2人のウインガーが牽引し、18チーム中9位と4季ぶりにリーグ1トップハーフ入りを果たしたスタッド・ランスがこの夏、日本にやってくる(11日間で4試合!)。“大エース”“旗振り隊長”として君臨した伊東純也(31歳)と、6月6日の2026年W杯アジア2次予選ミャンマー戦(○0-5)でも2ゴールで成長した姿を披露し、今晩のシリア戦に臨む中村敬斗(23歳)。それぞれ試練に直面しながらも、ともに力強くシーズンを終えた両者の奮闘を、現地フランスで取材を続けてきた小川由紀子さんが振り返る。
「本当に偉大な選手」(中村)の、3得点7アシスト以上の貢献
伊東純也と中村敬斗が所属するリーグ1のスタッド・ランスは、2023-24シーズンを9位で終えた(13勝8分13敗・42得点47失点)。シーズンの大半は、欧州カップ戦出場が狙える7位前後につけていたのだが、4月中旬の第29節から、順位では彼らより下にいた相手に3連敗してトップ10圏外に転落してしまった。
すると、あと3試合を残したこのタイミングで、指揮官ウィル・スティルが突然の辞任発表。2022-23シーズンに19試合無敗というクラブ記録を達成した31歳の熱血監督は、故郷(イングランド)が恋しくなった、というのを主な理由に退団を希望。契約はシーズン終了時までだったが、双方合意の下、残り3試合は指揮を執らないことになったのだった(6月10日にRCランスの監督に就任)。
こうしてランスはアシスタントコーチ、サンバ・ディアワラの指揮下でプレーすることになったのだが、ブレスト(△1-1/A)、マルセイユ(○1-0/H)、レンヌ(○2-1/H)と、いずれも強敵を相手に2勝1分の無敗という大健闘で、順位表前半の9位でフィニッシュ。
欧州カップ戦出場権はほぼ無理、降格もない、という無風状態になった終盤戦はモチベーションの維持が難しく、昨年はここでズルズルと連敗して11位で終わっていたから今季もどうなるかと思ったが、ラスト3試合の戦いぶりは来季に繋がるポジティブなものだった。
そんなランスにおいて、2年目を迎えてますますチームの“大エース”となった伊東は、前年度以上に主柱として大活躍だった。最終的な記録を見て、「3得点7アシスト」という数字に拍子抜けするほど、彼はおそらく今季ランスが挙げた42得点の8割くらいには絡んでいたのではないかと思う。
1-1の膠着状態から、伊東が79分に決勝ゴールを決めて勝ち点3をもたらした3月のメス戦(○2-1/H)後、中村は「本当に偉大な選手だなと感じます」と伊東について絶賛したあと、こう付け加えた。
「これだけプレッシャーがある中で戦えて、今日みたいな大事な試合で結果を出す。それに僕は、(伊東が)結果以外の部分でもこのチームに絶大な影響を与えていると思っている。ドリブルとか、チャンスの演出数とかも圧倒的だし……」
「チャンスの演出数」というのはまさに言い得て妙で、“起点の起点”というスタッツがあるなら、伊東は間違いなくリーグトップクラスだ。彼がボールを持つと、常に「何かが起こる」という期待感、そして相手にとっては危機感が湧き上がる。
最終節の4日前に行われたマルセイユ戦(マルセイユのEL出場のため延期になっていた)でのアシストがカウントされていれば、ウスマン・デンベレ(パリ・サンジェルマン)らと並んでリーグトップの8アシストとなっていたところだが、このゴールは伊東のクロスを押し込みに行ったマーシャル・ムネツィと競り合った相手DFのオウンゴールと判定されたため、伊東の記録にはならなかった。
加えて言うなら、伊東の7アシストはPSGのキリアン・ムバッペ(6月3日にレアル・マドリー移籍が決定)、ブラッドリー・バルコラと同数だが、ラストパスをゴールに繋げる攻撃陣の質の違いを考えた場合、「これを決めなくてどうする!」と見ている者が悶絶するような惜しいシーンが日常茶飯事であるランスの伊東が、リーグNo.1の得点力を誇るPSGの2人と肩を並べているのがいかにすごいことかがわかる。伊東がPSG攻撃陣の中で同じだけクロスを上げていたら、アシスト数は軽く2桁台に乗っているだろう。
ルイス・エンリケとムバッペも感銘を受けた全身全霊プレー
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Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。