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それはまるで『キングダム』!?伊沢拓司が語るトッテナムのほっとけない魅力【来日記念インタビュー前編】

2024.07.18

スパーズは日本でもさらに盛り上げていけるクラブ――。33年ぶりの「遅すぎる」来日を今か今かと待ちわびるトッテナムサポーター、その一人が“東大クイズ王”としてお馴染みの伊沢拓司だ。7月27日に国立競技場で行われるヴィッセル神戸戦を前に、このチームを応援し続ける理由からJリーグワールドチャレンジ開催の意義まで、たっぷり語ってくれたインタビューを前後編でお届けする。

インタビュー 玉利剛一(フットボリスタ編集部)
編集 赤荻悠(フットボリスタ編集部)
写真 鈴木奈保子

小2で日韓W杯に熱狂し、ウイイレ、浦和レッズを経由して

――大のサッカーファンであり、トッテナムの熱狂的サポーターとして知られる伊沢さんですが、そもそもサッカーを好きになったきっかけというのは何だったのですか?

 「一番はサッカーが盛んな小学校に入ったことですね。高校サッカーでも有名な暁星で、週に3時間ある体育のうち1時間は必ずクラス対抗のサッカー大会をするという驚異的なカリキュラムの学校でしたから、そうした環境ではサッカーを好きにならざるを得なかったです。そんな中、小学2年生の時に日韓ワールドカップ(2002年)が開催されました。ちょうど林間学校の最中に日本代表の初戦、ベルギー戦があったんですけど、もう見たすぎて普通に林間学校をサボって家でテレビにかじりついてましたね(笑)。それくらい当時の僕はサッカーにハマっていました」

――ワールドカップでサッカーに対する熱量が一気に高まったのですね。

 「はい。ワールドカップを機に名選手図鑑のような本や雑誌がたくさん出ていて、そういうのも読み漁っていましたね。小学校は電車通学で、けっこう距離もあったので読書の時間にしていたんですけど、そこで難しい本を読むのも違うから趣味の本を読もうとなった時に、サッカーの本を選んですごく夢中になっていったところはありました」

――小学校低学年から活字でインプットする習慣があった。

 「そうですね。小1の頃から活字で知識を得ることが楽しかったんです」

――特に印象に残っている選手はいますか?

 「ワールドカップで海外のサッカーやスター選手にも興味を持つようになって、あの大会ではやっぱりロナウド(得点王に輝いたブラジル代表FW)のインパクトがすごかった。NHKで今大会の全ゴール見せます!といった総集編をやっていて、あれはもうビデオがすり切れるくらい見ましたね。僕、その番組の最後に登場してるんですよ。通っていたサッカースクールにたまたまNHKの取材班が来て、インタビューを受けた僕のコメントが使われたんです、番組の締めで(笑)。でもそんなことは関係なく、全ゴール集を繰り返し見まくっていて、だから当時の選手の名前はいっぱい覚えています」

2002 FIFA 日韓 ワールドカップでブラジル代表の優勝に貢献したロナウド

――では、ロナウド以外にも印象に残っている選手がいるわけですね。

 「その時はワールドカップしか知らなかったんです。それで大会を見た後に、出場していない有名な国もけっこうあるんだなと興味を持ち始めて。読んでいた本や雑誌にも日韓ワールドカップに出ていない名選手シリーズみたいなコーナーがあって、そこでチリ代表のイバン・サモラーノが紹介されていたんです。すごくエピソードが豊富な選手で、『1+8』番のユニフォームとか、そういう逸話がかっこいいなって。もうインテルを去った後で引退手前でしたけど、なぜか僕は小2にしてサモラーノにハマってましたね。今でも自分の会社でサッカーをやるのにユニフォームを作ったんですが、僕は背番号を『7+3』で10番にしたりとか(笑)。

 小2の頃は代表サッカーが中心でしたけど、小3の時にレアル・マドリーが日本に来たんです。銀河系と呼ばれていたチームで、東京ドームで行われた公開練習を見に行きました。サッカーゲームをやっていたので選手の名前くらいはわかるし、ドームでサッカーをしている強烈な違和感とともに、あの興奮や景色は今でも記憶に残っていますね」

――サッカーゲームで選手の名前を覚えるのは多くのサッカーファンの共通体験かもしれません。当時のサッカーゲームというと『ウイニングイレブン』ですか?

 「ウイイレですね。小4の時の2004が一番やり込んだかも。『マスターリーグ』にも熱中していて、選手を一から育てていくんですけど、やっぱりOB選手が強いわけですよ。だからそれで、まったくサッカーIQは高くなりませんが、選手の名前だけは覚える。使い込んでいたのはファン・ニステルローイ、ビエリとか、当時は足だけ速いポルトガルの若手という印象だったクリスティアーノ・ロナウドとか、とにかく速くて使いやすいマルティンスとか。ウイイレと言えばマルティンスですよね。そういうのが中心にあった小学生でした」

――Jリーグへの興味はいかがでしょう?

 「小5、小6の時は浦和レッズを応援していました。攻撃陣にはエメルソン選手や永井雄一郎選手、田中達也選手らがいて、長谷部誠選手も台頭してきた頃で、土曜の朝はテレ玉の『REDS TV GGR』を見て1日が始まるって感じでしたね。埼玉スタジアムの沿線に住んでいたので、試合もよく見に行っていました。でもレッズサポーターというほどではなくて、試合結果は追っているけど、小5、小6だと受験勉強をしていたので、ハマり切れない部分がありました。

 それと決定的だったのは、2006年ドイツワールドカップでの日本代表の敗退。あれは子供ながらに絶望感がすごかった。監督はジーコで、稲本潤一、小野伸二、中村俊輔、中田英寿の黄金のカルテットがいて、そんな日本の夢を詰め込んだ、もう夢しかないチームがグループステージで負けたのを見て、気持ちがだいぶ落ちました。そのタイミングと受験が重なったこともあり、中学時代にかけてはサッカーから少し離れることになりましたね」

日韓ワールドカップ、ウイニングイレブン、浦和レッズ……少年時代に影響を与えたものを語る伊沢さん

ポチェッティーノ政権でハマれたという幸運

――ワールドカップ、ウイニングイレブン、浦和レッズ……そうした時期を経て、トッテナムとの出会いはいつだったのですか?

 「高2、高3あたりが芽生えでしょうか。受験生時代は勉強から逃げたいという気持ちで、ゲーセンに行ってお金と時間を潰していまして(笑)。そこでウイイレで現実逃避するわけですが、最初はなんとなくクレストがかっこいいという理由でトッテナムを選んでいたんです。しかも、当時のトッテナムはすごく使いやすかった。ベイル、レノンというサッカーゲームでは重宝する足の速い両翼がいましたから。モドリッチとベイルが相次いでレアル・マドリーに移籍していく転換期でしたけど、ウイイレをきっかけにチームのことを知り始めました。

 当時の僕にとってイングランドフットボールというと、2000年代前半の印象が色濃く残っていて、“ベッカムとイカツイ男たち”というイメージだったんです。そんな中でトッテナムのスピードを生かした攻撃的なスタイルにはシンプルに興味が湧いてきて、大学生になってから本格的に情報を追うようになった感じですね」

――では、同じ頃にTVで試合中継も見始めている?

 「ちょっとあとですね。当時トッテナムの試合は見づらかったんです。今でこそプレミアリーグは全試合生中継で観戦できますが、その頃はJ SPORTSの中継枠に選ばれるにしてもビッグクラブと対戦する時だけ。なのでちゃんと見始めたのは2015-16シーズン、岡崎慎司選手がいたミラクル・レスターのシーズンなんですよ。レスター戦も中継されるようになって、NHKでもレスター対トッテナムが放送されたり、徐々に見やすくなってきて」

――“ビッグ4”から“ビッグ6”へ、トッテナムが強豪の仲間入りを果たしていく時期ですね。

 「例えばフジテレビの『MONDAY FOOTBALL』では順位表がちょっと紹介されるんですけど、いつも5位、6位あたりにいるって感じでしたよね。2010-11シーズンに初めてCL(チャンピオンズリーグ)に出場した後も、なかなかアップダウンの激しいチームでしたので、固定のファンがつきにくかったと思うんです。だから昔からのスパーズサポーターというと、海外在住経験があったり、イギリスの文化に触れたりといった背景のある方が多いんです。そうした日本だとなかなかファンを獲得しづらい状況で、たまたま僕はタイミングが合って、ケインが伸びてきた、デレ・アリが出てきた、そういう素晴らしい時期を捕まえられたのは幸運でしたよね」

――2014年夏のマウリシオ・ポチェッティーノ監督就任が転機となりました。

 「ポチェッティーノ政権でハマれたというのは僕にとって本当に大きかった。ワンチャンあるサッカーというか、強豪も倒せるし、一方でどんな弱いチームにも負けるっていう。その強さと脆さが共存している感じが、毎試合見なきゃって気持ちにさせるんです。当時から滅法マンチェスター・シティには強かったわけですし、マンチェスター・ユナイテッド相手にもよくアップセットを起こしたり、でも一方で、アーセナルとチェルシーには勝ちきれなかったり、そういうのが面白くて。

 ケイン、デレ、エリクセン、そしてソン・フンミンが出てきた頃で、攻撃陣がすごく魅力的なチームでしたから。今では考えられないですけど、ソンは当時“シュートだけうまい選手”って言われていたんですよね。後方はアルデルワイレルトとフェルトンゲンの両センターバックが固めていて、本格的に見始めた頃にダビンソン・サンチェスや、EURO2016で大活躍したフランス代表のムサ・シソコが移籍してきて。EURO2016はめちゃくちゃ見ていたので、“うわっ、あんないい選手が来るんだ”って喜んだ記憶があります。結局そのシーズンのシスコはめちゃくちゃ苦しむんですけど」

2014年5月から2019年11月までからトッテナムを指揮したポチェッティーノ

「このチームなら10年、20年と応援できるなって」

――おっしゃる通り、メディアの露出量と人気は一定の比例関係にある中で、日本では報道されることの少ないトッテナムの魅力を伊沢さんが発信されることには意義があると思います。今夏の来日で初めてトッテナムの試合を観る方もいると思いますので、伊沢さんが同クラブにハマった理由として他にもあれば教えてもらえませんか?

 「一番の要因は、安心して応援できるチームだからです。(フットボリスタの)初回の連載コラムでもお伝えしましたが、まず経営体制がすごく良い。ダニエル・レビィという凄まじい天才がクラブを率いていますから。たまにミーハーを出して補強で失敗しますけど、未来志向のチーム作りをしていて、基本的には5年後、10年後、20年後を見据えながら経済システムを変えようとクラブを運営しているんですよね。フットボールというビジネスを他のビジネスに紐付けつつ、サステナブルに稼ぐことができている。プレミアリーグはたくさんお金が入ってくるので、それに翻弄されて経営状態を悪化させるクラブも多いですし、経営のサステナビリティはフットボール界の永遠の課題だったりするわけです。その中で、盤石の体制を築きながら地域も盛り上げていこうという、フットボールを中心としたエコシステムを作っているところがすごく魅力的で、このチームなら10年、20年と応援できるなって。レビィが会長職を降りない限りですけど。

 だから、一番推してる選手は?と聞かれたら、ダニエル・レビィって答えるかもしれない(笑)。スパーズを応援する理由も、彼が好きというのが一つありますね。プレミアには魅力的なフットボールをしているクラブはいっぱいあるし、自分もトッテナムを好きになるのがもう少し遅かったら、ポッターやデ・ゼルビのブライトンにハマっていたかもしれない。経営面も面白いですしね。とはいえ、やっぱりトッテナムは伝統と強さ、そして健全性を兼ね備えた素晴らしいクラブだと思っています。ゆえに日本に来るのが遅すぎるくらい(笑)。その魅力を、安心して応援できるクラブだということを、もっともっとみんなに知ってもらいたいです」

――競技面だけではなく経営面や事業面にフォーカスする楽しさ。

 「大人が見るスポーツとしての面白さという点では、経営面は切り離せないと思うんです。今後5年クラブがどうなっていくのかに期待が持てないと、安心して応援できないし、あれこれ議論する上での前提がないから楽しくない部分がある。フットボールを見ていて一番つらいのが、ここが弱点だってわかってるのに改善されないってやつ(笑)。それこそスパーズは右サイドバックの補強がうまくいかない時期が続いて、ずっとそこが課題なのに……って言いながら5年くらい苦しんでいたんです。

 それが経営までわかっていると、でもこれはいずれ改善されるなとか、チームがこういう動きをしたってことはきっとこういうふうに変えようとしてるんじゃないか、みたいにポジティブに捉えられる。いい意味で一喜一憂せずに安心して見ていられるんです。フットボールの試合を見ていると、もちろん勝った負けた、点を取る取らないで熱狂できるんですけど、それに経営が乗ると歴史物語、経済小説を読んでいるように深みが増すと言いますか。それこそ大人の楽しみ方ができているなって」

――その観戦スタイルはいつから手に入れられたものなのですか?

 「スパーズにハマってからだと思います。伝統があって、ファンコミュニティがあって、それこそ日本のファンコミュニティが大きくなっていくのも見てきた。ダニエル・レビィが20年計画ぐらいのスパンで未来を描いていて、しかもそれを公表しているので、ストーリーが進んでいくような感覚があるわけですよ。まるで『キングダム』を読んでるみたいな(笑)。『キングダム』も歴史ものなので、なんとなく進む方向は見えているけど、それ通りにならない展開もあったりしますよね 。『嫪毐(ろうあい)の反乱のくだり、じっくり描いてるな〜』みたいな。

 同じようにレビィの描いてきた未来のプランよりも早めにCL決勝に行って(2018-19シーズン)、その結果としてちょっと物語にひずみが出たから、その後の沈んだ3年間があるみたいな、「あれ、ここ思ったのと違う」みたいなことがわるわけです 。これがクロニクルとして面白い。進む方向性はある程度見えているんだけど、そこにアップダウンがあって、我われはそれにハラハラしながら、でもやっぱり未来はこうであるとダニエル・レビィが示してくれているから面白いんです」

伊沢さんはトッテナムを応援する理由の1つとしてダニエル・レビィ会長の存在を挙げる

ポステコグルーの狂気、そのひずみもまた面白い

――前回の連載と同じテーマになりますが、あらためてトッテナムの2023-24シーズンについてお聞きしたいと思います。日本のサッカーファンにも馴染みのポステコグルー監督の就任は大きなトピックスでした。

 「やっぱりアンジェ・ポステコグルーに注目していただくのが一番見やすいと思います。連載で書いた時にもいろいろと反響をいただきましたが、横浜F・マリノスのファンは『変わらんな』と言っていました。Jリーグを長く見ている方からすると、懐かしいアレが見られるって感じだと思います。マリノスでも就任1年目は苦戦していましたよね。超攻撃的フットボールで、攻撃時には2バック化するので、そうなると後ろは当然手薄になり、とにかくカウンターを食らってピンチをたくさん招く。その代わり常に攻めてるというようなフットボールを志向する監督ですから、まずはその極端さみたいなところを楽しんでほしいですね。

 後方には広大なスペースがありますから、特に堅守速攻のヴィッセル神戸はトッテナムを倒すにはぴったりなチームだと僕は思っています。そういった点も含めて、今回のJリーグワールドチャレンジはいい試合になる予感がするので、まずはポステコグルー、この人の狂気というものをJファンにはあらためて味わってもらいたいですし、最近サッカーを見始めた方にはこんなフットボールがあるのかと驚いてもらえるのではないでしょうか」

――就任直後の所感としては期待と不安、どちからが大きかったですか?

 「半々でしたね。期待ばかりではなかった。それこそ最初に候補として挙がっていたナーゲルスマン(現ドイツ代表監督)は新進気鋭の若手監督であり、チームの空気を刷新するためには最良の人選だと思っていました。一方でスロット(現リバプール監督)やフォンセカ(現ミラン監督)など、いろいろな名前が噂される中でポステコグルーを選んだというのは、クラブの意気込み「これに賭けた!」という思い切りを感じましたね。極端なスタイルの人なので。でも近年はモウリーニョ(現フェネルバフチェ監督)やコンテ(現ナポリ監督)など守備的な監督がチームを率いてきましたけど、トッテナムの伝統って本来、攻撃的なフットボールなんですよね。

 レビィはポチェッティーノ時代の成功を受け、そろそろタイトルを獲れるだろうと見込んで、優勝請負人、勝者のメンタリティを植えつけてくれる監督を求めたわけですが、実際そうはならなかった。それをチームに浸透させられなかったし、監督たちも根気が続かなかったし、やっぱりファンが守備的なフットボールを受け入れてくれなかった。その中でいよいよ攻撃的なフットボールを志向する、しかもチームビルディングに時間がかかる監督を連れてきたということには、クラブの覚悟を感じました。レビィが描いた未来像がようやく修正されたなって。一方でプレミア経験がないことや、ポステコグルーってこんな人だよとか、自分に合うスカッドじゃないとうまくいかないよ、といった話を聞いていたので、不安はありましたよね。ですので、開幕10戦無敗でスタートを切ったことは超驚きでした」

――その開幕後の2カ月半でチームやトッテナムを取り巻く空気はガラッと変わった。

 「コンテ政権というのは3バックで重めに戦って、まず相手を引き込んでからのカウンター、疑似カウンターのような形を目指すフットボールで、どちらかというとスペースを前に作る形でした。それがポステコグルーの場合はとにかく後ろにスペースを作って前にオーバーロードしていくという凄まじいスタイルなので、フットボールは180度変わりましたね。コンテが3バック用に組み替えたチームで超攻撃型の4バックを敷くわけなので、例えばペドロ・ポロなんて大丈夫かと、ウイングバック専用機であってサイドバックは無理だと思っていたんですけど、それがめちゃくちゃハマりましたから、わからんもんだなって(笑)。

 一方で今まさにポステコ・スタイルに合わせるべくスカッドを再整備している最中なので、ある種ひずみがすごくあります。実際、昨シーズンも後半戦ではサイドバックがインバーテッドしていくタイミングが悪かったり、中央に密集しちゃって外を使いきれていなかったり。それでも、このひずみが面白いなと思うわけですよ。初めて見る人からしても、あまりにもいびつで面白いと思いますし、かと言ってそれは計算されたいびつさであったりもするので、日本でも新しいフットボールをお見せできる感じはしています」

横浜F・マリノスでの監督経験もあり、日本のサッカーファンにもお馴染みのポステコグルー監督

ヴィッセル神戸戦は殴り合いに?注目は“真ん中”とポロ!

――昨シーズンの最終順位である5位という結果をどのように捉えていますか?

 「めちゃくちゃいいのではないでしょうか。終盤のアストンビラの失速ぶりを見ていると4位はいけたな、EL(ヨーロッパリーグ)ではなくCLに出たかったなという気持ちはもちろんありますけど、結果としては大成功のシーズンじゃないですかね。8位で欧州カップ戦の出場権を逃してスカッドはボロボロ、チームもボロボロ。大敗を繰り返していた2022-23シーズンを考えると、昨シーズンは形にはなりましたし、ケガ人が続出した中盤戦がなければもっといけたという手ごたえもありますから、スカッドをより強化した2024-25シーズンは期待の持てる1年になると思います。

 何よりポステコグルーって、コーチングスタッフをあまり自分から要望しないタイプの監督で、もともといたライアン・メイソンをコーチとして活用したり、スパーズでは既存のメンバー中心でスタートしたわけです。そんな中でしっかり結果を出した。ちょうど先日、新たにニック・モンゴメリーのコーチ就任が発表されましたけど、そういう意味ではけっこうな制約がある中での5位というのは見事でしたよね。対して、一番の不安要素は頑固さです。ポステコグルーが何を考えているのかよくわからん!ってことが終盤戦では相次いだので、新シーズンの序盤戦はどうなっていることか。もっと言うと、7月27日にどういうチームで来るのかというのは今季を占う大注目ポイントですね」

――「明治安田Jリーグワールドチャレンジ2024 powered by docomo」ですね。この試合のプレビューを聞かせてください。

 「一番注目しているのは、真ん中が混んでいないかどうか。昨シーズンの後半戦は中盤が渋滞したり、サイドバックが中に入ってくるタイミングが悪かったり、相手が引いているとビルドアップができず、マディソンやソンまでサポートに降りてくることがありました。そこにおかしな動きがあるかないかがチームの調子のバロメーターなわけです。なので、プレシーズンマッチで初めてスパーズを見る人が“なんか中がごちゃごちゃしてるな”と思ったらそれは失敗している状態。すっきりとボールが回っていたら本来の姿で、これがやりたいことなのねって基準になるかと思います。

 あとは、苦手なセットプレーの守備に改善が見られるかどうかでしょうか。試合は殴り合いの展開になりそうですよね。スパーズは4バック相手はけっこう得意ですし。それでもカウンター時に前線でボールを収められる大迫勇也選手や、プレミア経験者で裏抜けが得意な武藤嘉紀選手もいますし、神戸には十分、スパーズ守備陣を脅かすチャンスがあるはずです」

――さきほど伊沢さんの推しはダニエル・レビィという話もありましたが、選手で注目しているのは誰ですか?

 「ソン・フンミンは当然として、今回の神戸戦に関して言うなら、ペドロ・ポロ! さっきも名前を挙げましたけど、スパーズの中心になった右サイドバックの選手です。なぜEURO2024のスペイン代表に選ばれなかったんだ?とみんなが言うレベルの選手で、落選時にはスパーズのチームメイトも相次いでInstagramにメッセージを送って励ますほど、昨シーズンは調子が良かった。もともとウイングバックの選手でサイドバック起用は疑問視されていましたが、守備能力を向上させて弱点ではなくなりましたし、もちろん攻撃への関与は素晴らしいです。

 プレシーズンマッチだとある程度ローインテンシティのゲームにはなると思うので、ブレナン・ジョンソンやベルナーのような、スパーズに多い足を生かすタイプの選手は良さが出しづらいかもしれない。しかもなぜかポステコグルーはロングシュートを禁じているようで 、ソンの良さがあまり生きていない気がしていて。そんな中でポロはチームで唯一、積極的にロングシュートを打つことを許されている気配がします。 かつボールさばきや相手を外すのもうまい。ローテンポのゲームでもキックやタッチで見せられる選手なので、ポロをぜひみなさんに見ていただきたいです。スパーズのメンバーは180cmを超えている選手ばかりですから、その中では170前半で日本人的に馴染みのある体格のポロは見つけやすいと思います。

 他にもファン・デ・フェンとロメロの両センターバックなど見てほしい選手はいますが、それぞれEURO(オランダ代表)とコパ・アメリカ(アルゼンチン代表)で上位に進出しているので来日してくれないかもしれない。EUROに出られなかった分、ペドロ・ポロには日本で大暴れしてもらいたいですね」

伊沢さんが注目選手に挙げたペドロ・ポロ

後編に続く

Takushi IZAWA
伊沢 拓司

私立開成中学校・高等学校、東京大学経済学部卒業。中学時代より開成学園クイズ研究部に所属し開成高校時代には、全国高等学校クイズ選手権史上初の個人2連覇を達成。2016年に、「楽しいから始まる学び」をコンセプトに立ち上げたWebメディア『QuizKnock』で編集長を務め、登録者数200万人を超える同YouTubeチャンネルの企画・出演を行う。2019年には株式会社QuizKnockを設立しCEOに就任。クイズプレーヤーとしてテレビ出演や講演会など多方面で活動中。ワタナベエンターテインメント所属。

Photos:Nahoko SUZUKI, Getty Images

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