元J監督・北野誠の地域リーグから見える日本サッカー(前編)。マッチャモーレ京都山城で感じている“もう1つの日常”
カマタマーレ讃岐を四国リーグ、JFL、そしてJ2まで導き、9シーズン監督を歴任した北野誠は、現在マッチャモーレ京都山城で監督を務めている。元J監督で、地域リーグや女子サッカー、サッカースクールまで横断して見てきた酸いも甘いも知る56歳は、京都府1部リーグ(J7相当)に属するカテゴリーで、今何を感じているのか。ひぐらしひなつが直撃した。
前編では、プロとは大きく異なるアマチュアサッカーという“もう1つの日常”について、元J監督が感じていることを赤裸々に語ってもらった。
「プロサッカー選手は1人もいないです」
――お久しぶりです。マッチャモーレ、リーグ戦は4月スタートですよね。プレシーズンのキャンプとかするんですか?
「するわけないじゃないですか(笑)。こないだ天皇杯の予選を、関西リーグの京都紫光クラブと対戦して、PKで負けました」
――天皇杯、もう始まってるんですね……。
「そうですよ。だから、シーズンオフっていうのがなく、ずっとやってるわけですよ。リーグ戦が11月に終わって、年明け早々に天皇杯の予選が始まってるの。紫光クラブとやる前に、京都リーグのチームとトーナメントで4試合やって勝ち上がったんですよ。最初は京都で上位3チームを決める。それに勝てば、次は関西リーグ。京都には関西リーグのチームが3つあるんですね。京都紫光クラブと、吉武(博文)さんが監督をやっているおこしやす京都ACと、AS.Laranja Kyoto。その1回戦で、PK戦で負けちゃったというわけです」
――地域リーグから見たら天皇杯って本当に長い道のりなんですね……。
「そう。関西リーグに勝ったら、今度は京都の大学の勝ち残った2チームとのトーナメントがあって。それを勝ち抜いて初めて天皇杯本戦に出ることができるんですよ」
――では昨季リーグ戦が終わってから、ほぼオフなしで。
「そうです。ずーっと同じリズムです。これまで指揮したJリーグやWEリーグはシーズンとオフとが交互に来ていたけど、いまは途切れずにずーっと」
――しんどそう……。そうするとシーズンごとのチーム編成というか、移籍ウィンドウの開閉時期とかってあるんですか。
「ないです、ないです。例えば、その大会の2週間前とか3週間前に登録完了するとか、そういう感じですね」
――じゃあ先日もクラブ公式から選手の退団がリリースされてましたけど、ああいうのも選手の都合だったりでその都度という感じなんですか。
「そうです。アマチュアだから、選手は自分で線を引くしかないわけですよ」
――もうそろそろ引退かな、みたいな。
「そう。だから、こちらから選手の引退を決めるようなことはないんです。プロだったら、契約交渉の際に0円提示されて他に行き先がなかったら引退ということになるけど、アマチュアの場合はそういうのがないので、どこかしら行けるわけですよね」
――今マッチャモーレに所属している選手たちは、どういう仕事をしているんですか。
「介護の仕事とか、みなさんフルタイムで働いてますね。プロサッカー選手は1人もいないです」
――ノジマステラ神奈川相模原は、WEリーグになる前は会社員で、みんなノジマという勤務先の同僚だったけど、マッチャモーレでは仕事もバラバラの人たちで構成されるチームで。
「そう。だから逆に、本当にサッカーが好きじゃないと続けられないでしょう。それはすごいなと思いますよね」
――ちなみにマッチャモーレの最年長と最年少はおいくつなんですか。
「いちばん下は、この春に高校を卒業して、4月1日から新入社員になる選手ですね」
――高校生も登録できるんですか。
「できます。ただ、高校のサッカー部に所属していてはダメなので、引退してからですよね。だからその選手が最年少で18歳。一番上は、37歳。小学校の先生です」
――みんなバラバラの仕事でそれぞれの疲れ方をしてお休みもバラバラなのに、いろんな年齢の人が集まって1つのチームになるんですよね。
「そうなんです。それはやっぱりすごいですよね」
「趣味でやってる選手もいて、温度差はすごくある」
――キャプテンは監督が決めるんですか。
「代表と僕の2人で決めます。『彼がいいんじゃないですかね』という感じで」
――どんな人を選ぶんですか。
「1つは、なるべく若い選手を選びました。ベテランは37歳と、35歳があと2人いるんですね。彼らにはサポートしてくれと。若手をキャプテンにして、中堅の選手を副キャプテンにしたところで、若い彼らをベテランのお前たちがサポートしろよ、という形で。そういう意味合いを込めて人選しました」
――カマタマーレやノジマステラの頃とは、マネジメントも全く違うわけですね。
「うん、全く違いますね。目標として本当に関西リーグに行きたい、JFLに行きたいっていう選手もいれば、ただ趣味でやっている選手、人に誘われたからやっている選手と、モチベーションもいろいろなんですよ。で、それをどう1つのチームにまとめていくんだ、というのが一番難しいですよね」
――でも、試合に出る以上は勝ちたいわけですよね。みんな。
「うーん…だと思いますよ。多分」
――ゲームである以上は勝利を目指さないと成立しないでしょう。
「でも、趣味でそれをやっている選手もいるわけですよね。温度差はすごくあります。だから、ミーティングの時にその温度差を合わせようとして、立場と責任という話はしましたよね。チームの中で自分はどんな立場か、と。試合に出られる、出られないという、そこはプロと同じだと思うけど。じゃあ試合に出られなくてもこのチームにいる意味って何なの、という話は、ミーティングでしました」
――起用する選手はどういうふうに選ぶんですか。コンディションですか。
「例えば学校の先生は、いまの時期、生徒の成績表をつけるのに忙しくて練習に来れない、とかあるわけですよ」
――そうか、練習に来れないという状況があるんだ……。
「そうですよ。びっくりするのが、練習に来れるか来れないかの出欠を取ってるわけですよ。いままでの僕の感覚からしたら、練習に来るのって当たり前じゃないですか。最初は衝撃的でしたね。で、まあ、来る選手は大体決まってるんですけどね。来れない選手もいると。本当は出欠確認なんてやらなくてもいいんだけど、やっぱり休む選手も多いので」……
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Profile
ひぐらしひなつ
大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg