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NTTドコモに『Jリーグ部』が発足!? トップパートナーとして共創する日本のサッカー文化

2024.09.17

7月27日、Jリーグクラブとヨーロッパの強豪クラブが対戦する「明治安田Jリーグワールドチャレンジ2024 powered by docomo」(以下、JWC)が昨年に引き続き国立競技場で開催された。J1王者のヴィッセル神戸とプレミアリーグのトッテナム ホットスパーが対戦した本大会は54,255人の入場者数を記録。今夏に開催された欧州クラブの来日親善試合は集客に苦戦したものも多かった中で、JWCが興行的に成功した要因は何だったのか。JWCをJリーグと共催した株式会社NTTドコモの独占インタビューをお届けする。

今回話を伺ったのは、NTTドコモ側の大会責任者である鈴木彰訓氏、グッズを担当した後藤優太朗氏、チケットを担当した横山輝氏の3名。それぞれの立場からJWCを振り返ってもらった。

スポーツとエンタメの融合

――JWCの開催決定経緯から伺わせてください。2023年のJWCは「前年(2022年)12月頃にJリーグから打診された」と昨年実施したインタビュー でお聞きしましたが、今年の大会はいつ頃に開催を決定されたのですか?

鈴木「Jリーグさんとのコミュニケーションの中で『(JWCの)定例化を目指す』ことは共通目標として持っていたので、昨年大会のレビューを行った(2023年)年内のタイミングでは『今年度の経験を活かして2024年も開催しよう』と話していました」

――今年はUEFA欧州選手権(ユーロ)やコパ・アメリカがJWC直前まで開催されており、各国代表の選手は来日が確約される状況ではありませんでした。そうした背景はドコモ社的にJWCの主催を検討する上で影響しましたか?

鈴木「いえ、来日する欧州クラブや選手の知名度に頼らずに大会自体の魅力を高めることはJリーグさんと取り組んでいることの1つなので、ユーロやコパ・アメリカが開催されることによる影響はありません」

――その大会の魅力を高める具体的なアプローチの1つが、グローバル・ボーイズグループ「NEXZ(ネクスジ)」のライブパフォーマンスですね。

鈴木「はい。ドコモとして目指している“スポーツとエンタメの融合”の一環として企画したものです。JWCと同時期に開催した『Jリーグインターナショナルシリーズ2024 powered by docomo』(以下、JIS)の横浜F・マリノス対ニューカッスル ユナイテッドではME:I(ミーアイ)さんにも出演いただています。今回は音楽のミニライブでしたが、来日した欧州クラブに関連したご当地料理を提供するフードフェスを開催しても楽しいでしょうし、来年度以降もJWCやJIS、スタジアム自体が魅力あるものであるイメージを作りたいですね 」

2024年5月グローバルデビュー、そして8月に日本デビューを果たした”NEXZ”。「Nizi Project Season 2」より誕生

――今夏はJISとして4試合(①京都サンガF.C. – VfB シュトゥットガルト ②サンフレッチェ広島 – VfB シュトゥットガルト ③浦和レッズ – ニューカッスル ユナイテッド ④横浜F・マリノス – ニューカッスル ユナイテッド)もJリーグと共催されています。関東圏だけではなく、広島と京都でも開催されました。

鈴木「欧州クラブの来日試合は東京や大阪で開催されることが多いですが、Jリーグのトップパートナーとして全国のJクラブと様々な提携をする中で、大都市だけではなく全国にサッカー文化を根付かせたい想いを持っています。その具体的なアクションとして今回は広島と京都で開催させていただきました」

――なぜ開催地として広島と京都が選ばれたのですか?

鈴木サンフレッチェ広島さんは8月6日前後の試合を『ピースマッチ』として開催し、サッカーを通じて核兵器の廃絶と世界恒久平和の実現に向けた発信をされています。欧州クラブとの親善試合をピースマッチとして開催することは意義があることだというのは関係各所の意見が一致したことです。実際、サンフレッチェさんのプロモーション協力もあり、2万人を超える入場者数を記録したので新しいファン層の開拓面においても一定の貢献はできたのではないでしょうか。京都サンガさんはフットボール専用の素晴らしいスタジアムを持たれていますし、広島への移動距離が短いという点もポジティブな要素として(対戦相手として)決定したという経緯ですね」

「シュトゥットガルトさんがサンフレッチェ広島さんとの対戦を希望していたことも大きかった」と鈴木氏

JWCが日本のサッカー文化振興の旗印に

――国立競技場で開催されたJWCは54,255人の入場者数を記録しました。マンチェスター・シティが来日した昨年以上に集客のハードルは高かったのではと想像しますが、素晴らしい結果だと思います。

鈴木「昨年よりチケット先行発売時の反応が鈍かったのは事実ですが、NEXZのライブ開催を発表した効果や、トッテナムファンの方々による情報拡散協力もあって一般発売開始後にどんどん売れて、5万人以上の入場を記録することができました」

横山「効果的なチケット販促施策としては、小中高生を対象とした無料招待や帯同する保護者の方への特別優待価格でのチケット販売が入場者数を増やす面で効果がありました。JWCの開催目的の1つに『次世代の育成』があり、こういった小中高生を対象とした施策でJWCを観に来た子供達が刺激を受け、将来的にサッカー界で活躍するようなきっかけ作りに本大会がなっていれば嬉しい限りです」

スタジアムの内外で大会を盛り上げたトッテナムファン

――昨年のJWC来場者は、Jリーグの来場者平均よりも3~5歳程度平均年齢が若いというデータが出たと聞きました。

横山「今年はまだ集計中なので正確なデータは出ていないですが、速報値を見ると似たようなデータが出る可能性は高いと予想しています。それがNEXZさんの影響なのか、小中高生招待や同伴者優待施策等の影響なのかはこれから検証する予定です」

小中高生の来場者が多いのはJWCの特徴

――「次世代の育成」という点においては、Jリーグ選抜U-15がトッテナム ホットスパー U15、ニューカッスル ユナイテッド U15と対戦するアカデミーマッチも開催されています。

鈴木「育成年代の選手たちにも欧州クラブと対戦する経験を積んでもらいたいという話はJリーグさんと重要視したことの1つです。アカデミーマッチの主催・運営はJリーグさんで、我々は(ドコモの映像配信サービスである)Leminoで無料配信を行いました。数年後にこの試合に出場した選手がJリーグのトップチームで活躍する姿を観られればいいですね」

――グッズに関しても聞かせて下さい。欧州クラブの関係者からはよく「ジャパンツアーはグッズが売れる」と聞きます。

後藤「具体的な額はお伝えできないですが、売上としてはそれなりに良い結果が出ました。ただ、興行においてグッズ販売は、収入の柱に挙げられることが多いのですが、制作原価、売り場設営費、人件費等がかかるので、原価を除いて利益だけを見ると、全体収支におけるインパクトとしては大きくありません。一方で、グッズの販売は大会自体のプロモーション効果もあると思っていて、来場者の満足度にも直結しますし、利益以外の効果もあると捉えています」

――グッズ売上を増やす上で、JWCやJIS特有の施策は実施されましたか?

後藤「3つあります。1つ目は販路の拡大。昨年は基本的には試合会場での当日販売がメインでしたが、今年は(ファッション通販サイトなどを運営する)ベイクルーズさんとの協業で彼らが運営する店舗内でポップアップストアを出したり、ECサイトで販売したり。サッカーショップのKAMOさんでもグッズを扱っていただきました。また、NTTドコモ・スタジオ&ライブ社のサービスであるモバイルオーダーを活用し、事前にネット購入して、試合当日に並ばずにグッズ売り場で受け取るだけといったシステムでの販売を行いました」

――2つ目、3つ目もお願いします。

後藤「2つ目は販促施策です。5,000円以上の購入で非売品のステッカーをプレゼント、1万円以上購入で選手のサイン入りユニフォームが当たる抽選券を付与しました。3つ目はサービスミックス。Lemino有料会員は優先的にグッズ売り場に優先的に入場できたり、(ドコモの決済サービスである)d払い優先会計レーンを設けたり……ドコモとして大会を主催する意味をグッズに関しても意識しました」

「一番売れるのはユニフォーム。ただ、新シーズン前の時期なので販売できる枚数が少ないのが課題」と後藤氏

――来年もJWCを主催される前提でお聞きしますが、JWCのグッズ展開において今後の構想はありますか?

後藤「JWCが日本のサッカー文化振興の旗印になればいいなと思っています。普段着でユニフォームを着るとか、文化が根付く上でグッズは非常に重要。そうした面でJWCが1つのロールモデルになれるようなことを検討したいですね」

Leminoでの配信意義

――JWCとJISはLeminoで無料ライブ配信されました。

鈴木「全5試合中3試合を独占配信、シュトゥットガルトさんの2試合はスカパー!さんとLeminoの両方で配信しました。今年のJWCにおける大きなトピックはNEXZさんとME:Iさんのパフォーマンスも配信したことですね。今年はさきほども話した“スポーツとエンタメの融合”をLeminoでも実現させようと調整したのは昨年からの大きな変化です」

――1つの番組内で多ジャンルの権利処理が出来るのは、ドコモ社の強みです。

鈴木「ME:Iさんに関しては、Leminoで『PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS』(ME:Iがデビューするキッカケとなったオーディション番組)を配信していた関係があり、若年層のファンが多いME:Iさんに出演いただき、サッカーの面白さを多くの方々に知ってもらいたいと思い企画したという背景があります。また、『初の国立競技場でのライブ』はストーリー的にもファンの方が楽しみにしてくれるのではないかと。実際に国立競技場でのライブを観ましたが、トリコロールマーメイズ(横浜F・マリノスのオフィシャルチアリーダーズ)と連携したパフォーマンスは感動しました。あの様子をLeminoで配信出来たのは意義あることだと思っています」

Leminoで配信された『PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS』

――Leminoでは明治安田J3リーグ、YBCルヴァンカップも配信しています。

鈴木「Jリーグさんが掲げる成長戦略として『トップ層が、ナショナル(グローバル)コンテンツとして輝く』と『60クラブが、それぞれの地域で輝く』がありますが、JWCやJISは前者を目指す施策で、J3やルヴァンカップの配信は後者に該当します。視聴者数はLeminoの認知の高まりに比例するかたちで増え続けています」

――具体的な視聴数データは教えていただけないでしょうが、システムの体制的にはLeminoはJ2やJ1の一斉開催節でもライブ配信できる状態なのでしょうか?

鈴木「Leminoでは井上尚弥選手の試合(ボクシング)など、視聴者数が多いコンテンツのライブ配信した実績もありますので、配信体制の面だけで言えば、J2やJ1にも対応できる状態にあります」

JWCやJISの試合会場ではドコモのサービス『Lemino』や『d払い』のPRも行われた

各クラブの物語を広める

――JWCやJISはスポットの施策ですが、ドコモ社はJ3クラブを中心に継続的なプロモーション支援も行われています。

鈴木「現在はヴァンラーレ八戸さん、いわてグルージャ盛岡さん、福島ユナイテッドFCさんと提携して、dポイントやd払いなど弊社の会員ベースを活用した支援を行わせていただいています。提携するクラブは今後も広がってく予定です。部内では社員ごとに推しクラブを担当する形で各々が施策を考えています。所属する部署名(エンターテイメントプラットフォーム部)には入っていませんけど、『Jリーグ部』に所属している感覚です(笑)」

横山「ドコモの中でもJリーグ関連事業の注目度は高まっており、業務内容が広がっている印象があります。通年でJリーグやJクラブさんとコミュニケーションを取る中で求められる知識や能力は幅広いので、仕事の面白さを感じることは多いです」

――各クラブに担当社員さんがいると、Jクラブとのコミュニケーションも密になりそうですね。

鈴木「そうですね。部内でよく話しているのは『クラブごとに色んなドラマがある』ということ。優勝、昇格、残留……カテゴリーによっても内容や規模感は違うでしょうけど、ドコモとしてはそこにどれだけ関われるかが大切。関連するところでは、各クラブが販売しているシーズンレビューDVDはご覧になられたことありますか? あれは数量限定で買えない人もいるんですよ。だから、そういう各クラブの物語を広める意味でもLeminoで配信していて。クラブの発展に貢献できるビジネスモデルはどんどん作っていきたいですね」

後藤「ドコモとしてスポンサードをサスティナブルなものにするためには、利益も追求する必要があります。ドコモショップへの来店促進のツールとして招待券をお配りしたり、試合当日の賑やかしとしてポインコ兄弟(dポイントのマスコットキャラクター)をスタジアムに派遣したり、弊社としてのメリットもある形で施策を考えています」

JWCで出展されたフェイスペイントのブースの様子。「Jリーグ会場でも喜んでもらえる施策を考えたい」と後藤氏

――今回のJWCやJISの現場でドコモの社員さんと話していると当事者意識が高いと言いますか、Jリーグの社員さんと話しているような印象を持っていたのですが、その理由が少し分かった気がします。

鈴木「私がベガルタ仙台のサポーターであることも影響しているかもしれません(笑)。シーズンチケットで10年以上スタジアムに通って、今でも頻繁にアウェイも含めてスタジアムで観戦しています。そういう原点といいますが、仕事で判断に迷う時は『サポーターはどう思うか』を考えることができますし、サポーター仲間に相談することもあります」

――サポーターとしてのご経験と、ドコモ社としてのアセットが組み合わさって様々な施策が生まれている訳ですね。

鈴木「ドコモのアセットという面ではJリーグの試合日にはドコモショップの店員が地元クラブのユニフォームを着たり、サポーターの皆さんもドコモのサービスを使うと試合観戦がより楽しくなったり……まだざっくりした話も多くて申し訳ないですけど、関わる会社や人が増えることで施策の規模はもっと大きくなります。今回のJISではスカパー!さんと共同施策だからこそ実現できた部分もありますし、JWCやJISの経験も活かしてJリーグさんだけではなく、Jクラブさんとの共催での大会も検討できればと考えています」

――今後の施策を楽しみにしています。本日はありがとうございました。

Akinori SUZUKI
鈴木 彰訓(写真中央)

株式会社NTTドコモ エンターテイメントプラットフォーム部 プラットフォーム事業・担当部長。1999年NTTドコモ入社。Iモードのコンテンツ関連の業務を得て、おサイフケータイ導入時のサービス展開などを従事。その後、ドコモの法人営業部門で営業を経験後、2015年からdポイントサービス開始に合わせて、サービス展開、加盟店様の導入対応なども従事。その後、2023年より現在のJリーグ様とのパートナーの部門となり、ドコモの顧客基盤を活用した60クラブとの協業モデルを全国展開に向けて実施。ドコモのアセットをフルに活用し、新規ファンの獲得、スタジアムへの来場などを創出。Jリーグクラブを20数年のサポーター経験が本業務で活かしている

Yutaro GOTO
後藤 優太朗(写真右)

(株)NTTドコモ エンターテイメントプラットフォーム部プラットフォームビジネス担当。2023年NTTドコモ入社。前職は経営・人事コンサルティング会社でミッション・ビジョン・バリュー策定など業務に従事。前々職ではベガルタ仙台に勤務し、グッズ制作・販売やスポンサーセールスを行う。ドコモ入社後、Jリーグや各クラブとの協業を担当し、本大会ではグッズ制作・販売を担当

Hikaru YOKOYMA
横山 輝

(株)NTTドコモ エンターテイメントプラットフォーム部プラットフォームビジネス担当。2022年NTTドコモ入社。前職は証券会社の投資銀行部門にてM&Aアドバイザリー業務に従事。ドコモ入社後、eスポーツやJリーグ・各クラブとの協業を担当し、本大会ではチケットの企画・販促を担当

Photos: J.LEAGUE

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Profile

玉利 剛一

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime

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