選手から企画提案!?スタグルの売上が1.5倍!?――MBS番組プロデューサー&クラブ広報が語る『ガンバTV』リニューアルの裏側
野々村芳和チェアマンがJリーグの成長戦略について言及する際、事あるごとに強調するテーマが「メディア露出」である。新規ファン獲得のきっかけとして、地上波TV露出へのリソースを強化することを明言している。
クラブも足並みを揃える。大阪の地上波放送局である毎日放送(以下、MBS)で放送中のガンバ大阪公認応援番組『ガンバTV 青と黒』が今年2月より放送頻度を昨シーズンまでの月1回から週1回に拡大。MCにはNMB48でキャプテンを務める小嶋花梨と、吉本興業に所属するお笑いコンビのドーナツ・ピーナツが新たに就任し、番組内容も新規ファンの開拓色の強いものにリニューアルされた。
こうした変更にはどのような理由があるのか。MBSでガンバTVのプロデューサー兼演出を務める榑松(くれまつ)佑真氏と、ガンバ大阪広報部に所属する蔵本宗太朗氏に話を聞いた。
番組をこえてガンバを応援している
――最初に自己紹介も兼ねて、ガンバTVの制作における2人の役割を教えてください。
榑松「昨年からガンバTVのプロデューサー兼演出という役割で番組に携わっています。プロデューサーとしての仕事内容は予算管理、タレント事務所やガンバさんとの番組企画の相談やスケジュール調整などです。演出(としての仕事内容)は作家さんやディレクターさんをはじめ、スタッフの皆さんと企画内容を検討して決定するようなことを行っています」
蔵本「私は2020年からガンバ大阪の広報として、チームに帯同してYouTubeやSNSの撮影、メディア取材対応を担当しています。ガンバTVに関してはクラブ側の窓口として、MBSさんと企画や選手のスケジュール調整、撮影当日のアテンドといった部分です」
――ガンバ大阪とMBSは2009年のガンバTV放送開始以降、『情熱大陸』をはじめとするMBS制作番組への選手出演や、クラブオフィシャルDVDの制作など、様々な形で密な関係が続いています。
榑松「ガンバさんとの関係が始まったキッカケは、双方の上層部の食事会で『関西のサッカーを盛り上げましょう!』と意気投合したことだと聞いています。ガンバTVが開始されて以降は映像素材も溜まっていく中で、他部署の管轄ではあるのですが『情熱大陸』の制作チームに(ガンバTVチームから)『こんな魅力を持つサッカー選手がいるんだけど』と提案して、遠藤保仁さんや宇佐美貴史選手に密着した回が放送されたこともありました」
蔵本「先日放送された『遠藤保仁引退特番』もMBSさん制作で、歴代のガンバTVプロデューサーをはじめとするスタッフの方々が選手と信頼関係を築いていただいたことが現在に至る長い関係に繋がっていると思うので、本当にクラブとしてもありがたいです」
――そんな両社の関係を深める中心番組である『ガンバTV』が今シーズンよりリニューアルされました。
榑松「リニューアルの理由は(放送開始以降MCを務めてきた)たむけん(たむらけんじ)さんのLA移住に伴う番組卒業ですが、番組にとって良い契機だと捉えることにしました。長寿番組なのでマンネリ化していた部分もあったと思いますし、これを機にもちろんこれまでのファンも大切にしつつ、『新規ファンの獲得』も新たなコンセプトとして設定した上で、新MCや番組内容をガンバさんと相談して決定したという経緯です」
――『新規ファンの獲得』というコンセプトは、クラブとしてもリクエストしたという理解で正しいですか?
蔵本「はい。クラブとしてはコロナ禍で離れていったファン・サポーターを呼び戻す施策を重視する一方で、長期的な目線では新しいファンの開拓……特に若年層へのアプローチを強化したい考えがあったので、リニューアル方針についての考えは合致しました」
――そうした経緯を経て、新MCに就任したのがNMB48の小嶋花梨さんと、お笑いコンビのドーナツ・ピーナツさんです。
榑松「両者に共通しているのはアイドルとお笑い、それぞれの業界で『頂点を目指している』ということ。そこは選手と意識が近いというか、同じ目線を持っているのではないかと捉えています。さらに小嶋さんは24歳、ドーナツ・ピーナツさんは31歳なので選手と年齢が近く、質問の切り口1つ取っても、(ターゲットである)若年層の共感を得られる可能性も高いと考えています」
――パナソニックスタジアムで開催された小嶋花梨さんのトークショーの様子やSNSでの反応を見ていると、彼女を応援されている方々に“ガンバサポーター化”のポテンシャルもあると感じます。
榑松「アイドルを推すファンの方々は自分以上に誰かを応援したい気持ちが強い。サッカークラブを応援することとの親和性は高いと思います。小嶋さんを通じて『自分もガンバ大阪も推したい』となる可能性は秘めていると思います」
蔵本「新規ファンを開拓する難しさは理解しているので、小嶋さんを通じてスタジアムに足を運んでいただけるのはありがたいです。トークショーでも『小嶋さんのファンかな』と思う方々の姿を見て、その影響力を実感することはありますし、SNSでも『パナスタに行きます』という投稿を見ると嬉しいですね」
――ドーナツ・ピーナツさんも今年4月から関西の人気情報番組『せやねん!』の新レギュラーに就任するなど人気が高まっています。
榑松「ドーナツ・ピーナツさんは今後知名度がどんどん上がる可能性がある方々だと信じてガンバTVのMCをオファーしたので、色んな番組で活躍されるのは嬉しいですね。小嶋さんと同様にお二人のファンの方々がガンバTVを観て、ガンバを応援してくれるようになることも今後はあるんじゃないかと期待しています」
――小嶋花梨さんも、ドーナツ・ピーナツさんもMC就任直後から視聴者に受け入れられた印象です。その要因として、ビジネスライクではないガンバ大阪との向き合い方があるのかなと。
蔵本「それはクラブスタッフとしても感じます。印象的だったのは、小嶋さんに半田(陸)選手が先発を外れた試合後にインタビューしていただく機会があって、その時にすごく彼の心情を慮る言動をされていたこと。本当に選手のこと応援してくれているのが伝わりました」
榑松「小嶋さんもドーナツ・ピーナツさんもプライベートでDAZNに加入してガンバの試合を観てくれていますからね。小嶋さんはプライべートで『せやねん!』の収録終わりに梅田にあるルクアイーレのLIMITED STOREでガンバグッズを買いに行かれていましたし、番組をこえてガンバを応援しているのが、サポーターに伝わりつつあるんだと思います」
次のスターをMBSさんと一緒に育てたい
――新MC就任と並んで、放送頻度が月1回から週1回に拡大……正確には以前の放送頻度に戻したことも大きなリニューアルポイントです。
蔵本「コロナ禍の様々な規制がある中では、十分な収録機会が確保できないことから月1回の放送という形を近年はMBSさんにお願いしていたのですが、コロナも明けて、スタジアムの入場制限も撤廃されて、クラブとしても積極的に情報を発信できる環境が整ったことで、今シーズンから週1回放送に戻していただいたという経緯です」
――週1回放送になったり、TVer(ティーバー)で関西圏以外の方も視聴できるようになったり、番組の露出が増えたことの影響を感じることはありますか?
蔵本「ガンバは関西以外の地域に在住されているサポーターが多いクラブなので、TVerの影響は大きいと思います。それはSNSを見ていても関西以外に住んでいるサポーターの方が番組の感想を投稿されている様子を見ても分かりますね」
榑松「TV番組の影響力を測るデータとしては視聴率が一般的だと思いますが、我々がチェックしているデータの1つに視聴占拠率(※視聴全体を100として、各局が占める割合)というものがあります。例えば、この視聴占拠率はたむけんさんMC時代である2020年上期で平均7.5くらいだったのですが、今シーズンは9.3くらいまで伸びていて、現時点ではリニューアル効果があったのかなと好意的に捉えています」
――増加した1.8の視聴者が新規ファンだったらいいですね。実際、スタジアムへの来場者データにおいて新規ファンが増えているデータはあるのでしょうか?
蔵本「この取材前に社内の各部署に聞いてみたのですが、明確に新規ファンが増えたというデータはありませんでした。ただ、先日ガンバTVでスタジアムグルメを紹介する企画を放送したのですが、番組内で紹介した商品の売上が約1.5倍になったという効果はあったようです」
――『スタジアムグルメPR対決』ですね。この企画もそうですが、リニューアル後は選手がリラックスして話している姿が増えた印象があります。
榑松「倉田(秋)選手、黒川(圭介)選手、山田(康太)選手が『ドーナツ・ピーナツポーズをやりますよ』と提案してくれた回を覚えていますか? あれが良い例ですよね。番組側からではなく、選手から企画を提案してくれるのは、良い意味でMC3名の敷居の低さというか、年齢の近さもあってのことだと思います」
蔵本「ガンバTVの収録を見ていると、宇佐美(貴史)選手や三浦(弦太)選手などキャリアのある選手はやっぱり話すが上手いなぁと思うのですが、クラブとしても次のスターをMBSさんと一緒に育てたいという考えはあるので、MCの皆さんにも魅力を引き出してもらえると助かります(笑)」
――名前の挙がった宇佐美選手や三浦選手、福岡将太選手のトーク力の高さはサポーター間でも有名ですが、クラブの広報として今後ガンバTVを通じて魅力を訴求したい選手は他にいますか?
蔵本「えぇぇぇ……選手も記事を読んでいるので言いにくいですね(笑)。ただ、鈴木徳真選手はTVでも、普段の取材でもしっかりと自分の言葉で発言ができる選手だなと思います。あとはアカデミー出身選手にも頑張って欲しいです」
榑松「そうですね。先日『教えて!大阪ダービー』という企画を収録したのですが、そこでも鈴木徳真選手は話が上手いなと思いました。お笑いをよく知ってらっしゃる方というような(笑)。アカデミー出身選手ということでいえば、唐山(翔自)選手は真面目で明るいキャラクターはすごく魅力的だなと思ったので、ピッチ内でもぜひ活躍してもらって露出を増やして欲しいです」
――ガンバTVの露出効果もあって、5月6日(祝)に開催される大阪ダービーはチケットが完売しました。当日は試合前にガンバTVのMC陣が登場するトークショーも開催されます。
榑松「地上波放送への期待として新規ファンの獲得があることは理解していますので、大阪ダービーなど大きなイベントに関しては今後も告知のご協力をさせていただければと思っています。その上で番組としての面白さを意識しつつ、バランスと言いますか、ガンバさんとMBSお互いにとってウィンウィンになるような企画を今後も検討したいですね」
――本日はありがとうございました。最後に今後の番組の展望を教えてください。
榑松「ガンバTVの放送初期に遠藤(保仁)さんが番組のコンセプトとして『お笑い:7 情報:3』という方針を掲げられたんですけど、私はそれが番組制作における心の支えになっていて。私は『せやねん!』や『明石家電視台』などバラエティ番組の分野で働いていた期間もあった人間で、“面白い”はどんなジャンルの番組でもポジティブな影響を与えると信じているんです。お笑い芸人さんやアイドルが一緒に出演しているからこそ、楽しく選手自身の魅力を引き出し、勝っても、たとえ負けても『応援しようや』と思ってもらえるような、魅力あふれるクラブの一助に番組がなればと思っています。ですので、大前提として試合やチーム情報をしっかり取材して視聴者に伝えることはもちろん、“面白いガンバTV”は今後も忘れずに大切にしていきたいです」
蔵本「ガンバTVはファン・サポーターに完全に受け入れられている番組で、内容が面白いから長年続いていると思いますし、先ほどお話したスタジアムグルメの売上への影響なども含めて良い方向にさらに繋がっていけばクラブとしてはありがたいです。小嶋さんもドーナツ・ピーナツさんも今後露出が増えてビッグになられると思うので、我々も負けないようにJリーグの順位を上げて、日本代表の選出を輩出して、MBSさんにとってもガンバに関しての番組を放送することが価値のあるものになればと思っています」
Profile
玉利 剛一
1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime