開幕まであと1週間に迫ったEURO2024で、番狂わせを狙うチームがある。
6月14日の開幕戦で開催国ドイツに挑むスコットランドは、4度目の出場にして初のグループステージ突破を目指す。ハンガリーやスイスも同居するグループAに入ったスコットランドは、今大会の予選でスペインを下す金星を挙げるなどして2大会連続の出場権を得た。前回の2021年大会は1勝もできずにグループ最下位で敗退したが、今度こそ悲願のグループ突破を誓う。
主力が不在、大会前にもケガ人続出
2022年のFIFAワールドカップ出場を逃したスコットランドにとって3年ぶりの大舞台となるが、今のところ準備はうまくいっていない。むしろ、考えうる最悪の状況とも言える。右SB/WBの主力であるアーロン・ヒッキー(ブレントフォード)とネイサン・パターソン(エバートン)がともにシーズン中のケガで不在。ボローニャのMFルイス・ファーガソンやルートンのFWジェイコブ・ブラウンも戦列を離れている。
そして、事前合宿に入っても不運が続き、5月31日にはFWリンドン・ダイクス(28歳)が練習中のアクシデントで負傷して担架で運ばれる事態に。イングランド2部のQPRに所属するストライカーは、3年前のEUROで全試合に先発出場したほか、今大会の予選でも全8試合で起用されており、攻撃の主軸の1人と見られていたが、本大会を欠場する。
そこで注目されるようになったのが18歳のFWベン・ドークだ。セルティックの下部組織出身で現在リバプールに所属するウィンガーは、今季のプレミアリーグ開幕戦で途中起用されるなどリバプールのユルゲン・クロップ前監督も期待を寄せていた。昨年12月に半月板を損傷して以降は離脱していたが、EUROに向けた代表候補メンバー28名に選ばれており、スコットランド国内ではワンダーキッドの待望の代表デビューに注目が集まっていた。
スティーブ・クラーク代表監督も「ベン(ドーク)は4カ月半も離脱していたので、あまり彼にプレッシャーをかけるべきではない。彼は経験を積むためにメンバーに選ばれているんだ」と、高まる国民の期待を必死で抑えようとしていた。こうして国民の希望に担ぎ上げられたドークだったが、残念ながら彼までケガでEUROを欠場することになったのだ。
前線は負傷者続出も、中盤の陣容は充実
ドタバタ続きのスコットランドは、6月3日に行われたジブラルタルとの親善試合に2-0で勝ったとはいえ、格下を相手に低調な内容だった。クラーク監督も精彩を欠いたことを認めつつ、その理由について「最大の大会が目の前に迫っており、既に気持ちがドイツに行っていたのだろう」と説明した。そしてFWダイクスの離脱が及ぼした影響についても明かした。「練習中のリンドン(ダイクス)のケガで選手たちは少し動揺していたのだと思う。選手たちも人間だからね」
立て続けに2名のアタッカーを失ったスコットランドは、代表経験のない21歳のFWトミー・コンウェイを追加招集。イングランド2部のブリストル・シティに所属するストライカーは、ダイクスの代わりではなくバックアップメンバーになる。本大会で攻撃を牽引するのは、スコティッシュ・プレミアシップでセルティックの日本代表FW古橋亨梧を抑えて得点王に輝いたハーツのFWローレンス・シャンクランド(28歳)と、サウサンプトンのFWシェイ・アダムズ(27歳)だ。
アダムズは今季イングランド2部で15ゴールを叩き出してサウサンプトンのプレミア昇格に貢献したCF。「このメンバーならグループ突破は可能だ。国民の誇りになりたい」と意気込むアダムズは前回のEUROも経験しており、彼が1トップとして起用されるだろう。
確かに前線はケガ人が出てしまった。しかし中盤は、予選でチーム最多の7ゴールを叩き出したマンチェスター・ユナイテッドのMFスコット・マクトミネイ(27歳)のほか、アストンビラの主将MFジョン・マッギン(29歳)やセルティックの主将MFカラム・マグレガー(30歳)など粒ぞろい。4度目の出場で初のグループステージ突破を目指す “手負いのタータン・アーミー”が、今大会の台風目になるかもしれない。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。