ポストユース年代の高卒ルーキーの出場機会がないことが問題になっているが、ガンバ大阪アカデミー出身の南野遥海は興味深いキャリアを歩んでいる。高卒1年目はJ3のテゲバジャーロ宮崎にレンタルされ10得点、2年目の今季はJ2の栃木SCにレンタル移籍し、ここまで5得点と着実にキャリアを前進させている。降格圏に沈む栃木のキーマンとしても期待される20歳は新しい環境に適応し、ロジカルな成長を続けている。
ゲームの流れとは関係なく、脈絡のないところから左足一発でゴールを生み出せるガンバ大阪産のストライカー、南野遥海。
高卒ルーキーイヤーの昨季はJ3のテゲバジャーロ宮崎で10得点。プロ2年目の今季、1つカテゴリーを上げたJ2の栃木SCでは第24節終了時点で5得点。それぞれリーグの下位に低迷するチームにおいて、少ないチャンスを決め切って積み上げた数字だ。
“普通”の有望株との「2つの違い」
毎年J2には有望なJ1の若手が多数やってくるが、南野はいくつかの違いを感じさせる。
1つは、負けん気の強さだ。南野が今季、J2の栃木に合流してまもなく、ベテランの矢野貴章は「ここでどうにかしてやるという気持ちの強さを感じる」と南野を褒めていた。若いのにギラギラしているし、堂々としている、と。南野はプレシーズンの時点からトレーニングマッチで奪ったペナルティキックを誰にも譲らずに当たり前のように蹴っていた。
また、シーズンの始動時から19歳(当時)の南野が年上の選手たちにも物怖じせずにプレー面を指摘する姿があった。もともと負けず嫌いな性格ではあるが、これにはきっかけがあるという。
22年シーズンの7月。アウェイ川崎F戦。南野が2種登録選手としてガンバ大阪でJ1デビューを飾った試合。このシーズンのガンバ大阪は残留争い中で、チームが置かれている状況は厳しかった。前半に1人退場者を出し、川崎Fにボールを回されるだけという状況に。ハーフタイムのロッカールームでは齊藤未月(現神戸)が下を向くだけの選手たちに対して怒鳴り、思いをぶつけていた。ロッカールームを出ると南野は齊藤から「お前ももう18歳なら意見しろよ!」と言われ、ハッとした。南野がいう。
「そういう選手が上に行くんだと思ったんです」
上でプレーしたい、海外でプレーしたいと焦がれる南野の、プロとしてのスタンスを決定づける出来事だった。
もう1つの明らかな違いは、プレーの細部へのこだわりが半端ないということ。
「他の人がバラエティを見るような感じで時間さえあればサッカーを見ていると思います」
頭の中は常にサッカー一色。人よりも国内外のサッカーを見る量が純粋に多く、サッカー狂という父親とは今でも一緒に試合映像を見ながらサッカー談義に花を咲かせる。
取材の受け答えを聞いても、一つひとつのプレーに対する視点が深く、細部への徹底したこだわりを感じさせる。
それは2月の沖縄キャンプの頃から顕著だった。
例えば、クロスボールに対してやたらと身体の無理が利き、難しいバウンドや急に軌道が変わったボールを強引にゴール方向へと飛ばす技量が抜きん出ていたので、それについて聞けば、点を獲るために不可欠な習慣として染みつけている動作だという。
「試合ではむしろそういうシチエーションの方が多いので。味方がミスキックして転がってくるとか、相手DFが触れずに転がってくるとか。昨季所属した宮崎でも横からのクロスボールが速くなくても合わせて得点できたシーンがありますが、それを決め切れるかどうかがすごく大事。それが点を獲れる選手と獲れない選手の差だと思っているんです」
客観的な分析で磨き続ける左足のフィニッシュ
今となってはJ2のどのチームも最大限の警戒を払っている左足のフィニッシュについては、こう自己分析する。……
Profile
鈴木 康浩
1978年、栃木県生まれ。ライター・編集者。サッカー書籍の構成・編集は30作以上。松田浩氏との共著に『サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論』がある。普段は『EL GOLAZO』やWEBマガジン『栃木フットボールマガジン』で栃木SCの日々の記録に明け暮れる。YouTubeのJ論ライブ『J2バスターズ』にも出演中。