アジアカップからスタッド・ランスに帰還後、伊東純也は変わらずチームの核として全6試合で先発出場を続けている。先週末のリーグ1では決勝点となる12戦ぶりのゴールを記録するなど、本来のプレーを取り戻しつつある現状とともに、今回の日本代表メンバー外に対する人々の反応を、現地フランスで小川由紀子さんが取材した。
スタンドから盛大な「JUNYA ITO」コール
3月17日に行われたリーグ1第26節のメス戦、スタッド・ランスは伊東純也のスーパーゴールが決勝点となり、2-1で勝利。貴重な勝ち点3を手にした。
開始3分に先制しながらもすぐに同点とされ、早い時間帯から膠着状態が続いた試合で79分、待望の勝ち越しゴール。起点を作ったのは、73分から投入された中村敬斗だった。彼が相手MFの足下から巧みに奪い取ったボールを、ドルトムントのユース出身で昨夏ブライトンから加入したMFレダ・カドラにパス。カドラのボールを受けた韋駄天は、電光石火のスピードでボックス内に切り込むと、マークしてきた相手をかわして右足を振り抜き、ゴール左隅にシュートを突き刺した。
これは、2024年に入って最初のホームでの白星という、ファンにとって待ちに待った勝利だっただけでなく、現実的な価値も非常に大きかった。インターナショナルブレイク明けの次節(3月30日)で対戦するリヨンが勝ち点1差に迫っていた中、その10位との差を4に広げることができたからだ。
決勝弾だけでなく、相手選手の股下を抜くクロスやゴール前の密集地に切り込む勇敢なペネトレーションなど再三チャンスを作り出した伊東はこの試合、紛れもなくピッチ上で一番危険な存在。試合後、スタンドからは盛大な「JUNYA ITO」コールが巻き起こり、ロッカールームでのお祭り騒ぎも、長い通路をまたいで取材エリアまで聞こえてくるほどだった。
ウィル・スティル監督は「彼自身、自分がチームでやるべきことについて自覚している。今日の試合ではそれが形になった。今日のような重要な試合に勝つ上で、彼は非常に重要な選手だ」と、絶大な信頼を置くエースを称賛。記者たちもみな伊東の劇的なゴールに興奮気味で、試合後は彼の話題で持ちきりだった。
チームも伊東も「まったくなんの問題もない」と指揮官
このメス戦はちょうど、今回の代表戦への招集が見送られた直後のタイミングだっただけに、伊東のプレーからは“己の力を思う存分発揮してやろう”という気概のようなものが感じられた気もした。その勇姿を見た人は誰もが、彼が日本代表に必要な選手だということを実感したことだろう。
と同時に、週刊誌での報道に端を発した刑事告訴事件の後、彼が本来のプレーを取り戻していることをうれしく感じている人も多いと思う。それが実現する上で、スタッド・ランスはおそらくとてもいい環境だった。
アジアカップ後の最初の試合となった2月11日のロリアン戦の後、取材に応じてくれた中村は「戻ってきた時にチームメイトがいい雰囲気で迎えてくれて、“Welcome back!”みたいな感じだったのがうれしかった」と顔をほころばせたが、その一言を聞いただけで、伊東がこの一件の後、ごく自然にチームに復帰できたことが予想できた。
スティル監督にも伊東の周辺の様子を尋ねると「(チームメイトには)まったくなんの影響もないし、みんな彼の帰りをとても歓迎している。だからチーム内ではまったくなんの問題もない。ここでプレーしてくれる限り、彼は我われにとってとても重要な選手だからね」と、いつも通りのトーンで答えが返ってきた。
伊東はその試合に先発フル出場したが、こちらが“心身ともにダメージがあったのかな”というフィルターをかけて見ていたせいか、体つきも前よりほっそりしていて、いつもより覇気がない気がした。しかし監督は「痩せた? いや、そんなことはない。少しの間プレーしていなかったから、若干リズムは欠いているけれど、それを除けばまったくなんの問題もない」とケロリとしていた。
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Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。