かつては「名伯楽」ギー・ルーが44年間チームを率いてリーグ優勝1回、カップ優勝1回、UEFAチャンピオンズリーグベスト8を経験しているフランス・ブルゴーニュの名門オセール。エリック・カントナ、バジール・ボリ、フィリップ・メクセス、ジブリル・シセらを輩出した育成の名門として、名を馳せていた。
ルーは2005年に勇退し、その後も2010-11シーズンにCLに出場するものの、2011-12シーズンについにリーグ2降格。その後、深刻な財政難によりクラブ存続の危機に陥り、財政的なステータスを失ったオセールは10シーズンも2部に彷徨った。2022-23シーズンに10年ぶりにリーグ1を戦い、17位となって1年で再びリーグ2に戻った。かつては32年間リーグ1の座を守ってきた名門も、現在ではリーグ2が板についてしまっている。
降格も主力の大半は残留
久々に昇格した2022-23シーズンは序盤から低迷し、当時の指揮官ジャン・マルク・フルラン(現カーン)は解任。2022年10月からクリストフ・ペルシエがチームを率いた。かつては堅実的な戦い方を得意とする指導者で、残留最優先で5バックをベースとした守備重視の戦術を取っていた。前半戦わずか3勝と大苦戦を強いられたチームは復調し、一時は降格圏から脱出したものの、最終節に残留を争うナントに逆転され、惜しくも降格した。
降格はしたもののオセールはペリシエと契約延長。かつてはアマチュアクラブのリュゼナックを3段階昇格させて、その後もアミアン、ロリアンを昇格させた「昇格請負人」として期待をかけた。更に臨時FW強化コーチとして、ジブリル・シセが就任した。
主力選手はキャプテンでマリ代表のMFビラマ・トゥレ、元セネガル代表FWママドゥ・ニアンは契約満了し、ルーマニア代表GKアンドレイ・ラドゥ、フランスU-21代表DFイサーク・トゥレらのローン移籍組の放出は余儀なくされた。しかし、攻撃の中心選手であるMFガエタン・ペラン、MFゴーティエ・アン、ブラジル人DFジュバルをはじめに、マリ代表右WGラシヌ・シナヨコ、ガーナ代表MFエリシャ・オウス、DFギデオン・メンサー、マダガスカル代表MFライアン・ラベロソンなど、多くの主力の残留に成功し、1年での復帰に万全な体制で挑んだ。
昇格のラストピースになったオナイウ
主力の放出は最小限に抑えたオセールだったが、降格の原因となっていたチームの最多得点が5点という貧弱な攻撃陣には大きな課題を抱えていた。2023年夏にはCFを全員放出。新加入としてブレシアから下部組織出身のFWフロリアン・アイエが復帰したが、前線の迫力不足は懸念材料になっていた。
8月28日、オセールはトゥールーズから、元日本代表FWオナイウ阿道を70万ユーロ(約1億2000万円)で獲得した。2023-24シーズンの開幕3試合はベンチ外になり、トゥールーズで構想外になっていたオナイウは、クラブ史上初の日本人選手としてオセールで再起を図ることになった。
シーズン途中に加入したオナイウ。[4-2-3-1]を採用しているオセールは、開幕当初からアイエが1トップに定着し、トップ下のアンがゴールを量産しており、序盤から上位争いを演じていたため、加入当初は途中出場での起用が多かった。
転機が訪れたのは第14節のサンテティエンヌ戦。2連敗中のオセールは、3試合ぶりにオナイウが左WGで先発出場すると、ハットトリックの活躍で5-2で勝利。昇格候補のライバルであるサンテティエンヌ相手の大活躍で信頼を得たオナイウは、左WGのレギュラーに定着し、左サイドから中央に侵入する動きからゴールを量産した。
守備的な戦術を徹底していた昨季と一転、アイエ、アン、オナイウの3人がゴールを量産する攻撃的なフットボールを展開した。中盤戦まではアンジェとのデッドヒートが続いたが、第25節に首位に立つと、そのまま最終節まで首位を明け渡すことなく、リーグ2優勝を果たし、1年での復帰を果たした。戦術変更により爆発的な得点力を手に入れ、リーグ最多の72得点を奪ったオセールを率いたペリシエは、リーグ2最優秀監督に選出された。
オナイウは、最終節のコンカルノー戦でもハットトリックを達成し、リーグ2位の15得点と海外移籍後ではキャリアハイの記録を残した。優勝に貢献したオナイウは、2シーズンぶりのリーグ1での飛躍が期待される。
Photo: Getty Images
Profile
シェフケンゴ
ベルギーサッカーとフランス・リーグ1を20年近く追い続けているライター。贔屓はKAAヘントとAJオセール。名前の由来はシェフチェンコでウクライナも好き。サッカー以外ではカレーを中心に飲食関連のライティングも行っている。富山県在住。