「今のJリーグは見ていてつまらない」の真意。元J監督・北野誠の地域リーグから見える日本サッカー(後編)
カマタマーレ讃岐を四国リーグ、JFL、そしてJ2まで導き、9シーズン監督を歴任した北野誠は、現在マッチャモーレ京都山城で監督を務めている。元J監督で、地域リーグや女子サッカー、サッカースクールまで横断して見てきた酸いも甘いも知る56歳は、京都府1部リーグ(J7相当)に属するカテゴリーで、今何を感じているのか。ひぐらしひなつが直撃した。
後編では、Jリーグの外側から見た「ファン目線での課題」、そして地域リーグや女子サッカー、サッカースクールでの指導の日々で感じる日本サッカーに足りないものを考えてみたい。
プロとの最大の違いは「オフ・ザ・ボール」
――マッチャモーレの中に、これは成長すればプロに行けるなという選手がいたりは。
「いや、もういないですよ。もしかしたらJFLでは通用するという感じ。スピードだけならJ3でも通用するな、とか。でもね、プロの世界を離れて最近すごく思うのは、サッカーの世界の97%ってオフ・ザ・ボールの時間じゃないですか。その97%のトレーニングが、アマチュアの選手はまったくできてないです。僕がプロで監督をやっている時には、その3%のトレーニングにおいてもほとんど97%のことについてずっと言ってた。いま何をしなきゃいけないのかとか。3対2から5対5でもそうなんですよ。あれはボールを奪われて追いかける、奪って追い越すっていう、ボールのないところのトレーニングなわけで。そこの97%のトレーニングの量が、いままでの彼らはすごく少なかったんだと思う。だからそのレベルなんだぞっていう。高校時代、大学時代までに97%のオフ・ザ・ボールの考えや観察力をしっかり養っておけば、もしかしたらプロになれたのかもなっていう選手はいます」
――そこは指導者との出会い次第ですね。
「そう。そこなんですよ。例えばいまサッカースクールをやっていて、いろんなサッカースクールのSNSなんかも見るけど、明らかに間違った指導法もときどき見かけるんですよね。でもそんなところがめちゃめちゃ利益を出していたりする。人気があってSNSのフォロワーも多く、でも結局、オン・ザ・ボールのトレーニングだけ。サッカーは97%がオフ・ザ・ボールなのに」
――足下の技術もゲームで生きてこそ、なんですけどね。
「うん。よくよく考えると、Jクラブと高体連の育成年代指導では、Jクラブの場合はオンの比重が高いのかなと。もしかしたら高体連の方が、オフ・ザ・ボールの意識が高いのかもしれない」
――なぜでしょう。トーナメントで勝ち上がるという目的意識の高さかな。
「なんだろう……人数が多いからかな。人数が多いとそういうトレーニングにしかならないからとか(笑)」
――高校サッカーで強豪になっているチームは、戦術家の監督が多いイメージなんですけど。
「じゃあ青森山田でやっていた黒田さんが監督をやっている町田がいまなぜ好調かというと。町田のサッカーって、相手を自分のサッカーに引きこめてしまうんです。それはオン・ザ・ボールじゃなくてオフ・ザ・ボールのところなんだろうなと。例えば鹿島と町田の試合で、オフ・ザ・ボールの時の選手の動きや思考を、分析したら面白いだろうなと思います」
――どこに立ってどう誘えば、とか、相手にこちらがやりたがっていることを誤解させたりとか。
「それが自分たちのペースに引きずり込むということなんですよね。引きずり込むって、オン・ザ・ボールの技術によってだけじゃないでしょ。僕がやっていた頃のカマタマーレが『危ないな』と思った時にクソゲームに持ち込んでたのも、そういうとこですよ(笑)。思いきって無駄走りをさせて相手を欺く。そしたら普通に勝てちゃうっていう。町田も、見ていてそうなのかなと。嫌らしいサッカーというか。ああいう町田のようなチームが出てきたから、Jリーグのサッカーが変わってくる可能性が、すごくあると思う。いままでは例えばミシャとかの、ポゼッションして攻撃的に戦うサッカーが、いわゆる正統派と言われてきたけど、そういうサッカーを自分のペースに引きずり込んじゃう町田のようなチームがもっと出てきたら面白いなと思う」
強度が上がったJリーグを外から見て想うこと
――今季はJ2にも変化が見られます。まだシーズン序盤ですが、多くのチームがめちゃくちゃ強度を高めてます。
「こないだ、あるJクラブのスカウト担当と話をしたんだけど。今季から山口の監督になった志垣良さんって、京都のU-18監督もやってたんですよ。でも当時は全然ダメだったらしくて、その後、八戸の監督にもなったけどダメだったと。それがFC大阪ではJ3初年度のチームが最初は低迷していたのをV字回復させて、上位に食い込ませるまで行った。なんでそうなったんだろうねって。で、やっぱり環境と選手で変わるんだろうなと。選手と監督が合うかどうか」
――今季ここまでの山口の試合を見ていると、球際の強度がすごく高くて。それはいま世界的な潮流も踏まえてハイプレスとトランジションが主流になっていることもあるんでしょうけど。それぞれにマンツーマン気味だったりミドルブロックで奪うだったりの違いはあるんですけど、どこも「潰す」という意識が高い印象です。
「わかります。だから、いまJリーグの外側の立場からあえて言うけど、見ていてつまらないんです。昨季の途中くらいから。みんなスピードが上がっているからミスが多い。ハイプレスをかけられてミスをするからプレーがブツブツ切れて面白くないんですよ」
――中盤でずっとガチャガチャやっててシュート数が少ないか、手数かけずに速くゴール前に運ぶけど焦りすぎてフィニッシュ精度が低いか、というのも目立ちますよね。
「これでアクチュアルプレーイングタイムって伸びてるんですか、っていうところ。ミスでプレーが途切れて止まってる時間が多いし。昨季J2を見ていても、ハイプレス同士だからミスが多すぎて、一般のファンから見たら面白くないかもしれないなと思いますね」
――ヨーロッパの方からそういうトレンドが派生してきているので、仕方がないんでしょうね。
「というよりも、戦術云々じゃなくて、もしかしたらクラブが、負けないようなサッカーに移行しちゃって、変にお金の絡みが見えちゃうかなっていうのを感じますね」
――コロナ禍とか、カテゴリーの昇降格がシビアになっている影響でしょうか。
「あると思いますね。それはもう仕方がないと思うので。で、負けないサッカーをしようと思ったら、いまの流れだと前からプレッシャーをかけて、っていうことになるじゃないですか。で、まあまあ球際も厳しいからそこで倒れて、時間がかかっちゃうことが多くないですか。アクチュアルプレーイングタイムを実際にデータで確認したわけではないけど、なんか試合を見てて、お茶飲んだりコーヒー飲んだりするタイミングが多いんだよね。でもアジアカップはそういうのがなかったから観ていて面白かった。ハイプレスをかけても相手チームが上手くてボールが外に出ないから」
――だからいまの流れの中では、プレッシャーを受けても失わずに攻撃の形を作っていけないとダメなんですよね。
「そう思います。……いや、いちファンとしての意見ですよ。もしいま僕がJリーグの関係者だったら、OKを出してると思う。それでいいんだって。勝たなきゃいけない。いいサッカーをするというよりもまず勝つんだ!っていう。でも本当に、いちファンの目線で見てると、つまんないな、と思うの(笑)」
――いまは戦術的要素が出る以前に、デュエルのところがクローズアップされますからね。あとはその中で勝つためにどういう選手を起用してどこで交代するかとか。
「そう。それがいま上手く行ってるように見えるのが柏。こないだ試合を見て、井原監督が上手く采配してるなと思った。交代が上手だったなと。どうやって状況を変えていくのかなと思っていたら、交代で変えていったから、あ、上手、と思って」……
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Profile
ひぐらしひなつ
大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg