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大分でぶつかった壁、北九州でつかんだ手応えを経て理論化へ。田坂和昭監督が「トップボトムアップ」を提唱する理由(後編)

2024.05.17

「トップダウン」と「ボトムアップ」――。対照的な組織の意思決定方法はビジネス界でたびたび議論の的となっているが、サッカー界でも時代の潮流に伴い、従来の監督の指示に選手が従う上意下達から、選手の判断を監督が促す下意上達の指導法に注目が集まりつつある。そこで大分トリニータやギラヴァンツ北九州を率い、Jクラブの現場で「ボトムアップ理論」の導入を試みた田坂和昭監督に直撃。理論と実践の狭間で試行錯誤を重ねながらも見出した「トップダウン」と「ボトムアップ」の黄金比について、大いに語ってくれた貴重なインタビューを前後編に分けてお届けする。

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合言葉は「選手が主役」。森保監督からスキッベ監督まで、名将の共通点

——田坂さんが初めて大分トリニータで監督に就任したときから、同じことを言ってましたよね。

 「当時も言ってたけど、あの頃は僕はまだ完全にトップダウン方式でやっていたからね。で、それでJ1昇格という結果が出てしまった。だからそのやり方のままで他のチームでもやっていたけど、年代が進むにつれて次第に、やっぱり上手く行かないなと感じて。それでメンタル面からのアプローチを含め、いろんなことを勉強した中で、このボトムアップ理論も学んだんです。

 そうやって北九州で本格的にボトムアップ方式のチーム作りにチャレンジしたんだけど、トップダウンの要素が少し足りなかったという反省があります。戦術的なところも最初はトップダウンで指示しないと、いきなり選手に委ねるのは難しいです。畑さんも何度も試合を見にきてくれて、ボトムアップ方式でやっているのをすごく楽しみにしてくれていたんですけどね」

——そもそも北九州でそれをやったのは、Jリーグのチームにもそれが必要だと考えたからですよね。

 「絶対必要でしょう。サンフレッチェ広島とか代表監督の森保(一)さんとかは、巧みにボトムアップでやっていますよね。森保さんの場合は、もともとそういう気質があるんですよ。畑さんと一緒に本も出してるんだけど。森保さんは畑さんのボトムアップ理論を学んだわけではなく、もともと選手に考えさせるというやり方だったんです。

 海外では完全トップダウンでやっているチームはもうほとんどないと思います。ペップ(・グアルディオラ)だって、トップダウンの要素ももちろんなくしてはいないけど、選手に考えさせている。(ユルゲン・)クロップだってそうです。ドイツはすごく選手に考えさせてサッカーをしている。ある程度の決まりごとはトップダウンで作った中でね。森保さんも多分、それをやっているはずです。

 サンフレッチェの(ミヒャエル・)スキッベ監督もそうでしょう。天皇杯決勝でヴァンフォーレ甲府にPK戦で負けたとき、蹴る順番を選手に決めさせたと言っていましたよね。完全ボトムアップで。それで結局、負けちゃったんだけど。

 要は、結果を先に求めてしまうと、すでにそれはボトムアップではないんですよね。勝つか負けるかの結果なんて、前もっては誰もわからないじゃないですか。それまでの過程を、どうやってみんなが主体的に考えて作っていくかということのほうが、重要なんです。森保さんも言っていたように、監督というものは目立たないほうがこれからはいいと。そういう存在のほうが多分、組織が強くなる。もちろん、アドバイスや提案はしていい。けど、選手が主役じゃなかったら、これからのチームは強くならないと思います」

育成から出発するのは「日本の体質そのものを変えていく」ため

——それをもう少しピッチ内寄りの話にしていくと、ここ1、2年はハイプレスが流行っていて。ハイプレスが流行るともうみんなビルドアップを諦めてハイプレスからのショートカウンター狙いばかりになって、トランジションだらけのえらいことになるんですね(笑)。そうなるとベンチから指示を出していると間に合わないので、選手たちがベンチの意向を伺わず自分たちで判断してプレーできるようにしたい。普段からボトムアップ方式で考えている選手たちのほうがそこに順応していけるのではないかと考えました。

 「そうだよね。ピッチの中で対策を練って戦い方を変えることが出来るというのも、ボトムアップの良さだから。そういうトレーニングをしていかなくてはならないということですよね。直近の話で言えば、堀越高校が選手権大会で負けたときだったかな、選手が自分たちの判断でシステムを変えた。練習では複数のシステムの準備をして、勝っているとき、負けているときというシミュレーションも、監督のアドバイスを受けながら選手主体でしていて、試合中の変更も、選手が自分たちで判断したんだと思います。変更のタイミングもすべてシミュレーションしていた。そういうところをみんなで考えて、全員が主体的にやっている、というのがあのチームの良さですよね」

——いまの育成年代の選手がトップカテゴリーに上がる頃にはもっと浸透しているでしょうね。でも、いまトップチームでプレーしている選手たちの多くはトップダウン方式で育ってきたわけでしょう。

 「そう。Jクラブのアカデミーでも、目先の結果を出すためにトップダウン方式でやっているところが多いです。しっかりボトムアップ方式でやっているところは、まだ少ないんじゃないかな」

——そうやって育ってしまうと、監督の言うことを聞いてプレーすることは出来るけど、自分で考えるという習慣が出来ていないじゃないですか。

 「日本の体質そのものを変えていかないといけないところですよね。大きなところを変えなくてはならないから、難しいわけです。だからサッカーの育成の現場で、自ら考えて動ける組織作りからやっていかないとね」

北九州でのボトムアップ実践編。「キャンプ中から掃除もして…」

——自分で考える習慣のない選手たちに、北九州ではまずどういうアプローチから入ったんですか。

 「ボトムアップ方式のやり方について説明しました。堀越高校や世界の一流クラブのロッカールームの画像なんかも見せて。そしたら北九州の選手たちもみんなやりましたよ。ロッカールームできれいにスパイクを並べて。(夛田)凌輔がキャプテンだったから、凌輔の下、みんなでキャンプ中から掃除もして、心を整えながらやろうって」

——夛田選手はそういうの、好きそうですもんね。……

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ギラヴァンツ北九州大分トリニータ田坂和昭

Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg

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