どれだけ戦術が発展を遂げても、ゲームの主役を演じるのは常にプレーヤーだ。サッカーがいかに組織化されようと、そこで図抜けた速さ、パワー、高さなどを駆使できる個の能力は有効であり続ける。「ポジション」という概念そのものの流動化、そして選手のアスリート化が急速に進む中で、未来のフットボーラー像に思いを馳せた。
※『フットボリスタ第100号』より掲載。
唯一フィールド内で手を使える競技者、1人だけ他の選手と識別できるユニフォームを着用し、いないとルール上試合が成立しない。GKはフットボールにおける例外的なポジションだ。そして最も進化したポジションでもある。
フィールドプレーヤー化は止まらない 普通に得点しアシストするGKも?
一番の変化は手を使わないプレーが激増したこと。今日のGKはどんどんフィールドプレーヤーに近づいている。浅いラインの裏のスペースをカバーする「スイーパーGK」は当たり前。ビルドアップの中継点となるばかりか、CBと並ぶ形でパスワークに参加する「偽GK」も珍しくなくなってきた。1980年代当時は珍種扱いだったレネ・イギータは、今にして思えば現代GKの源流だったわけだ。
ダイナミックに変化してきたGKの歩みがここで止まるとは考えにくい。どんどんフィールドプレーヤー化してきたGKが、この先どこまでプレーエリアを広げていくのか。現時点ではおよそハーフウェイラインまでだが、それで済むとは到底思えない。そもそもイギータやジョセフ・アントワーヌ・ベルなどの前例がすでにあるのだ。GKがストライカーになる日も来ないとは言えない。
通算100得点以上を記録したロジェリオ・セニは主にFKとPKからのゴールだったが、流れの中からもコンスタントに得点を決めるGKはおそらく現れるだろう。そして、それ以上に多くのアシストを記録するGKが出てくる。
11人を敵陣に投入する最大限の攻め込みを想定した場合、オフサイドラインはハーフウェイラインになる。そこに居残る相手のFWを警戒する役割がGKである必要はない。そこは俊足でハードマークのできる他の選手に任せ、GKはよりゴール近くへ進出する可能性があるわけで、そうなると得点やアシストで貢献するGKは不自然ではないのだ。
もともとGKはフィジカル能力が非常に高い。懸念されるのはスタミナだけだが、それを除けばスピード、ジャンプ力、パワーでフィールドプレーヤーを軽く上回っていて不思議ではない。自陣ゴール前だけでなく、相手ゴール前でもその能力を発揮するようになるのではないか。……
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。