3月10日、安部柊斗が所属するRWDモーレンベークが、アンデルレヒトに0-3で敗れてリーグ戦14位以下が確定し、残留プレーオフへの進出が決定した。昇格から1年での降格の危機に瀕している。
「アンデルレヒトとユニオンのケツを蹴る」と豪語
2022-23シーズンのチャレンジャーズ・プロリーグ(ベルギー2部リーグ)で優勝したモーレンベーク。ブリュッセル首都圏のモーレンベーク地域圏を本拠地とし、1970年代にはアンデルレヒトと覇権を争った歴史を持つ名門クラブが、前身のFCブリュッセルが2010年に在籍して以来、13年ぶりに1部リーグに復帰した。
モーレンベークはアメリカ人実業家ジョン・テクストル氏が保有する『イーグル・フットボール・ホールディングス』の傘下に加わっている。同氏はイングランドのクリスタルパレスの共同オーナーでもあり、ブラジルのボタフォゴとフランスの名門リヨンも傘下に入れている。
ベルギー紙『Le Soir』によると、1部昇格後、テクストル氏は「今度はアンデルレヒトとユニオン・サン・ジロワーズのケツを蹴っ飛ばして、ベルギー王者になる」と豪語。さらに「ベルギー人主体のチームを作る」と明言していた。
開幕5日前に監督交代
しかし、開幕5日前に、昇格に導いたバンサン・ウブラール監督を解任。後任にはボタフォゴで監督代行を務めていたブラジル人のクラウディオ・カサパが就任した。
開幕直前の監督交代劇はうまくいかず、今季はここまでわずか5勝。開幕直後から残留争いに巻き込まれた。2024年に入ってからは勝ち点2しか得られておらず、2月11日にカサパを解任。フランス人のブルーノ・イルレス監督が就任したが、チーム状況は回復することなく、第29節時点で勝ち点23の15位に低迷している。直近の試合では、残留を争っている14位オイペンと15位コルトレイクに敗れ、13位OHルーベンには引き分けており、チーム状況は最悪だ。
ブリュッセルのライバル、ユニオン・サン・ジロワーズには2試合とも2-3で、アンデルレヒトには1-2、0-3で敗れ、ブリュッセルダービーは全敗を喫している。シーズン前に豪語していたテクストルは笑いものにされているのが現状だ。
呆れ返るサポーターたち
近年のベルギーリーグでは、昇格組が健闘する傾向にある。代表的なのは2021-22シーズンのユニオン・サン・ジロワーズで、デニズ・ウンダブ、三笘薫らの活躍で首位を独走していた。2部で優勝した勢いと組織力の高さが昇格後も通用する傾向にあり、近年では2020-21シーズンのベールスホット、OHルーベン、昨季のウェステルロなども当てはまる。
しかし、シーズン開幕直前に監督交代したモーレンベークには当てはまらなかったようだ。補強もベルギー人を5人獲得したが、エース格のザカリヤ・エル・ウアディをヘンクに放出したのをはじめ、5人を放出。さらにリヨンやボタフォゴからフランス人、ブラジル人選手を多く獲得しているため、シーズン前の「ベルギー人主体のチームを作る」という約束は果たせていない。
この状況にモーレンベークのサポーターは呆れ返っている。サポーターたちにとっては、アメリカ人オーナーの発言は、公約を全く果たせない「空虚なポピュリスト」の約束にしか見えない。今月末からは下位4チームによる残留プレーオフが始まり、下位2チームが2部降格になる。成績が伴わず、信頼関係も壊れてしまったモーレンベークは、風前の灯だ。
Photo: Getty Images
Profile
シェフケンゴ
ベルギーサッカーとフランス・リーグ1を20年近く追い続けているライター。贔屓はKAAヘントとAJオセール。名前の由来はシェフチェンコでウクライナも好き。サッカー以外ではカレーを中心に飲食関連のライティングも行っている。富山県在住。