今、欧州フットボール界では無敗記録に注目が集まっている。
今季ここまで負け知らず。何度か敗戦の危機に瀕するも、その度に土壇場の同点ゴールで引き分けに持ち込む勝負強さを発揮する。そして悲願のリーグ優勝を達成。現役時代にイングランドでもプレー経験のある指揮官は拍手喝采を浴び続けている。果たして、来季は“スコットランド2部リーグ”でどんな戦いを見せてくれるのだろうか?
何度も危機を乗り越え快挙達成
もちろん、欧州フットボール界で話題の「無敗記録」を打ち立てているのはドイツのレバークーゼンだ。59年前のベンフィカの無敗記録を抜き去り、週末のボーフム戦にも勝利して前人未到の公式戦「50試合無敗」を達成した。何度か敗戦の危機に立たされながら、終了間際に追いついて無敗をキープしてきた。そしてチームを率いるシャビ・アロンソ監督も「世界的な名将」の仲間入りを果たした。
だが、今季の欧州フットボール界には無敗で注目を集めるクラブが他にもある。それがスコットランド3部リーグで快進撃を見せたフォルカークだ。レバークーゼンよりも古い148年の歴史を誇るクラブは、これまで何度か国内トップリーグに所属してきたが、2010年にスコティッシュ・プレミアリーグから降格して以降、下部リーグで過ごしている。ここ5シーズンは3部リーグでの生活が続いていたが、今季ようやく2部への復帰を勝ち取った。それも、単に昇格を決めたわけではない。彼らは無敗でリーグ優勝を果たしたのである。
レバークーゼン同様、フォルカークだって何度も敗戦の危機を乗り越えてきた。昨年8月のコーブ・レンジャーズ戦では、第2節でいきなり敗色濃厚となったが、後半追加タイム6分に同点ゴールを奪って2-2の引き分けに持ち込んだ。貴重な同点弾を決めたFWジョーダン・アランは「勝てなかったのは残念だが、シーズン終盤にこの1ポイントが貴重になるかもしれない」と試合後に語っていた。彼は昇格争いにおける1ポイントの重要性を口にしたのだが、まさかそれが「無敗優勝」へと誘う1ポイントになるとは、誰も想像もしなかったはずだ。
5月4日に行われたリーグ戦の最終節も危うかった。既にリーグ優勝と昇格を決めていたフォルカークは、無敗優勝をかけてアロア・アスレティックをホームに迎えた。試合は2点をリードされる苦しい展開に。それでも前半終了間際に1点を返すと、初黒星が頭をよぎった85分にMFブラッド・スペンサーが同点となるPKを決めたのだ。「インビンシブルを達成する同点ゴールは夢気分だ。決まった瞬間、少し感極まったよ」と立役者が振り返ったように、今季フォルカークはカップ戦でこそ敗戦を喫したが、リーグ戦では無敗優勝を達成。5年ぶりに2部リーグ復帰を決めたのである。
指揮官は年間最優秀監督にも選出
「本当に誇らしい」と試合後に語ったのはチームを率いるジョン・マクグリン監督だ。スコットランド出身の62歳は、レバークーゼンのシャビ・アロンソ同様に現役時代にはイングランドでもプレーした。しかしリバプールでUEFAチャンピオンズリーグ優勝に貢献したスペイン人とは対照的に、マクグリンは鳴かず飛ばずのキャリアを送る。ボルトンの下部組織ではトップチームに昇格できず、スコットランドの下部リーグで数年ほどプレーした後は指導者の道を目指した。
そしてキャリアを積み重ね、ハーツを率いていた2012年にリバプールと激闘を繰り広げる。ヨーロッパリーグの予選プレーオフでブレンダン・ロジャーズ監督のリバプールを追い込むも、第2戦の88分にFWルイス・スアレスに決勝ゴールを奪われて涙を呑んだのである。それから4年後、2人はセルティックで手を組むことに。ロジャーズが指揮官を務め、マクグリンは相手チームを分析するスタッフとして2016-17シーズンに無敗でのリーグ優勝を含む国内3冠に貢献するのだった。
あれから7年、マクグリンは3部リーグとはいえ自分でも無敗優勝を達成するのだった。「キャリア最高の功績になった。ブレンダン(ロジャーズ監督)もリーグ優勝が決まった時に連絡をくれたんだ」とマクグリン監督は今季を振り返った。「無敗優勝は一生忘れられないことだろうね。30年後、私が土に埋められた後、選手たちは集まって同窓会を開くはずさ。そして、そういったイベントを利用してクラブは金儲けできるだろうね!」
今季マクグリンが達成したのは「無敗優勝」だけではない。スコットランドで監督を務める指揮官たちの投票によって決まる「PFAスコットランド年間最優秀監督」にも選ばれたのである。FW古橋亨梧、FW前田大然、MF旗手怜央といった日本代表を率いてトップリーグ優勝目前のセルティックのロジャーズ監督や彼らの宿敵レンジャーズのフィリップ・クレマン監督ではなく、3部クラブの指揮官が選出される異例の事態となったのである。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。