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【松田浩(ガンバ大阪フットボール本部 本部長)インタビュー前編】アヤックスとの提携で見据える未来。スカウト、育成、ブランディング……ガンバ大阪の発展はマルチクラブネットワークとともに

2024.06.13

2024年3月、ガンバ大阪はAFC アヤックスと3年間の『フットボール戦略パートナーシップ』に合意したことを発表した。トップチームの強化をはじめ、育成、スカウト、事業面まで包括した提携内容は驚きと期待をもってファン・サポーターに受け入れられた。

5月下旬にはアヤックスと提携する4クラブ(CF パチューカ[メキシコ]、アトレチコ・パラナエンセ[ブラジル]、シャージャFC[UAE]、ガンバ大阪)が一堂に会し、フットボールに関する知識と経験を交換することを目的とした『1st Club Network Summit』がオランダ・アムステルダムで開催され、アヤックス以外のクラブとの連携も深まっている。

ガンバ大阪はこうしたネットワークの構築を通じて何を実現しようとしているのか。オランダから帰国直後の松田浩氏(ガンバ大阪フットボール本部 本部長)を直撃取材。『1st Club Network Summit』の所感をはじめ、提携の背景や今後の展望について話を聞いた。

良い関係を築くことで、今後の移籍においても優先的に会話ができる

――アムステルダム出張お疲れ様でした。まずは5月28日~29日に開催された『1st Club Network Summit』について聞かせて下さい。主催のアヤックスとしても初の試みだったようですね。

 「アヤックスはガンバ以外にも3クラブとパートナーシップを締結しているので、(アヤックスを含む)5クラブの横のネットワークを強化すると言いますか、リアルの場で交流して相互理解を深めることを目的として開催されたものです。各クラブの担当者がスカウティングフィロソフィーや育成に関する取組みをはじめ、ブランディング戦略、スタジアム活用など事業面についても実例を挙げてプレゼンしてくれました。サミットが開催された2日間で各クラブの理解と関係性が深まったので、今後はメールや電話でカジュアルに連絡を取りあえるようになりますし、有意義な時間になりました」

――ちなみに、松田さんはガンバ大阪をどのようにプレゼンされたのですか?

 「1993年にスタートしたJリーグ発足当初から活動する所謂『オリジナル10』のクラブであり、本拠地がある大阪府のみならず日本全国にファンを持つ人気クラブであること。そして、ACLを含む9つのタイトルを獲得した実績があること。育成についても、現日本代表の堂安(律)選手らの名前を挙げながら、ガンバのアカデミー出身選手を紹介しました。あとは、やはりスタジアムですよね。先日の大阪ダービーの様子を映像で見せて『いい雰囲気でしょ?』って(笑)」

――大阪ダービーの勝利はこんなところにも好影響をもたらしたのですね(笑)。アヤックスをハブとして交流した3クラブはそれぞれに特徴があります。

 「どのクラブも素晴らしいのですが、先日CONCACAFチャンピオンズリーグを優勝したCF パチューカは中学校から大学院までを運営していたり、ホテルやレストランを持っていたり、経営規模的に大きな成功を収めているクラブなので、驚かされる話は多かったですね。アトレチコからもデータ活用面で先進的な話がありましたし、アヤックスが提携相手に選んでいる理由が少し分かる気がしました」

――競技と事業の両方を包括する点は『1st Club Network Summit』や、アヤックスとの提携における重要なポイントだと認識しています。

 「そうですね。ガンバとして『1st Club Network Summit』は強化を担当する安東(太昊)と事業本部の副本部長を務める村林(紘行)の3名で参加しました。アムステルダムでは、アヤックスのマーケティング関係の担当者と個別に会話する機会もありましたし、今後は事業面に関しても提携が進んでいく予定です」

『1st Club Network Summit』で実施されたプレゼンの様子

――今後はアヤックス以外の3クラブ(パチューカ、アトレチコ・パラナエンセ、シャージャ)とも提携するという理解で正しいでしょうか?

 「提携とまではいかないかもしれませんが、今回のサミットをスタートとして6~7週間に1回の頻度でオンラインミーティングを定期開催しようと話をしています。このネットワークを利用して知識やノウハウを共有し、お互いの弱点を補完したり、強化に活かしたり、そういう関係性を目指しています」

――各クラブそれぞれに優れている面があるでしょうから、ネットワーク間で情報をシェアできるのは大きなメリットですね。

 「育成については、アヤックスのノウハウが優れているイメージがあるかもしれませんが、パチューカも素晴らしいですよ。彼らは選手編成における約7割をホームグロウンの選手が占めているんですよね。アヤックスも彼らの実績やメソッドを認めていて、今回の会議でも『育成に関してはパチューカのノウハウを皆で学ぼう』と話していました」

2008年FIFAクラブワールドカップで対戦経験もあるCF パチューカ

――マルチ・クラブ・オーナーシップ(以下、MCO)の活動に近い印象を受けます。

 「いえ、完全に横並びの提携という意味でMCOとは違います。金銭的なものは発生していないですし、上下関係のないフラットなネットワークで、お互いにウィンウィンになることを目指しています。アヤックスは『マルチクラブネットワーク』と表現していました。各クラブと良い関係を築くことで、今後の移籍においても優先的に会話ができるでしょうし、そうした面も含めてネットワークを持つ重要性は感じましたね」

――金銭的なものが発生していない中で、アヤックスがガンバ大阪と提携する決め手は何だったのですか?

 「スカウトや事業面でアジアに関する情報を把握したい目的があり、いくつかのJクラブを候補として提携を画策していたようです。最終的にガンバを提携相手に選んだのは、ガンバが大阪という大きな都市を本拠地としていることや、親会社がパナソニックという大企業でかつ、関係性が健全であることからガンバの経営が安定していると評価されたと聞いています」

『1st Club Network Summit』に参加した5クラブ関係者の集合写真

ボランティアのスカウトが欧州中に数百人いる

――ここからはアヤックスとの『フットボール戦略パートナーシップ』について、より具体的な話を聞かせて下さい。提携の対象範囲は広いので、まずは『スカウト連携』にフォーカスします。この分野を提携対象とした背景として、どのような課題認識をお持ちですか?

 「近年、欧州のマーケットから日本人選手が注目されているのはご存知の通りです。Jクラブの立場としては選手が流出してしまう訳ですが、その選手の価値に見合った対価(移籍金)を得られていない現状があります。つまり、安い金額で移籍してしまうことの是正をしないと我々としては苦しい。アヤックスと組むことで、欧州市場の情報、価値観、方法論を学び、適切な移籍金で交渉する術を構築する必要性を感じたことは(欧州クラブとの提携を考えた)キッカケです」

――例えば、『1st Club Network Summit』に参加した5クラブ間のレンタル移籍を通じて選手を育成し、ネットワーク外のクラブに移籍する時は移籍金をシェアするとか、逆にネットワーク内の移籍においては移籍金を抑えるとか、そうした共同戦略を構築する可能性はあるのでしょうか?

 「具体的に議論している訳ではないですが、今後は十分に可能性がある話だと思います。ただ、移籍はクラブ間だけで完結できるものではなく、最終的には(選手の)代理人との交渉もあります。クラブとして代理人からの推薦を受けるだけではなく、自分たちのネットワークで選手を見つける術も増やしていく上でもアヤックスとの提携は有効に活用できると考えています」

――アヤックスを通じて、欧州を主戦場とする代理人との関係を構築できればいいですね。

 「それも可能性としてはあります。我々だけでは掴みきれない欧州の情報はありますし、ガンバとして必要とするタイプの選手を伝えた上で、アヤックスから選手を推薦してもらうこともあるかもしれません」

――欧州クラブのスカウト網や選手に関するデータベースはJクラブと比較すると、かなり大きなものだと聞きます。

 「アヤックスに所属するスカウトは数名なのですが、ボランティアのような形で提携しているスカウトが欧州中に数百人いるという話を聞きました。彼らは元選手や指導者である方が多く、アヤックスから選手を評価する基準などを伝える講習会も実施されていて、評価の客観性もある程度は担保されているようです。スカウトのプロセスや基準が整備されている印象はありますし、そうした情報をシェアしてもらえるのは提携クラブであるメリットですよね」

――そのスカウト網は日本を含むアジアも対象になっているのですか?

 「いや、そこまではカバーできていないようです。だからこそ、ガンバ大阪と提携している面もあると思います。特に日本は高校、大学を経由してプロサッカー選手になるケースが多く、その独特なシステムは欧州の人にとっては馴染みがなく、理解しにくいようです」

関西大学卒業後、2020年よりガンバ大阪でプレーする黒川圭介

――「選手を評価する基準」の話が出ましたが、アヤックスが重視している要素については何か聞かれましたか?

 「様々な評価項目があるのですが、彼らが重視しているのは『認知』ですね。認知能力を測るソフトもあって、選手が各局面で何の情報を把握して、どのような判断をしたのかを細かくチェックしている。日本ではまだ『センス』という言葉で片づけられるようなプレーも、彼らは定量的に選手の能力を把握しています。その数値によってサイドがいいのか、真ん中がいいのか、適性ポジションを決めることもあるし、興味深い話は多いですよ」

FIFAクラブワールドカップで対戦を

――『1st Club Network Summit』終了後の所感として、松田さんは「お互いのフットボールフィロソフィーにおける共通性を改めて確認することができました」とコメントを残しています。育成の話に進む前提として、この発言に至った理由を聞かせて下さい。

 「攻守に主導権を持つ……彼らは主導権を持つことを『(対戦相手ではなく)こちらが決めること』と定義していましたが、この考え方はガンバも大切にしているので、共通性があるとコメントしました。例えば、攻撃局面における主導権を持つこととは、正しいポジショニングでボールを保持することが重要になります。そして、それを体現するためには選手個々がボールを扱う技術の高さが必要で、それもガンバが伝統的に大事にしていることですよね」

――さきほどアヤックスがガンバを提携相手とした理由をお聞きしましたが、逆にガンバがアヤックスを選んだ理由として、この共通性は重視しましたか?

 「ガンバ大阪として欧州クラブとの提携を検討する中で、様々なクラブを調査して、複数のクラブを実際に訪問する中で、アヤックスは選手育成の面で共感することが多かったこともありますし、さきほどお話したスカウティング面でアドバンテージがある点も提携を決定した理由の1つです」

――共通性を感じる部分があるからこそ提携している一方で、育成面で学ぶべき違いはありますか?

 「ボールを扱う技術としては差がない……というより、日本人選手の方が巧いと感じることの方が多いかもしれないですね。違いがあるとすれば、その技術を試合の流れや、戦術に応じて使い分ける柔軟性の部分。日本代表が世界で勝てるようになってきたのは、選手たちが欧州の環境で経験を積んだのが大きいと思います。“使える”技術になったといいますか。ディシプリン(規律)の部分もそう。勝つために絶対に外してはいけないサッカーの本質的な要素は多々あって、そのノウハウの蓄積は欧州で実際に試合経験を積まないと身に付かない部分はあると思います」

――そうした違いを学ぶためにも、ガンバ大阪のアカデミー年代の選手がアヤックスに短期留学したり、チームとして欧州に遠征したりということを計画されているのですね。

 「具体的なスケジュールはこれからの検討ですが、選手だけではなく、指導者も含めた交流は積極的に行っていきたいと考えています。アヤックスの国際部で部長を務めるコルネさんと話したのは、近い将来に『1st Club Network Summit』に参加した提携4クラブのU-17選抜チームとアヤックスU-17チームと試合や、異文化交流のイベントを開催できたら選手にとって良い経験になるよねと。あとは、アヤックスが育成年代を対象とした『Future Cup』を定期開催しているので、そこでガンバユースの力を示すことも直近で実現したいことの1つですね」

昨年開催された第47回 日本クラブユースサッカー選手権(U-18)で優勝したガンバ大阪ユース

――最後に『フットボール戦略パートナーシップ』に関する今後の展望を聞かせて下さい。今夏は欧州クラブが数多く来日しますが、アヤックスとガンバ大阪の親善試合を楽しみにしているファン・サポーターは多いと思います。

 「親善試合は具体的に話が進んでいる訳ではないですが、現実味があるアイデアだと思います。あと、夢みたいな話に聞こえるかもしれませんが、ガンバはアジア王者、アヤックスは欧州王者、アトレチコ・パラナエンセは南米王者、CF パチューカは北中米王者として、ネットワーククラブがFIFAクラブワールドカップで対戦する未来を実現させたいですね」

※インタビュー後編は今シーズンからガンバ大阪に設立された「フットボール本部」の活動や、トップチームの「シーズン前半戦レビュー」をテーマとした内容になります。

後編はこちら

Photos:(C)GAMBA OSAKA , Getty Images

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Profile

玉利 剛一

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime

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