先日、元イングランド代表FWウェイン・ルーニー(38歳)がイングランド2部のプリマス・アーガイルの監督に就任したのだが、納得できない人たちがいる。それが今季3部への降格の憂き目にあったバーミンガム・シティのファンだ。
ルーニー就任が“悪夢”の始まりに
プレミアリーグ在籍経験もあるバーミンガムは、2011年にリーグカップ決勝でアーセナルを下してヨーロッパリーグにも出場したが、近年は2部リーグで下位に低迷していた。そして今季、2部で22位(24チーム中)に終わり、実に29年ぶりに3部リーグに降格することになった。チームの衰退の理由はいくつもあるが、今季の降格に関してはルーニーに責任の一端がある。
昨夏、バーミンガムは転機を迎えたはずだった。アメリカの投資アドバイザーの子会社がクラブを買収し、元マンチェスター・シティのCEOを連れてきて「ワールドクラスを目指す」と新たなスタートを切った。この米企業と協力関係にあるアメリカンフットボール界の英雄であるトム・ブレイディ(46歳)もバーミンガムに投資し、クラブ顧問の代表に就任するなど話題を集めていた。チームも好スタートを切って順風満帆に見えたのだが、昨年10月に6位という好位置に着けながらも「首脳陣との不和」を理由にジョン・ユースタス前監督を解任した。そして後任監督に抜擢されたのが、アメリカのDCユナイテッドの監督を退任したばかりのルーニーだった。
当然、この監督交代は物議をかもした。バーミンガムのOBで人気解説者のクリス・サットン氏などは「選手時代のルーニーのことは完全にリスペクトしている。だが、この監督交代は悪臭を放っている。話題やネームバリューを考えた人事で、大きなギャンブルだ。ルーニーがチームを昇格に導く最善の人材とは思えない」と自身のコラムで痛烈に批判した。
結局、ルーニーはわずか3カ月で解任されることに。15試合でわずか「2勝」しかできず、6位にいたチームは気づけば20位まで順位を落としていた。その後、バーミンガムは実績ある監督を何名か連れてくるも、最終的に22位で降格したのである。一方、ルーニーはというと、解任された2カ月後には解説者としてTVに出演。そして今オフにはフランク・ランパード、ジョー・ハート、セスク・ファブレガス等とともに『BBC』でEURO 2024の解説を務めることが発表された。さらに5月25日には、バーミンガムを1ポイント差で抑えて何とか2部リーグに残留したプリマスの新監督に就任したのである。
クラブ側はルーニーに期待を寄せるが…
「確かに自分は選手としてキャリアを築いたが、そこから前に進まなくてはいけない」とルーニー監督はプリマスのクラブ公式HPのインタビューで語った。「私は指導者として成長するため尽力してきた。これまで率いたクラブは、どこも課題を抱えていたんだ」と、なかなか監督として結果を出せていない理由についても言及した。
プリマスのCEOも「ウェインは豊富な経験をクラブにもたらす。彼は、クラブを前進させるための手段とフットボール観といった部分で我われと一致している」と新監督に期待を寄せたが、首をかしげる者も少なくない。
バーミンガムの地元紙によると「かわいそうなプリマスのファン」「最悪の人事」「プリマスの幸運を祈る。間違いなく必要になるからね」と、SNSにはプリマスを同情するバーミンガムファンの声が飛び交っているという。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。