウ・マルチネッリを右SBのカイル・ウォーカーに当てたい意思も、アーセナルの勇猛ぶりを証明していた。
近年のサッカーでは相手陣地では人基準、自陣ではスペース基準の守備組織を形成する傾向がある。アーセナルはハベルツが左CBのマヌエル・アカンジ、同じ2トップを組むトロサールが右CBのルーベン・ディアス、マルチネッリがウォーカーと相手の3バックに同数をぶつけ、中盤もCBの加勢を交えながらマンチェスター・シティのビルドアップに対抗。撤退時は[4-4-2]がベースのゾーンディフェンスを組んで立ちはだかる。時間の経過とともに段々と押し込まれていく中、抵抗が必要になってくるアウェイチームにとって、最初の生命線がプレッシングだったのかもしれない。
先制点は7分。なんてことないマンチェスター・シティのボール保持に対して、マルチネッリがプレッシングをスタートさせる。後方の左SBリッカルド・カラフィオーリも連動するものの右ウイングに入ったサビーニョの個人技が炸裂。同時にサイドへ流れた右インサイドハーフのベルナルド・シルバに左セントラルハーフのトーマスと左CBのガブリエウ・マガリャンイスが釣られてしまった結果、右ハーフスペースの花道を疾走するサビーニョがスルーパスを通すと、CFのア―リング・ホーランドが抜け出して見事に決める。アーセナルからすれば、ボールを奪いに行った勢いを利用される格好となった。
失点したことで、攻勢を強めなければならないアーセナルのボール保持に対して、[4-1-4-1]で少しDFラインを下げるマンチェスター・シティ。ボールを奪えば必ずバックパスですべてをリセットしてから攻撃を開始することで、プレスをいなしながらゲームの支配を企むという、いつも通りの姿勢を見せ続けた。狙い通りにアーセナルを押し込んでいくと、無限ポゼッションからのウイングによる強襲と中央を強引に突破する得意技を披露。14分にはペナルティエリア手前でのパスワークから獲得した直接フリーキックを、左インサイドハーフのイルカイ・ギュンドアンが右ポストにぶつけてゴールを脅かした。
しかし直後の15分、コーナーキックのもつれからロドリが右膝を押さえて倒れ込む。開始早々から踏んだり蹴ったりのEURO2024最優秀選手は、今季絶望とも報じられる重傷でピッチを後にした。彼が出場すればプレミアリーグで負けないというジンクスがあったが、そのお守りが不在でも何とかなりそうなところにマンチェスター・シティの底力を感じる。代わりにコバチッチが登場して試合は再開した。
序盤から荒れ模様の試合は激しいフィジカルバトルの様相も見えるようになっていく。ロドリのケガで拍車がかかることを恐れたのか、マイケル・オリバー主審は21分のファウルで両チームのキャプテンを集めて冷静になるよう呼びかけた様子だったが、彼らがそれぞれの立ち位置に戻る前に再開の笛を吹いてしまう。右ウイングのブカヨ・サカはともかく、ウォーカーは右サイドにスペースを空けてしまい、その背後に抜け出したマルチネッリがボールを運んでバックパス。ペナルティアーク左脇からカラフィオーリがダイレクトでゴールに蹴り込み、運も味方したアーセナルが1-1に追いついた。
撤退守備でのトロサールとライスの奮闘
同点になったことで撤退するアーセナルと、押し込むマンチェスター・シティの噛み合わせがリスタートする。時間の経過とともにその守備構造には左右差があることが判明していくが、あらかじめ計画されたものというよりは、相手の攻撃に対抗した結果と表現する方が適切かもしれない。……
Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。