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「手動」から「自動」へ。サッカー映像処理技術の最前線:位置情報から姿勢データまでリアルタイムに入手可能な時代が来る?

2024.06.29

毎年6月頃にアメリカで開催されているスポーツ映像処理の国際ワークショップ「CVSports」。最先端のスポーツ映像処理技術が発表されるこの研究発表会に参加した名古屋大学准教授・藤井慶輔氏に、自身の研究室での成果と合わせて、サッカー分析におけるデータ自動取得の最前線について解説してもらおう。

 パターン認識とコンピュータビジョンのトップ国際会議CVPR(Computer Vision and Pattern Recognition)の一環として開催されている、スポーツ領域に特化したワークショップCVSports(Computer Vision in Sports)は、スポーツの理解、パフォーマンス向上、そして映像として「見せる」技術の最前線が発表される場である(今回で10回目の開催)。スポーツのあらゆる側面で重要な映像処理の最新研究が発表されるこのイベントは、スポーツ放送やデータ分析の未来を形作る場となっており、筆者の研究室からも3件の発表が行われた。

 近年、オンラインスポーツ視聴の普及により、視聴者に向けたパフォーマンス統計の提供が求められるようになった。映像処理は、リアルタイムのゲーム分析やグラフィックの自動生成、さらにはコーチングやスポーツ関連のケガの理解に至るまで、その可能性を広げている。

 これまで世界中に分散していた研究者たちが一堂に会するCVSportsは、これらの技術を共有し、将来の応用方法について議論する重要な機会を提供する。筆者もシアトルに行き(今年は6月18日に開催)、研究発表やコンペティションに関する議論を通じて、海外の専門家とネットワーキングを行い、新たなコラボレーションの機会を得ることもできた。

「映像処理技術」から求められる3つのデータ

 サッカーにおけるデータの自動収集は、多くのチームがゲーム分析を行うための重要な課題である。

 現在、多くのデータ収集は人手に頼っており、時間と労力がかかる。また、高価な機器を用いる場合もあるが、資金面での制約も存在するため、一部のトッププロしかその恩恵を得られないという課題がある。こうした課題を解決するために、映像処理技術を用いたデータの自動収集が求められている。

 具体的に必要とされるデータは、「1.選手やボールの位置データ(トラッキングデータ)」と「2.パスやシュートなどのイベント(行動)データ」が基本的な要素であり、「3.選手の姿勢データ」があるとより詳細な分析が可能になる。

 CVSports 2024で紹介された技術の中には、これらのデータを効率的に収集・解析するための最新のアプローチが複数発表されたため、本記事では、これらの技術がどのようにサッカーの未来を変えるのか、興味深い研究の例を交えながら紹介していく。

1.選手やボールの位置データの自動取得

 サッカーにおける選手やボールの位置データの自動取得は、主に①フィールド検出、②選手・ボールの追跡(トラッキング)、そして③人物同定の3つのステップに分かれている。これらの技術は、試合の分析や選手評価に不可欠である。……

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Profile

藤井 慶輔

名古屋大学大学院情報学研究科 准教授。主にスポーツ科学と機械学習の研究に従事し、両領域での論文や受賞多数。京都大学にて博士号取得後(人間・環境学)、日本学術振興会特別研究員PDと理化学研究所革新知能統合研究センター研究員を経て、現在に至る。X: https://x.com/keisuke_fj note: https://note.com/keisuke_fj HP:https://sites.google.com/view/keisuke198619jp

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